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10月1日から、パートや有期雇用で働く人を雇い入れたとき、会社は、正社員との待遇の違いについて説明を求められることを本人に知らせなければならなくなりました。パートタイム・有期雇用労働法の施行規則で、雇入れ時に明示する労働条件にこの項目が加わりました。明示しなかった場合は10万円以下の過料の対象になります。
同じ日に、同一労働同一賃金ガイドラインなどの改正も適用されました。通知書のひな形を直した後に残るのは、説明を求められたときに何を理由として答えるかです。
私が支援の現場で見てきた限り、中小企業で説明がつかえやすいのは、賃金表より前の段階です。正社員の仕事がその人に付いていて、責任の程度や異動の範囲が言葉になっていないことが多いからです。
待遇差の説明義務は以前からあった
アゴラ編集部は10月2日の記事「定年後再雇用給与引き下げに合理的説明義務化で現役世代の給与はどうなる?」で、今回の改正により、定年後に再雇用される人の待遇について「企業側にこれまで以上に合理的な説明が求められることになった」と書いています。

ここでは個別の待遇の当否には立ち入らず、厚生労働省の資料に沿って、何が新しく、何が前からあるのかを分けます。
求めに応じて待遇差の内容と理由を説明する義務は、同法第14条第2項にあり、2020年4月から(中小企業は2021年4月から)適用されています。定年後に再雇用されたことだけをもって、待遇差が不合理でないと直ちに認められるわけではない、という考え方も改正前のガイドラインにあり、今回は待遇全般に関する記載として移されました。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(e-Gov法令検索)
説明に関して10月から新しく義務になったのは、冒頭の雇入れ時の明示です。説明の方法は、資料を使った口頭での説明か、説明すべき事項をすべて書いた資料の交付かの二つに整理されました。口頭で説明する場合に資料を渡すことや、求めがなくても更新時などに資料を渡すこと、説明を求められると知らせておくことは「望ましい」とされました。
説明が十分でなかった事実が、待遇差を不合理と認める方向の事情として考慮されうることもガイドラインに書き込まれましたが、厚労省のQ&Aによれば、この考え方は2019年1月の施行通達で示されていました。
厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」(改正概要、ガイドライン新旧対照表、Q&A、施行通達の一部改正を含む)
今回からは、働く人が雇い入れの時点で、説明を求められると知らされます。実際に説明を求める人も、少しずつ増えていくと見ています。
賃金表だけでは待遇差を説明できない
説明では、待遇の内容と、違いの理由の二つが問われます。厚労省の施行通達は、待遇の内容を基準に沿って説明する場合、賃金であれば賃金規程や等級表などの支給基準を説明することとし、「賃金は、各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する」といった説明では十分でないとしています。
理由については、正社員と有期・パートそれぞれの「職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」のうち、待遇の性質と目的に照らして適切なものに基づいて説明する必要があるとしています。法律でいう「職務の内容」とは、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」のことです。以下、職務の内容及び配置の変更の範囲を「異動の範囲」と呼びます。
賃金表は、どの等級ならいくらかという基準を示せます。しかし、なぜこの人は正社員の等級に、あの人は有期・パートの区分にいるのかは、賃金表だけでは語れません。その理由は仕事の側にあります。
ガイドラインは改正前から、正社員と有期・パートとで賃金の決定基準やルールが違う場合に、「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的な説明では足りないとしてきました。今回は、「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材」の確保や定着という目的だけで、待遇差が不合理でないと当然に認められるものではない、という記載も加わりました。
ガイドラインには、まずは各事業主において「職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化する」とともに、待遇の体系全体を、有期・パートを含む労使の話し合いで確認し、共有することが「肝要である」とあります。この文は改正前後で変わっていません。
正社員の仕事と責任を明確にすることから始める
以下は、複数の支援経験を組み合わせた架空の再構成です。
ある小売店で、パートで働く人が店長に、同じレジに立つ正社員と自分は何が違うのかと尋ねました。店長は「正社員には責任がある」と答えます。ところが中身を挙げようとすると、売上の数字を見ていること、いずれ別の店へ移るかもしれないことなどを並べるうちに、どれが正社員の誰にでも当てはまり、どれがその人個人の働きぶりなのかが分からなくなりました。賃金表はあり、等級も決まっていました。それでも店長は答えられませんでした。
最初から全職種の職務記述書をそろえなくても構いません。説明の際に比べる相手として、職務の内容や異動の範囲などが最も近いと会社が判断する正社員について、どこまでの判断を任せ、どこまで結果に責任を負い、どの範囲で異動がありうるのかを、経営者が自分の言葉で言えるかどうかが問われます。書類を専門家に頼む場合も、正社員に何を任せているかを答えられるのは経営者です。
同一労働同一賃金はそもそも日本の雇用慣行に合わないという意見もあるでしょう。職務の範囲があいまいなのは、メンバーシップ型の雇用や解雇規制のためだという指摘にも一理あります。それでも、正社員の仕事の範囲を言えない会社は、待遇差の説明だけでなく、採用や配置を考える場面でも、同じところでつかえやすいはずです。
仕事を分ければ比べようがない、という考え方に対しては、ガイドラインが改正前から、職務の内容等を分離した場合でも不合理な待遇差の解消は必要だとしています。正社員の待遇を下げてそろえる考え方については、今回の改正で、「通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく」有期・パートの労働条件の改善を図ることが求められる、という記載がガイドラインに加わりました。
編集部の記事は結びで「職務内容や責任、成果に応じて賃金を決める制度への移行」を挙げています。移行するかどうかにかかわらず、説明を求められたときの答えの土台になる、正社員と有期・パートそれぞれの仕事の中身や責任の程度、異動の範囲は、経営者が自分の言葉で言えるようにしておきたいところです。説明の準備は、賃金表の手直しより先に、正社員に何を任せているかを言葉にするところから始めるべきです。
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山中 真琴
株式会社DroR代表取締役CEO。組織開発の実務家として、従業員50〜300人規模の企業で、経営者や人事とともに組織の課題の原因を整理する支援をしている。







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