ワークショップコレクションで、「キッズクリエイティブサミット」が開催されました。
子どもを対象とするワークショップコレクションの場ではありますが、これは大人のための会議であり、創造力を育む「クリエイティブ教育」について、世界を代表する専門家とともに考えようというものです。
まず、スタンフォード大学教授のシェリー・ゴールドマン教授が基調講演し、それを受けて、KMDの稲蔭正彦委員長とぼくが交じって会場との意見交換を行いました。
教育人類学者のゴールドマン教授は、学校内外での学習場面についての研究や、デザイン的思考やテクノロジーの学習場面への応用の実践を行っています。また、オルタナティブスクールやチャータースクールなどのパブリックスクールの設立にも関わっています。
ゴールドマン教授からのメッセージは次のようなものです。
「未来に向けたこどもたちの教育とはどういうことなのか。めまぐるしく変動しグローバル化する社会において、われわれはテクノロジーや科学、健康、政治、経済などといった予測できない変化に直面している。こういった変化はこれからも続いていくということは確かなことだ。」
「そういう未来のために子どもたちを教育するにあたって、私たちは、彼らが生涯を通して学習し、予測不可能な問題を解決することができるような生産的な大人になるような教育を提供したいと考えている。教育や学習に対するわたしたちのビジョンを発展させ、実行するために、未来のために子どもたちには何が必要なのかということに意識を向ける必要がある。」
「私たちは、急速に変化する昨今の状況から、イノベーションや創造性、批判的思考、問題解決能力、コミュニケーション能力や協調性などといったことに対する関心が、未来を視野に入れた子どもたちにとって必要不可欠であることが分かってきた。昨今の学習場面でのテクノロジーや、デザインに基づいた学校教育の動向について触れた上で、予期できる未来について考えてみよう。」
「そして、「教師としてこれからの変化のために、どのような準備が必要なのか」といった疑問や、「まず、学校はなにをするべきか」、「どのようなかたち で新しいテクノロジーや学習体験をこどもたちに提供すればよいのか」、「イノベーションを視野に入れた教育を取り入れないと、どういったことになるのか」 などといった質問について考えたい。」
これを受け、ぼくは以下のようなショートプレゼン。
「日本の子どもたちがデジタル技術を使いこなす力はとても高い。10年以上も前から女子高生たちは親指でメールを打っていたが、他国ではみられない光景だった。2007年にテクノラティ社が調べたところでは、世界中のブログで使われる言語の37%が日本語で、英語の36%を抜いて首位。2013年2月にアドビ社が調べたところでは、モバイル機器を使った情報発信量では、日本は世界平均の5倍で、これも首位。日本の若い世代は他国に増して情報を生産し、発信している。」
「ワークショップコレクション会場でもあちこちで目にするように、子どもたちはデジタル技術を駆使して創造力や表現力を発揮している。国際デジタルえほんフェアの会場では、2歳児たちが競うようにタブレット端末で遊んでいた。誰も説明などしていないのに。そうしたデジタル基盤、デジタル教材、ワークショップの充実度という点で、日本はすばらしい環境にある。」
「しかし、これを公教育に持ちこむことに関して日本は遅れを取っている。ウルグアイが2009年に全ての子どもに配布したネット端末はMITが開発したものだが、その元の設計図は私のグループが2001年に描いてMITに提案したものだ。同じ年、日本政府にも提案したが相手にされなかった。デジタル技術と社会との距離という点で、日本には課題が残る。」
「2011年の京都大学入試カンニング事件では、ケータイで試験問題をソーシャルメディアに送り、他人の答えを答案用紙に書いた受験生が逮捕された。しかし、彼のしたことは、文部科学省が教育情報化ビジョンに高く掲げた “教え合い・学び合い” だ。デジタル時代の教え合い・学び合いの力をアナログな入試で発揮すると逮捕される。この事態をどうとらえるか。デジタル技術も若いユーザの利用力も先に進むが、それを大人の社会がどう受け止めるかが問われている。」
会場には中国や台湾から来た研究者たちからも質問が飛び、デジタルネイティブ世代のための環境をどう整備するのか、熱い議論がたたかわされました。
デジタル時代の子どもの創造力・表現力を高める祭典、ワークショップコレクション。
日本が設けたその場で、デジタル化が急激に進展するいま、国際的な観点から大人たちが意見を交換し、共有した意義はあったと考えます。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年6月20日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。