沖縄で米軍兵が女性殺害し古謝知事と高市首相は試練に

沖縄県那覇市で女性が殺害され、アメリカ海兵隊の男が強盗殺人の容疑で逮捕された事件で、再び米兵犯罪の問題がクローズアップされている。

高市総理大臣も国会で、「極めて遺憾だ。アメリカ側に強く抗議し、再発防止を求めた」と述べ、捜査への全面的な協力、米軍関係者の綱紀粛正と事件の再発防止の徹底を強く求めた。

高市首相(首相官邸HP)と古謝沖縄県知事(Wikipedia)

この米兵の犯罪と、それと関連した地位協定の問題は、『誤解だらけの沖縄と領土問題』(清談社)でも取り上げたので、その一部を紹介する。

誤解だらけの沖縄と領土問題

米兵犯罪で「オール沖縄」が生まれる理由

沖縄の事件での報道やSNSでのやりとりを見ていると、本土の人は、なぜ沖縄の人があそこまで過激に反応するのかに戸惑っているように思うので、解説したい。

現地の怒りは、合理的な理解を超えるとみえるのも無理はない。たとえば、警官や自衛隊員でもこうした不祥事は起こすが、「警察消えろ」「駐屯地移転」とはいわないし、特定の在日外国人に凶悪犯罪が多いのは事実だが、「帰れ」というのはよほど極端なネトウヨだけだ。

それなら、どうしてあそこまで盛り上がるかといえば、米軍基地の存在について日頃は割れている沖縄の人々が、動機はさまざまだが、ひとつになって声を上げる希有な機会だからだ。

基地に反対するといっても、①軍事的に危険と思うから、②米軍兵士の犯罪が心配だから(犯罪率は低いのだから感情的なものだが)、③外国人でいかつい兵士はなんとなく怖いから(しばしば人種的偏見もある)、④戦争の思い出がよみがえるから、⑤中国・北朝鮮・ロシアの利益を害する、⑥米軍を縮小して憲法改正して本格的な再軍備をすべきだ、などさまざまだ。

また、反対しないといっても、①沖縄自身の安全を高める、②それはどうか分からないが日本の安全を高めるから仕方ない、③台湾や韓国の防衛に不可欠、④軍用地賃貸料やビジネスとして恩恵が大きいし、雇用も与えてくれる、⑤アメリカ人が好きだ(基本的に沖縄の人はアメリカ人が嫌いではない)と、これも多様だ。

また、基地反対といっているが、どうせ実現しないから反対している人もいれば、反対しないが後ろめたいと思っている人も多い。

しかし、この種の事件が起こると、誰もが日頃の立場の違いを超えて、オール沖縄で団結し、抗議の声を上げられる。そして、この抗議運動が、過去の例からして、政府が沖縄支援策を積み増してくれるという実利もあることが火に油を注ぐ。

多くの沖縄の人が、米軍基地の最大の弊害としていうことが、沖縄県人が感情と実利のあいだで分断されてしまうということだ。この感情は、合理的な思考をいくらしても否定できないものだ。そこは理解する必要があるし、逆に、本当に沖縄の人が基地撤去を熟慮のうえ求めているともいえない所以でもある。

「再発防止」で事件をゼロにはできない

事件の再発を防ぐといっても、必ずゼロにするような、できもしないことを政府は期待させるような約束をすべきではない。殺人事件にしろ、性犯罪にしろ、いじめにしても、酒酔い運転にしても、汚職にしても、ゼロにしろというのは努力目標としては当然だが、それを保証するのは神でも無理である。

2016年4月には、沖縄県うるま市の女性が殺害され、米軍嘉手納基地内で働いていた元米海兵隊員の米国人男性が逮捕・起訴された事件では、軍属の範囲が広すぎるのではないかという議論が起こり、2017年1月に日米地位協定の軍属補足協定が結ばれ、軍属の範囲を絞るなどの措置がとられた。

PFAS汚染源調査や新型コロナ防疫についての不満も出たし、全国知事会や沖縄県議会からは、地位協定の抜本改正の要望が出されている。

その一方、米国側からは日本の司法制度の前近代性が問題にされ、極端には日米地位協定を、身柄の引き渡しなどができない方向で改正しろという意見すらある。

米軍中尉事件が浮かび上がらせた「人質司法」

2021年に横須賀基地所属の米海軍中尉が、家族と富士山遊覧の帰路に事故を起こし、日本人2人が死亡した事件があった。本人は「急性高山病で意識を失った」と主張したが、禁錮3年の判決を受けた。

しかし、26日間拘束し、弁護人立ち会いなしの取り調べを行ったことから「人質司法」と批判され、地元の上院議員が家族の訴えを受けて議会内で運動し、最後はバイデン大統領まで早期釈放を要望する事態となり、刑期途中で国際受刑者移送制度によって米国へ移送された。日本人としては釈然としないだろうが、中尉は日本の前近代的な司法制度の犠牲者であり、「英雄」として迎えられたのだ。

この交通事故については、中尉の言い分には無理があるように思えるが、被告が無罪や情状酌量を主張すると保釈せず、言い分を崩すための取り調べを続けるなどということはせずに、検察も裁判で争えばいいのであって、こうした運用は、釈放されたいがために自白して冤罪事件になるとか、勾留をもって検察が実質上の刑罰とする温床になっている。

こうした人質司法への海外からの批判は当然だし、たとえば、中国で日本人が拘留され、取り調べを受けた場合に、中国の制度に基づいたものでも日本では厳しい批判がされるから、それと同じなのだ。

地位協定改正を司法制度改革の契機に

そして、これを打破するためには、米国が司法制度改革を、地位協定をドイツ並みにする条件として真正面から要求してくれるなら、大歓迎だとすら思っている。

外圧によって国内改革を実現することは、1980年代あたりにもかなり成功したし、節度さえ守れば決して禁じ手ではないと思う。

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