出口戦略へ向かい始めたバーナンキの金融政策 --- 岡本 裕明

アゴラ

SNSを考える その2」をお届けする予定でしたが、アメリカFOMCの発表に大きな意味が出てきましたので今日は「アメリカ金融政策はバーナンキの出口戦略」を書かせていただきます。「SNSを考える その2」は明日にお届けします。

2日間に渡って開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)はQE3と称する金融緩和政策を現時点では維持する事としました。経済の先行き(GDP)については2013年が見通しの上限を3月見通しよりやや下げた2.6%に、2014年は逆に0.1%ポイント強気の3.0-3.5%に引き上げました。注目されるのは失業率の見通しで2014年には6.5-6.9%、2015年には5.8-6.2%と急速なる回復を想定しています。


その後の記者会見で今秋以降(later this yearと表現)、金融緩和政策からの脱却を開始するとして、証券購入は2014年半ばには終えたいという具体的道標を見せました。

これを受けて10年物国債の利回りは前日より6%近く値上がりとなる2.31%となり、ドルは円を含む主要通貨に対して強くなっています。円は先日より1円以上安い96円台後半となり、株価はダウ平均で200ドル以上値下がりしています。

これらの動きについてはある程度想定はされていましたが、具体的なプランが指し示されたことはいくつかの重要なポイントを内包していると見ています。

1. アメリカ経済は想定以上に着実に回復に向かっており、「非常手段」の金融緩和政策はそろそろ脱却する時期に来たということ。特に失業率において金融緩和の当初の指標であった6.5%に来年にも到達できそうであり、緩和縮小は十分理解されると判断したこと(今日の記者会見では失業率7%を指標とする旨変更)。

2. バーナンキ議長の任期が来年1月で、氏の再任はないと見られていることから氏の推し進めた政策を整理する必要があること。

3. アメリカ経済の着実な回復と金融緩和からの離脱は結果として強いドルをサポートすることになり、基軸通貨としての威信と威光が再びよみがえること

4. 代替通貨とまで言われた金(ゴールド)についてはドルの安定化と強いドルでダブルパンチとなり、下値の模索になること。

では、本日はFOMCの内容が発表された直後に急落した株価についてはどうなるのかといえば健全なる市場へのシフトになる、と見ています。つまり、アメリカの景気が回復するのは企業業績も当然上に向かうという意味ですから業績の良い企業の株式は引き続き買われるはずであり、金融緩和のお祭り時代からの業績相場へのシフトが緩やかに進む、ということだと思います。

もう一つはバーナンキ議長の後任が今後、取りざたされてくると思います。バーナンキ氏は共和党からの受けが悪かったこともあり、議長選任には野党からの強烈なボイスを聞かざるを得ない可能性は大いにあるかと思います。現状ではイエレンFRB副議長の名前が挙がっているようですが、こちらの方はまだこれからという感じがいたします。

バーナンキ議長としてはグリーン・スパン氏から引き継ぎ、世界経済が震撼するような時期をうまく乗り越え、世界の中で最も早く経済復調を果たす舵取りをしてきた点では非常に高い評価をすべきかと思います。また、グリーン・スパン氏が退任後、「神が地に落ちる」ほど評価が下がったことを踏まえ、バーナンキ議長は金融緩和の後片付けを自分が議長に在籍しているうちに行い始め、出口が見えるところまで誘導するものと思われます。

ある意味、タイミング的には本人の任期とぴったり合うことになり、リフレ派にとっては金融緩和が正しい政策であったことを自信付けるものになるとは思います。私もそれ自体は否定しませんが、アメリカの経済回復は金融緩和だけがエキスだったとすれば大いなる判断ミスがあると思います。アメリカの国民性、失敗しても復活できる社会、シェールガスなどの新産業の復興、安定した人口などさまざまなエレメントがあったからこその回復であります。

今日のFOMCの決定と発表は世界経済の運営に大きな影響を与えることになります。当然、日本の金融政策にも影響が出るでしょう。そういう意味で、しばらくの間の市場の動きには要注目ということになりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。