モンゴル失火事件で日本人が開き直るのは国益に反する

モンゴルの自然保護区の焼失について、朝青龍氏は、モンゴルの元国会議員が同行し、当局の許可も取っているのだから、日本人だけの責任ではないと弁護してくれている。

朝青龍 ダグワドルジ氏xより

それはありがたいのだが、だからといって、「大どんでん返し」という言葉がSNSの世界で多くの人に広く拡散され、日本側に責任はないと開き直っては、ぶち壊しになる。

日本人社長がこの地域を訪れたのは、「4G通信網の開通式典への出席および品質確認」だったという。つまり、かつての満蒙国境というか、中国の内蒙古自治区との国境地域の僻地(ノモンハン事件の現場も近い)にまで4Gが及ぶようになったことを祝う式典に参加するためにやってきたらしい。ところが、ついでに、通常は立ち入り禁止の自然保護区の奥深くに「品質確認」の名目で案内され、そこにはモンゴルの元国会議員も随行し、現地の当局者も同行していたということだ。

しかし、「品質確認」というのはいかにも微妙な感じがする。自然保護区で、中国との国境地帯という歴史的にも微妙な場所に、わざわざ社長が「品質確認」などをしに行く必要があるとは思えない。日本人の技術スタッフが一緒にいたわけでもない。

果たして、自然保護区に入ることをモンゴルの元国会議員などが言い出したのか、日本人社長が希望したのかは分からない。釣りや狩猟などの遊興が予定されていたのかも分からないが、釣りなどはしていないとKDDIは言っているものの、予定もなかったとは明言していない。希望もしていないのに連れて行かれたわけではあるまいし、品質確認は口実にすぎず、主目的は観光だったのではないかと疑う余地はある。

また、車列を組んで走行していたが、出火原因とされているのは、KDDIのモンゴル子会社「モビコム」が所有する車で、おそらく社長らが乗っていた車両のようだ。この車から発火したということは、乗り心地のよさを重視した、草原を走るには向いていない車で乗り込んだ可能性もある。

普通に考えれば、たとえ日本人社長が自ら希望したのかどうかは別として、日本人社長が特別の計らいで秘境観光をしている最中に、モビコムの車両が発火事故を起こし、大惨事になったのだから、法律上の賠償責任があるかどうかは別として、殊勝に陳謝するのが賢明だ。

日本のSNSで「大どんでん返し」などとはしゃいでいるとなれば、あまりよい印象はない。

ついでに言うと、朝青龍を相撲界がどれだけ冷淡に追放したかは国辱ものだった。また、中国の習近平主席がまだ中堅幹部だった頃、朝青龍の全盛期に、テレビで大相撲を衛星放送で録画し、毎晩、晩酌のビールを飲みながら毎場所見ていて、ファンだったということも付け加えておこう。

責任の所在を冷静に切り分けるべきだ

もう少し分析的に検討すると、以下のようになる。

この件については、本来、責任の所在を冷静に切り分けるべき話であって、モビコム社員に過失があったのか、同行したモンゴル側関係者に問題があったのか、KDDIグループとして監督責任や使用者責任があるのか、モンゴル政府は損害賠償を請求できるのかを、それぞれ別個に検討すべきだ。

朝青龍氏の発言は、「日本人だけが悪いという一方的な見方はおかしいのではないか」という趣旨だ。仮にその趣旨なら、それ自体は「責任を多面的に見よう」という話であって、「KDDIに責任が全くない」と言っているわけではない。

ところが、SNSではしばしば、次のような飛躍が起きがちだ。

「日本人だけを悪者にするな」 「KDDIは完全に無罪だ」 「KDDIを批判した人は全員デマ」

そもそも、モンゴル側が「責任者はいない」などと言っているわけではない。

したがって、朝青龍が「日本だけが悪いわけではない」と言ってくれるのはありがたいことだが、それに悪乗りして「だからKDDIには一切責任がない」とするのはよろしくない。

また、こういう話では「誰が100%悪いか」というゼロか百かの議論になりやすいが、現実の事故や火災では、複数の当事者に責任が分散していることも少なくない。

したがって、「KDDI叩きは全部間違いだった」という結論まで導けるわけではないし、この日本人社長が正直にすべてを話しているかどうかも、確認する必要がある。

消火作業のようす モンゴル

中国にも及ぶ被害と謝罪の必要性

だからこそ、KDDIは慎重な言い回しをしているのであり、それでよいと思う。しかし、ネット民の国粋主義的な物言いは、それこそ中国などに利用されるだけだ。

また、現場の位置関係を示す地図を作ってみたのだが、焼失範囲は、中国の内蒙古自治区(旧満州国の領域)に三角形のモンゴル領が飛び出している地域にあり、三方を中国領に囲まれている。そのため、中国領も危険にさらされたはずだし、動物などが中国領に大量に逃げ込むなど、生態系への影響も大きかったと考えられる。人民解放軍が出動するのも当然であり、大きな迷惑をかけているはずだ。モンゴルだけでなく、中国にも陳謝が必要だと思われる。

SNSでの開き直りは国益を損なう

いずれにせよ、たとえ大使館やKDDIが慎重な姿勢を取っていたとしても、SNSでモンゴルに対しても中国に対しても開き直る論調が支配的になれば、中国とモンゴルが連携する形で対日感情を悪化させかねない。心ない投稿は残念だ。

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