東大総長選挙の「大逆転」の本当の原因は9000万円横領事件の「身体検査」

東京大学の次期総長選考は、異例の大逆転となった。教職員による意向投票では、工学部の染谷隆夫教授が第2回投票で51.0%を獲得し、藤垣裕子教授は25.5%だったが、その日の総長選考・監察会議が選んだのは藤垣氏だった。意向投票1位ではない候補が総長になるのは戦後初である。

この結果については「初の女性総長ありきだったのではないか」という批判が噴出しているが、もっと現実的な理由がある。工学部と密接な関係にある一般財団法人「総合研究奨励会」で発覚した約9000万円の横領事件である。

染谷氏が代表理事だった法人で10年間の横領

総合研究奨励会は、工学系研究科と連携し、研究会の運営、資金管理、人材派遣などを行ってきた東大の関連法人で、東大の連結財務諸表にも入っている。

今年7月、同会は元業務執行理事・事務局長が2016年度から2025年度にかけ、自ら代表を務める別法人に「再委託費」の名目で合計約9000万円を支払っていたと発表した。

契約書はなく、再委託された業務の実態も確認できず、資金の大部分が元事務局長本人の役員報酬や海外出張費などに使われたという。同会は業務上横領または特別背任に当たる疑いがあるとして警察にも相談している。総合研究奨励会

重要なのは、この事件の期間中、染谷氏が総合研究奨励会の代表理事を務めていたことだ。彼は2020年4月から2023年3月まで工学系研究科長・工学部長だった。東大の連結財務諸表や同会の2023年度資料にも、染谷氏が「代表理事」として記載されている。東京大学

ただし染谷氏自身が約9000万円の不正に関与したという事実は確認されていない。 不正行為を行ったとされるのは元事務局長だが、問題は代表理事の監督責任である。

問われるのは東大工学部のガバナンス

この事件を受け、総合研究奨励会は9月1日、それまでの理事と監事を全員退任させ、弁護士など外部人材を中心とする役員体制に入れ替えた。

同会自身が、不正の背景について「長年の慣行となってきた『仕組み』に構造的問題があった」と認め、理事会の監督機能強化、利益相反取引の管理、職務権限の分離などを再発防止策として掲げている。総合研究奨励会

東大も年度内をめどに同会を解散する方針を示した。文科省も一連の不祥事について「組織の危機意識の欠如」「縦割り・閉鎖的風土」を課題として挙げ、東大のガバナンス改革を注視するとしている。文部科学省

これは総長選考にとって小さな話ではない。そもそも今回の「求められる総長像」には、「高潔な人格と高い倫理観」に加え、大学を取り巻くリスクに主導的に対応する「ガバナンス能力と実績」が明記されている。東京大学

刑事事件になったら染谷氏の監督責任はまぬがれない

では、なぜ染谷氏は意向投票で51%もの支持を得たのか。この横領事件は7月と9月に報道されたが、染谷氏との関係は報じられなかった。ほとんどの教職員は事件を知らずに投票したものと思われる。

しかし総長選考・監察会議には学外委員も入り、東大全体の信用やコンプライアンス、国際卓越研究大学の審査まで考えなければならない。そこで評価軸が変わったと考えれば、1107対553という大差がひっくり返ったことにも一応の説明はつく。

実際、9月28日の選考会議は午後1時ごろから午後9時ごろまで約8時間に及び、候補者ごとの「強み、弱み」を議論し、無記名投票による意思確認を繰り返したという。染谷氏のリスクを重視する委員と「無関係だ」とする委員の対立があったものと思われる。

たとえ染谷氏が知らなかったとしても、9000万円の横領事件が刑事事件になることは確実で、すでに総合研究奨励会は警察に被害届を出している。元事務局長が起訴されると、工学部のガバナンスが問われ、その元責任者が総長だったら東大全体の問題になってしまう。

選考会議は議事録を公開して真相を説明せよ

選考会議の国谷裕子議長は藤垣氏を選んだ理由として、文理融合や学内外とのコミュニケーション、多様な知の発展などを挙げたが、抽象的で「大逆転」の理由としては弱い。当然「ジェンダー偏重の逆差別だ」という批判が集中した。

常識的には、過半数を得た候補をくつがえすには、よほど決定的な理由があるはずだ。それはジェンダーではなく、横領事件の責任者だった染谷氏が身体検査で引っかかったという説明の方が、はるかに説得的だ。

年末に卓越大学の審査のデッドラインが迫る東大が、厳格に身体検査することは合理的だが、問題は選考会議がなぜその事情を説明しなかったのかということだ。ここに書いたことはすでに東大が公表した事実であり、刑事事件になったら染谷氏との関係が問題になることは確実で、隠し通すことはできない。

文科省も経緯は知っているのだから、隠蔽するとかえって卓越大学の審査が危なくなるのではないか。選考会議は議事録を公開して記者会見を開き、本当の原因を説明すべきだ。そうしないと藤垣新総長は「ジェンダーで下駄をはかされた」という不名誉を今後6年間、背負うことになる。

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