AIはどこに置かれているのか:データセンターをめぐる電力・水・情報の攻防

AIの「頭脳」ともいえるデータセンターが、世界各地で急増している。データセンターとは、コンピューターや大量のデータを集中的に処理・保管する施設だ。生成AIの普及で、巨大な計算能力を持つ施設が次々と必要になっている。

英国では、ロンドン西部郊外にあるスラウがその象徴だ。データセンターが31施設集まり、合計約1ギガワット規模の容量を持つ。これは原子力発電所の原子炉1基分の出力にほぼ匹敵する。

英国全体で電力網への接続を申請しているデータセンターは約140件、合計約50ギガワットに上る。英国の最大電力需要は約45ギガワットのため、すべての設置が実現するわけではないにせよ、データセンターの計画だけで現在の需要を上回る規模になっている。

データセンターは大量の水を冷却に使い、広大な土地を必要とする。しかも一度建設すれば、地域の電力網や水資源を長期にわたって占有する。

その設置場所をめぐって、英国や欧州で摩擦が広がっている。

オランダ

その一例が、オランダの町ゼーウォルデだ。人口約2万3000人のこの町に建設予定だったメタ(当時フェイスブック)のデータセンターは、アムステルダム一都市に匹敵する電力を消費する規模だった。

メタは2019年から、計画を「チューリップ」というプロジェクト名で進め、地元議員らには企業名を明らかにしないまま交渉を続けた。メタの計画であることが明らかになったのは、議会の最終判断を目前にした2021年11月末だった。

同年12月、地元議会はデータセンター建設を可能にする土地利用計画の変更を11対8で承認した。だが反対運動が拡大し、2022年3月末に計画は凍結、7月にメタは建設を断念した。巨大な投資をめぐる最初の問題は、電力以前に情報公開だった。

オランダでは同じ時期、大規模施設への反対世論が高まっていた。政府も2022年2月、大規模施設の新規許可を国全体で一時停止する措置に踏み切っている(ゼーウォルデの計画自体はこの対象外とされた)。その後、70メガワット以上かつ10ヘクタール超の大規模施設については、国が立地を規制する仕組みが導入された。

ただ、規制の対象を外れる形で計画を進める余地は残っていた。2025年末から市民団体が問題を提起し、今年1月の報道で、マイクロソフトがアムステルダムで進めていた計画の実態が明らかになった。

近隣ハールレム市の全世帯分に相当する電力を使う3棟のタワー(合計出力78メガワット)を別々の施設として申請したことで、建築面積は合計2.2ヘクタールにとどまり、国の規制が定める10ヘクタールの基準を下回った。その結果、国の大規模施設規制の対象とはならず、認可を得ていた。

デンマーク、スペイン

デンマークでも、データセンターなど大規模施設から送電網への接続申請が約60ギガワットに達したのに対し、実際の電力需要は約7ギガワットにとどまるとして、送電網運営者が新規接続を一時停止する事態になった。
停止は6月に解除されたが、「先着順」の原則から離れ、案件の成熟度や送電網への適合性などを基準に優先順位をつける新方式が示された。この新方式が適正かどうかは、規制当局が現在も審査を続けている。

スペインでは、水の要素が加わる。

北東部アラゴン州でクラウドサービス「AWS」を展開するアマゾンは、データセンターの電力使用量を100%再生可能エネルギーで賄い、2030年までに「ウォーター・ポジティブ」、つまり使う水より多くの水を地域社会に還元する目標を掲げている。

ところが、新設予定の3施設だけで地域全体の現在の電力消費量を上回る需要が見込まれ、既存の3施設については、水の利用可能量を48%増やす許可を申請した。

2025年には、流出した内部文書から、アマゾンが2021年に使用した水について、発電に伴う「二次的な水使用」を含めると105億ガロンに達していた一方、AWSが「ウォーター・ポジティブ」の進捗管理で使っていたのは、データセンターで直接使用する77億ガロンだったことが明らかになった。アマゾンは文書について「時代遅れ」と反論した。

こうした電力や水をめぐる制約を背景に、AI向けの大規模施設は従来以上に広い土地と大量の電力を必要とするため、土地や送電網に余裕のある地域へ進出する動きが強まっている。

米不動産サービス大手JLLによれば、2026~28年に計画されている分で、欧州の主要なデータセンター拠点から平均175キロ離れる見通しだ。2022~25年に完成した施設では平均46キロだった。

従来の拠点が縮小するのではなく、AIによる巨大な電力需要を背景に、新たな立地がその外側へ広がっている。グーグルが今年4月に着工したオーストリア初のデータセンター(オーバーエスターライヒ州クロンストルフ)も、その一つだ。

米国

米国では、さらに規模が大きい。データセンター向けのガス火力発電の開発計画は、2026年上半期にほぼ倍増し、189ギガワットに達した。米国で開発中のガス火力発電全体では378ギガワットに上る。

テキサス州では、送電網運営会社への接続申請が474ギガワットに急増しており、その大半をデータセンター関連が占めるとされる。同州では、データセンターと、その電力を賄う自家発電用ガス設備を一体で開発する約7.7ギガワット規模のプロジェクトも認可されている。

巨大な電力需要を見込んで、原子力発電所との長期契約など、従来とは異なる電源確保の動きも始まっている。メタも2035年までに最大6.6ギガワットの原子力発電による電力を確保する計画を進めている

リスクの査定は

データセンターの建設は、電力、水、土地、送電網など、地域が共有する資源の使い方を変える。だからこそ、その規模や影響を誰が検証し、どの段階で地域社会が判断に関われるのかが問われる。

そのためには、企業から示される情報を受け取るだけでなく、それを検証し、必要なら立ち止まって判断できる規制の仕組みが必要になる。

元欧州議会議員のマリエッチェ・スハーケ氏は著書「テクノ・クーデター」で、規制当局の技術的知見の不足や、テック企業の強力なロビー活動を問題として指摘している。EU法に盛り込まれた「予防原則」は、科学的な確実性が十分でなくても、重大なリスクが予想される場合には事前に対策を取ることを認めている。

「テクノ・クーデター」(早川書房)

AIの時代は、技術の成長と同時に、その背後にある資源配分のあり方を問い始めている。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年9月19日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。

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