ロシアが「核使用の可能性」をNATOに通達

ロシアは冷戦後初めて北大西洋条約機構(NATO)に対し核兵器による威嚇を公式に行った。ロシアはハイブリッド攻撃で欧州によるウクライナ支援を阻止させようと腐心してきたが、大きな成果はなかった。モスクワは今日、核兵器による威嚇という手段に訴えようとしているという。核兵器の投入発言はメドベージェフ前大統領やプロパガンダの担い手によってこれまで頻繁になされてきたが、今回は公式のルートを通じて発信されたのだ。

ロシア連邦議会第9期国家院の初会合で演説を行うプーチン大統領、クレムリン公式サイトから、2026年9月30日

ロシアはNATOに対し、バルト海に面した飛び地であるカリーニングラードを孤立させようとするならば核兵器を使用すると警告した。これは、モスクワからNATOに送付された非公式な外交文書に基づくものだ。同文書の中で、「NATOは危険かつ無謀な路線を突き進んでいる」と非難し、それが直接的な武力衝突を引き起こす高いリスクを孕んでいると主張している。もしNATOが何らかの形でカリーニングラード地域を孤立させようとすれば、ロシアは防衛のために保有するあらゆる戦力を投入する構えだ、と非公式にNATO側に通達したというのだ。

クレムリンは、カリーニングラードを巡りNATOに警告を伝達したことを認めた。大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、「欧州の血気盛んな連中に対し、ロシアの基本的な立場を再認識させるためだ」と説明した。

ちなみに、カリーニングラードは、ロシアにとって「ヨーロッパの喉元に突き刺さったナイフ」とも評される、極めて重要な軍事的拠点だ。バルト海に面した不凍港を有し、バルト艦隊の本拠地がある。プロイセン王国の中心地だった時はケーニヒスベルクと呼ばれ、哲学者イマヌエル・カント(1724~1804年)が生まれ、生涯そこに住んでいた街として知られている。そして1945年のナチス・ドイツ敗北後、ポツダム会談によってこの地域はソビエト連邦(ソ連)に割譲されることがなった。そして名称はカリーニングラードに変更されて今日に至る。

隣国のリトアニアとポーランドが2004年にNATOに加盟し、さらに近年フィンランドとスウェーデンも加盟したため、カリーニングラードは完全にNATO加盟国に包囲された状態にある。ロシアにとっては、敵陣の真ん中にある「最前線基地」というわけだ。

ロシアはここに、核弾頭も搭載可能な高性能弾道ミサイル「イスカンデル」や、最新の防空システムを配備している。ここから発射すれば、ベルリンやワルシャワ、コペンハーゲンといった欧州主要都市を数分で射程に収めることができるため、NATOにとって最大の脅威だ。

NATOのアリソン・ハート報道官は、ロシアから当該書簡を受け取ったことを認めた。NATO側は、「自らの活動がロシアの領土に対する脅威となるものではない」と明言する回答を行っている。同時に、武力による威嚇や無責任な核に関する言説を強く非難し、ロシアに対し「ウクライナにおける不当な戦争を終わらせる」よう求めたという。いずれにしても、ロシアが冷戦後、NATOに対し核兵器の使用を示唆する脅迫を通達したのは今回が初めてだ。

プーチン大統領は2022年9月21日、部分的動員令を発する時、ウクライナを非難する以上に、「ロシアに対する欧米諸国の敵対政策」を厳しく批判、「必要となれば大量破壊兵器(核爆弾)の投入も排除できない」と強調し、「This is not a bluff」(これはハッタリではない)と警告を発したことがある。

NATOに対する非公式な警告に加え、少なくとも3つの欧州諸国にあるロシア大使館が同時期、同様の声明を発表している。これらの声明は、NATOが軍事演習やカリーニングラードを絡めたシナリオの策定を通じて緊張を激化させていると非難する内容だ。

参考までに、2023年8月に入ると、プーチン大統領は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノヴァヤ・ゼムリャ島(Nowaja Semlja )で1990年以来初めての核実験を実施するのではないか、という懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれたことがある。実際、ロシア国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される。ノヴァゼメリスキー試験場(The Novozemelsky test range)は常にその準備を保ってきた」と説明している。

ロシアの核の威嚇に対し、NATOマルク・ルッテ事務総長は9月30日、ブリュッセルで開催されたユーロニュース防衛・宇宙サミット2026で記者団に対し、「ロシアの核兵器使用の脅威を真剣に受け止めていない。クレムリンは、放火やその他の破壊工作によって恐怖を煽り、ウクライナへの支持を低下させられると考えてきたが、その目論見は実現しなかった。ロシアが欧州で展開しているハイブリッド攻撃の作戦は失敗に終わった」との見解を示した。その上で、NATO加盟国に対し、「冷静さを保ち、取り組みを継続し、ウクライナを支援しよう」と強調している。

なお、ルッテ氏は、NATOが統合防空・ミサイル防衛体制を強化し、「ドローン・エッジ(Drone Edge)」などの取り組みを通じてドローンへの対処態勢を適応させていると述べた。また、バルト海におけるNATOのプレゼンスやリトアニアに展開する前方展開陸上部隊(Forward Land Forces)の重要性を強調し、これら部隊の受け入れ拠点となるルードニンカイ演習場への投資を歓迎した(NATO公式サイトから)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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