安倍総裁の暴走が止まらない。きょうは「建設国債を日銀に引き受けさせる」と約束したようだ。これを「国債を10年間で200兆円発行する」という国土強靱化法案と組み合わせると、毎年20兆円の建設国債を増発して日銀に引き受けさせ、土建業界に金をばらまくヘリコプターマネーになる。
第一の問題は、こんな政策に意味があるのかということだ。安倍氏は「建設国債を日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」というが、日銀引き受けで増えるのは政府支出であり、これは建設国債を民間が買って日銀が買いオペで吸収するのと同じだ。日銀に引き受けを強制する必要があるのは、1930年代のように民間で消化できないときだけだ。
第二の問題は、財政法で国債の日銀引き受けが禁じられていることだ。これを改正することは、あからさまに日銀の国債ファイナンスを制度化することになり、財務省も日銀も強く反対するだろう。それを押し切って強行すると財政規律が失われ、「日本政府はいよいよ市場で国債を消化できなくなった」というメッセージを世界に送って、国債バブル崩壊のきっかけになるおそれが強い。
第三の問題は、どういう経済効果があるかだ。ヘリコプターマネーは財政政策だから、財政赤字によってインフレを起こす効果がある。しかし建設国債は今年度予算でも約6兆円だから、これを一挙に4倍以上に増やしたら、国債は暴落して財政が破綻するだろう。こんな政策に意味があるとすれば、ハイパーインフレで日本を「焼け跡」にすることぐらいだ。
おまけに「日銀は雇用の維持にも責任を持つべきだ」という話も、自然失業率を理解しない初歩的な間違いである。安倍氏は前の政権のときもリフレは取らなかったし、今までこういう話はほとんど出てこなかったのに、ここに来てにわかに日銀バッシングを強めたのは、他に政権を攻撃できる材料がないからか、それともTPPに積極姿勢を打ち出せない中で財界の歓心を買うためか。
いずれにせよ率直にいって、安倍氏は自分の言っていることを理解していない。成蹊大学法学部卒の彼が経済学を理解できないのはしょうがないが、ちゃんとしたアドバイザーがついたほうがいい。彼に知恵をつけているのは中川秀直氏や高橋洋一氏だと思われるが、彼らは金融の専門家ではないし、学界でも相手にされていない。こんな暴走を続けていると、安倍氏が恥をかくだけでなく自民党も選挙でつまずくだろう。