大型トラックが無差別テロの武器

長谷川 良

ドイツの首都ベルリン市中央部にある記念教会前のクリスマス市場で19日午後8時ごろ(現地時間)、1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら60メートルから80メートル走行。これまで判明しているだけで12人が死亡、45人が重軽傷を負う事件が発生した。

▲ベルリンのクリスマス市場に突入した大型トラック(2016年12月20日、ドイツ民間放送「N24」の中継放送から)

▲ベルリンのクリスマス市場に突入した大型トラック(2016年12月20日、ドイツ民間放送「N24」の中継放送から)

ベルリン警察の情報によれば、トラックを運転していたと思われる男は現場近くで逮捕されたが、同乗者の男は射殺されていた。拘束された男は23歳でパキスタン人。2015年12月31日、独国境都市パッサウから難民としてドイツに入国。今年2月以降、ベルリンに住んでいた。

ベルリン警察のクラウス・カント長官は、「パキスタンの男が犯人ではない可能性も排除できない」と述べ、本当のテロリストがまだ逃亡している可能性があることを示唆した。拘束されたパキスタンの男は犯行を否定しているという。犯行が単独か複数の犯人がいたのかも目下、不明という。

一方、トラックの所有会社、ポーランドの運送会社によると、イタリアから鉄鋼材をベルリンに運ぶ途上だったが、運転手と連絡が取れないという。射殺されていた男がトラックの運転手の可能性が高い。ただし、犯行に使用されたピストルはまだ見つかっていないという。

メルケル首相は同日、「明らかにテロ事件だ」と強調し、深いショックを表明している。
欧州ではフランス革命記念日の日(7月14日)、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でチュニジア出身の31歳のテロリストがトラックで群衆に向かって暴走し、86人が犠牲となった事件が発生した。ベルリンのクリスマス市場でのトラック突入事件はそれと酷似している。

欧州のテロ専門家は、「われわれはクリスマ市場がテロのターゲットになる危険性があると警告してきた。ニースのトラック突入テロ事件後、イスラム過激派の間では、『トラックをテロの武器に利用し、可能な限り多くの人間を殺害せよ』という檄が発せられたという情報を受け取っている」という。

イスラム過激派テロ事件と無縁だったドイツで今夏(7月18日~24日)、銃乱射事件、難民(申請者)によるテロ、殺人事件が続けざまに起きたばかりだ。南部バイエルン州のビュルツブルクで18日、アフガニスタン出身の17歳の難民申請中の少年が電車内で斧とナイフで旅客に襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きた。ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンでは22日、135店舗が入ったミュンヘン最大のオリンピア・ショッピングセンター周辺で、9人が射殺され、27人が負傷するという銃乱射事件が発生。そして同月24日、バイエルン州のアンスバッハでシリア難民の男(27)が現地で開催されていた野外音楽祭の会場入り口で持参した爆弾を爆発させた。男は死亡、少なくとも12人が重軽傷を負った。

昨年から今年にかけてシリア、イラク、アフガニスタンなどから100万人を超える難民・移民がドイツに殺到したが、テロ容疑者や犯人が難民や移民出身者であったことから、寛容な難民政策を実施してきたメルケル首相ヘ批判の声が高まり、同首相もその難民受け入れ政策の修正を余儀なくされてきた経緯がある。

多数の死傷者を出したベルリンのクリスマス市場トラック突入テロ事件は来秋に実施予定の連邦議会選で4選出馬を表明したメルケル首相にとって大きな政治的痛手となることは避けられない。同時に、外国人排斥を標榜してきた新党「ドイツのための選択肢」(AfD)が勢いを得ることが予想される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。