他人の生命を守るための投資
高齢者ドライバーによる悲惨な事故が、各地で立て続けに起きています。死亡した人も悲劇だし、事故を起こした人も悲惨です。自働車保険でカバーできない部分もあるでしょうし、死亡された側にとっては、金銭問題ではすみません。高齢者ドライバーの比率が上がっており、この社会的悲劇への対応強化が必要です。
高齢者に免許証の自主返納を求める動きが広がっています。それはどうなのでしょうか。元気な高齢者もいるし、個別の事情があって車を手放せない、手放したくない理由があるでしょう。そこで提案したいのは、例えば80歳以上の人が運転する車には、自動ブレーキなどの安全装置が装備されていることを義務付けることです。車が割高になっても、全財産を失うより安く、そのための投資です。
自動車事故については、シートベルト、エアバッグなど、運転者側を守る装置に重点が置かれてきました。これからは、運転する側、特に高齢者が加害者になる場合の対策がますます大切になってきました。自分を守るばかりでなく、他人も守れへの転換です。他人を守る装備は自分を守ることにもつながってきますしね。
私の親しい知人は85歳です。毎週、自動ブレーキ装置の車をご自分で運転してゴルフ場に通っています。週に2日はおろか3日間のプレーという日もあります。贅沢だと、思ってはいけません。カートのないゴルフ場で、毎回、5時間は歩きますから、健康そのもの、病知らず、病院知らずです。結局、このほうが医療費が節約され、社会的コストは安くつくのです。
自動ブレーキなどで事故は40%減
高齢者運転の事故が多発するのをみて、この方は「運転する人に事故を起こさせないようにする技術、装置の開発が進み、標準的な装備をつけていれば、事故は40%ほど減る。必要な費用は、私がつけた当時は、30万円だったくらいかな。その位、おカネをかける意味はある」と、おっしゃいます。現役時代は大手の電機メーカーの役員を務め、工学博士号を持っている人ですから、説得力があります。
「事故の大半は、前方不注意、わき見、居眠りが原因。それに対する備えとして自動ブレーキなどを装備していれば、高齢者の事故を大幅に減らせる」といいます。居眠り防止装置の経験談を聞きました。「目を閉じると、警報が鳴る。わき見をすると、すぐランプが点灯し、3秒以上、わき見続けると、警報がなる。当初は煩わしかった。今では、前方注視の習慣がついたのか、機器の警告がほとんど出なくなった」。なるほど、なるほど。
自動車ディーラーに電話して聞きますと、「車間距離警報、衝突警報、歩行者警報、車線逸脱警報など各種の装備、機器がそろっている。危険が迫った時には、自動的に急ブレーキがかかるか、減速する」と、いいます。標準装備として、パッケージになっている車種(新車料金に含む)、オプションで選ぶ車種(費用は追加負担)に分かれています。
量産で値下がりした安全装備・機器
トヨタの場合、クラウンはほぼ標準装備(新車購入時)がされており、標準装備が開発されていなかった何年か前に比べ、5万ないし20万円、高くなっているといいます。プリウスは標準装備とオプション(標準装備をしていない)方式があり、価格差は8万円台半ばだそうです。標準装備が増えて、量産効果が生じ、何十万円もかからないようですね。
問題は中古車です。自働車は何年も使うでしょうから、自動ブレーキが装備されていない車は多いでしょう。そんな場合は居眠り・わき見警報装置(一例では1万6千円)など、追加購入できる機器があればつけることでしょうか。それと認知機能の検査強化、70歳以上に対する講習の徹底、免許証の自主返納など総合的な対策を進めることが必要ですね。将来の課題としては、自動運転車の普及でしょうね。
政府の仕事としては、80歳以上の運転者には、新車購入時に自動ブレーキ装備を義務付けることです。ディーラーも「いずれ買い換える時は、ぜひ標準装備車を」と、キャンペーンすべきです。豊田市は、65歳以上が「先進安全自動車」を購入する場合、2、3万円の補助金をだすとか。メーカーも地元自治体への補助をするなど、お膝元から「安全車」の普及に務めてほしいですね。それと、保険会社が「安全車」の事故率が下がるのですから、自動車保険料を安くすべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。