国谷裕子さんはなぜ総長の「逆転人事」についての質問で言葉に詰まったのか

東大総長選考会議の国谷裕子議長の記者会見が話題を呼んでいる。「得票数の一番高い人ではなく藤垣さんが選ばれた理由は何か」という質問に一瞬かたまり、そのあと原稿を読んで「壁を乗り越える力」などと言葉に詰まりながら話したが、「本当の理由はそこじゃない」と顔に書いてある。

国谷さんは私の元同僚だが、打ち合わせでも細かい話まで突っ込んで「資料はないか」などというタイプである(私は本を1冊貸したままだ)。こんな美辞麗句でダブルスコアの点差をくつがえすはずがない。

「女性・リベラル」という結論は最初から決まっていた

選考会議のメンバーは16人だが、外部委員8人のうち6人が女性で、国谷議長は自然エネルギー財団の理事をつとめるリベラルである。この人選は現在の藤井総長がおこなったもので「女性・リベラル」という結論は最初から決まっていたらしい。

本当の争点は工学部の総合研究奨励会をめぐる横領事件だが、学内の関係者によると、あの話は最初は封印することになっていたようだ。あれを持ち出すと工学部から誰も出られなくなり、副学長(研究倫理推進室長)だった藤垣氏も責任を問われる。

不祥事の学内調査は、総長選挙と並行して進んだ。7月10日に総合研究奨励会の元事務局長は解雇され、9月1日に奨励会が警察に被害届を出し、年度内に解散することを決定した。これが第2次投票と重なっている。

その後、2回の意向投票で候補は3人に絞られたが、最終段階で染谷氏が藤垣氏の2倍の得票だったため、総長選考会議は8時間に及ぶ大激論となった。

学問的業績では染谷氏が圧倒的に優位であり、藤垣氏には学術論文と呼べるものがほとんどない。基礎票も理系のほうが多く、染谷氏によほど大きな失点がないと逆転できないので、学内左派が持ち出した「秘密兵器」が工学部の不祥事だった。

総長選考会議で8時間も何を議論したのか

議論の中身について国谷さんはまったく語らないが、想像するとこんな感じではないか。

 学部委員:染谷さんが過半数なので、これを結論としたい。
 外部委員:総合研究奨励会の件はどうなっているのか?
 学部:それは総長選考とは無関係という前提で選考を進めてきた。
 外部:しかし奨励会は警察に被害届を出した。これは刑事事件になる。
 学部:それを問題にしたら、研究倫理担当の藤垣副学長も責任者だ。
 外部:染谷総長で刑事事件になったら、国際卓越研究大学はパーだ。
 学部:それは藤垣総長でも同じだ。

会議で8時間ももめるというのは、いかに日本の大学の教授会が非効率でもありえないことで、こういう押し問答が繰り返されたと思われる。これはあくまでも想像で、逆に学部側が文系の総長を出すために不祥事を持ち出した可能性もある。

学問政治で生き延びるリベラルの「最後のあがき」

いずれにせよ選考会議の大部分は、不祥事のリスクをどう評価するかに費やされたと思われる。これが刑事事件になると、東大の問われているガバナンスの問題に発展することは必至で、国際卓越研究大学の認定は絶望的である。

関係者によると今回の最大のサプライズは、かつて日本の思想界を指導した東大のリベラルが、全力を結集しても工学部の半分しかいなかったことらしい。その意味では、きょう特殊法人になった学術会議と同じくリベラルは終わっているのだが、今回の総長選は学問政治を駆使して生き延びる「最後のあがき」だった。

リベラルが自壊するのは世界的な現象だが、その背後にはどんな時代の変化があるのか。リベラルが再生する道はあるのか――明日からのアゴラセミナーでは、そういう問題を考えてみたい(まだ申し込み受け付け中)。

 

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