あなたは、「知能とは何か」と聞かれて答えられるか

(前回:「頭が悪い」は自己分析ではなく思考停止だ

「あの人は知能が高い」。平気で口にするわりに、では知能とは何かと聞き返されたら、たいていの人は黙る。

専門家はどう答えているか。デラウェア大学のゴットフレッドソンの報告書に、52人の研究者が賛同して署名した定義がある。いわく、知能とは「とても一般的な心の能力」。

……え、それだけ? と思った人は正しい。52人も集まってそれか、と言いたくなる。

ただ、この素っ気ない1行のキモは「一般的」にある。算数だけ、言語だけ、記憶だけ、ではない。あらゆる場面にまたがって働く基礎の力、という意味だ。

初めての問題にぶつかったとき、状況を整理し、筋道を立て、次の一手を組み立てる。異世界に放り込まれたラノベの主人公が、最初の数ページでやっていること。あれである。

中身は7つ。推論する、計画する、問題を解決する、抽象的に考える、複雑な考えを理解する、素早く学ぶ、経験から学ぶ。これらは別々に働くわけではない。初めて任された仕事を思い浮かべてほしい。まず状況を理解し、何から手をつけるかを計画する。途中で問題が起きれば、原因を考えてやり方を直す。うまくいったことと失敗したことを覚えておけば、次は速い。7つは同時に回っている。

で、私がこの定義でいちばん気に入っているのは、じつは「含めないもの」を決めた点だ。知能は、単なる勉強量でも、狭い学力でも、テストでのカンの良さでもない。知能検査は一般的な能力をよく測れるが、創造性や性格、人格を測るためにはつくられていない。そう線を引いている。

これが大きい。知能の話は放っておくと、努力も根性も優しさもセンスも、全部乗せの丼になる。「あいつは頭がいいから」で何もかも説明した気になる、あれだ。全部乗せは、食べ終わっても何が入っていたのかわからない。知能は知能。ほかの力は、ほかの力。分けて初めて、自分が何を伸ばしたいのかが見えてくる。

話を戻す。では、知能の内側はどうなっているのか。心理学者のカッテルは、中心に2つの一般能力があると考えた。「流動性知能」と「結晶性知能」である。

カッテルは中学1~2年生277人に、性質の違う2種類のテストを受けてもらった。1つは、言葉の知識や学校の勉強にあまり頼らず、図形の規則や関係を読み取るテスト。もう1つは、言語や推理、数のように、学習の積み重ねが結果に出やすいテストだ。

分析すると、前者は初めての問題でも筋道を見つけて解く力、つまり流動性知能に、後者は学んできた知識や技能を使う力、つまり結晶性知能に、それぞれまとまった。初見のダンジョンを突破する力と、周回で貯め込んだ装備と攻略メモ。そう読み替えれば早い。

しかも2つは別の力でありながら、一定のつながりがあった。理解する力で知識を貯め、貯めた知識が次の理解を助ける。回り始めれば加速する循環である。

一般に、流動性知能は若いうちに伸びやすく、結晶性知能は年齢を重ねても伸び続けるといわれる。ならば「もう歳だから」は通らない。初見の反応速度で勝てなくなったら、装備と攻略メモで殴ればいい。ベテラン冒険者とは、そういう生き物だ。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

科学的に証明された 頭のいい人が習慣にしている 学び方の戦略』(堀田秀吾 著)アスコム

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  42点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  21点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【83点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
・全体のまとまりと構成:「頭の良さとは何か」という問いから出発し、多重知能、共通の力、知能の定義、流動性知能と結晶性知能へと段階的に論を進めている。各章の役割が明確で、全体を通した一貫性は高く評価できる。

・エビデンスの充実:ガードナー、ウォーターハウス、ヴィッサー、スピアマン、ゴットフレッドソン、カッテルと、主要な研究を所属や対象人数まで押さえて紹介している。理論への批判も併記しており、裏づけは申し分ない。

・読者への実用的な着地:理論の紹介で終わらず、「自分に合った入口を探す」「2つの知能に役割を分担させる」といった学び方の指針に落とし込んでいる。「頭が悪いから」とあきらめている読者への訴求力がある。

【課題・改善点】
・分量の過多:370ページは一般読者には重い。250ページ程度に圧縮したほうが読みやすく、主張も伝わりやすい。

・エビデンスの押さえすぎ:裏づけの厚さは長所だが、一般書としてはここまでの押さえは不要である。研究紹介を絞り込めば、読者は本筋を追いやすくなる。

・昨今の大部化傾向との共通課題:情報を網羅するほどページ数が膨らみ、読了のハードルが上がる。本書に限らず、近年のページ数が多い本に共通する課題である。

■ 総評
「知能とは何か」という捉えにくい主題を、多重知能や流動性知能・結晶性知能などの研究に沿って整理し、読者が自分の学び方を選び直すところまで導く1冊である。全体のまとまりと構成は高く評価でき、エビデンスも申し分ない。ただし一般読者にここまでの押さえは不要で、370ページの分量が読みやすさを削いでいる。250ページ程度に圧縮すれば主張はより鮮明になる。昨今のページ数が多い本全般に申し上げたい点である。

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