ISPによるブロッキングは法解釈で逃げず国会で議論すべき - 楠正憲

アゴラ編集部

ブロッキングを巡る議論が佳境を迎えている。ブロッキングとはISPが利用者からのWebアクセスを必要に応じて遮断する技術で、中国や中東、欧州などで導入されている。日本では電気通信事業法の定める「通信の秘密」に抵触する可能性があるため今のところ導入されていないが、2008年に自民党が児童ポルノ法改正案の附則で「インターネットによる閲覧の制限」について3年目途での検討を盛り込んだことから総務省・警察庁が検討をはじめた。現在は筆者も関わっている児童ポルノ流通防止協議会や安心ネットづくり促進協議会で調査が進められている。


ブロッキングには様々な方式があり、DNSを使う方法ではホスト名単位で、経路制御と透過プロキシーを併用する方式ではURL単位での接続遮断が可能となる。児童ポルノ流通防止協議会は今年1月に遮断対象となる児童ポルノのURLや画像を識別するためのハッシュ値などのリストを管理し、ISPや検索エンジン等に配信する「児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体」の運用ガイドライン(案)をパブリックコメントにかけた。
 
リストにはインターネット・ホットラインセンター (以下、IHC) 等に通報された児童ポルノのうち、海外にあって削除依頼の難しいものや、国内であってもサーバー管理者が削除要請に応じない場合のURL等が含まれると考えられる。統計によると昨年上半期の半年で児童ポルノ公然陳列のうち国内サイト2332件、海外サイト378件で計2710件の通報があり、うち494件が警察やプロバイダー等への通報までに削除され、1098件が通報によって削除されている。児童ポルノ愛好家はパスワードで保護されたサイトやP2Pソフト等で児童ポルノ画像を交換しているが、これらは通報を受けても外部から確認することが難しく、ブロッキングによって流通を抑止することは難しい。

被害児童の二次被害を防ぐために児童ポルノの流通を抑止することは重要だが、方法としてブロッキングが妥当かどうか、そもそも憲法の定める「表現の自由」や電気通信事業法の定める「通信の秘密」と照らして合法的にブロッキングを行い得るかについては諸説ある。通信インフラではなく掲示板や検索エンジンといったサーバー側での監視強化など、ブロッキング以前に現行法の枠内で改善できる対策もあるのではないか。

児童ポルノ流通抑止を目的としてISPにブロッキングのためのインフラが構築された場合、様々な政治勢力が本来の目的から外れてこの仕組みを使おうとすることが懸念される。既に模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)と関連して、知的財産戦略本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」では、ISPに対して海賊版コンテンツのブロッキングを義務付けるべきだとの意見も出ている。
 
自民党政権下では児童ポルノ法改正案の附則に盛り込むなど与党としてブロッキングを推進していたが、表現の自由について強いこだわりを持つ民主党や社民党がブロッキングについてどう考えているかは判然としない。仮に児童ポルノのブロッキングを行う場合であっても、官僚やネット業界が憲法や電気通信事業法を都合よく解釈し、なし崩し的に進めては将来に禍根を残す。きちんと国会で議論し、民主主義の手続きを踏むべきではないか。幸い児童ポルノ法改正や、情報通信法と関連した大規模な電気通信事業法改正が控えている。ISPによるブロッキングを認めるべきかどうか、「表現の自由」や「通信の秘密」とも関連して国会で論争する舞台は整いつつある。