社長の一言が企業価値を毀損してしまう可能性 --- 山口 利昭

アゴラ編集部

すでにご承知のとおり、10月20日、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ社の社長さんが、twitter上で暴言(らしき)言葉を思わず吐いてしまった、として話題になっております。1000円の商品に750円もの商品配送手数料がかかるのは法外ではないか? 詐欺ではないか? との利用者のつぶやきに

詐欺??ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれてんだよ。お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ。


と反論した、というもの。そもそも会社にも顧客を選ぶ権利はあるわけですから、合理性のない要望を行う顧客に対して丁寧かつ明確に「もうご注文はなされないでください」とお願いすることはできるはず。しかし、SNSという公的な空間で、しかもかなり辛辣な言葉で反論をした、となりますと、やはり世間が上場会社の社長のつぶやきを批判をすることも当然かと思います。社長の辛辣な言葉に幻滅したのか、それとも社長の言葉からビジネスモデルの将来に悲観したのかはわかりませんが、業績予想の下方修正と相まって、株価が一日で5%下落する、というのも頷けるところかと(ちなみに、その後、同社長はこのつぶやきについて謝罪をされた、とのことだそうです)。

ここまで急成長してきた会社ですし、上場の前後にわたり、海千山千の胡散臭い輩が社長に近づいてきたことは想像できるところであり、その中をかいくぐってここまで来られたわけですから、同社長のリスク管理能力はかなり高いものかと思います。そのような方が、誰かのつぶやきに、これほどまでに反応してしまった、というのはどうも解せないところではあります。そもそも社長さんは「暴言」だと思っていればつぶやかなかったのではないでしょうか。暴言にはあたらない、全うな正論だと考えたためにつぶやいたのかもしれません。ともかく、こういった社長の一言にマーケットが反応したとしても、その後の社長の反省の姿勢によって信用が回復され、再び株価が上がることで一件落着すれば、それでよいと思います。

しかし問題は、対外的なことではなく、社内的なところにあると私は考えます。社内的にはかなりマズイかな……と。こういった新興企業のオーナー社長は社員のあこがれの的です。社員は(良いところも、悪いところも)真似しやすいところから社長の真似をします。普段から社内的には辛辣な言葉で叱咤激励していた社長さんであったとしても、対外的にもこういった態度をとってしまいますと、「お! さすが社長! 俺がふだん言いたかったことをはっきり言ってくれたぞ。これでいいんだ」と今後の社員らの顧客対応にも影響が出てしまうのではないでしょうか。また、これまで顧客からクレームを出されても、「苦情は宝の山」と思って会社のためにがまんをして対応し、企業のブランドイメージを維持・向上させてきた社員たちにとっては、この社長の「顧客へのホンネ」が公開されたことで、いままでの努力が水の泡になってしまう気分になってしまいそうであります。この一件が、同社の平時の営業努力にどれほどの影響を及ぼすものなのか、とても不安であります。

こういった社長の一言で、対外的な企業価値の低下は回復できたとしても、社内的な企業価値の毀損はなかなか回復が困難ではないかと思います。有事に至った企業の経営トップが、顧客や消費者、監督官庁などのステークホルダーに対して、あえて反論のパフォーマンスを展開して従業員の士気を高める……という手法は過去に何度かみたことがありますが、社長自ら平時を有事に変えてしまうような発言は、これまであまり聞いたことがないパターンでありまして、今回のことで真っ先に謝罪をすべきなのは、むしろ社員に向かって、というのが正しいのかもしれません。よく「社長の暴走を止めるためのガバナンス」といわれますが、こういった暴走はちょっと止めようがないところが一番の問題であります。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年10月25日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。