早稲田大学が、今年度から非常勤講師の契約の上限を5年と決めたことに対して、非常勤講師15人が大学を刑事告訴した。これは直接には新しい就業規則が労基法違反だという訴えだが、根本的な問題は「契約社員は5年雇ったら正社員にしなければならない」という労働契約法の規定である。
常識で考えれば、非常勤講師を5年雇ったら終身雇用にしろと規制したら、4年11ヶ月で契約を解除するのは大学経営としては当然だ。この労働契約法改正については、私を含めて多くの経済学者が反対したが、厚労省の官僚と労働政策審議会の圧倒的多数を占める労働法学者には、この程度の論理的な推論もできないのだろうか。
私も非常勤講師をしているが、同じような仕事をしながら大学ほどひどい差別をしている職場はないだろう。授業が90分で、1コマ7000円だ。往復2時間の通勤や準備や試験監督なども考えると、時給はコンビニのアルバイトと大して変わらない。他方、准教授になれば無条件にテニュア(終身在職権)が与えられ、年収は1000万円以上になる。年間200コマとしても、1コマ5万円だ。
日本のサラリーマンは非競争的にみえるが、仕事のできない社員はクビにできなくても左遷され、定年まで窓際ポストで恥をかくので、長期雇用は「恥の文化」では強いインセンティブになっている。それは彼らがどこにでも配置転換できる汎用サラリーマンだからであり、外資では配置転換できないので、使えない労働者は解雇するしかない。
これに対して大学教師は「専門バカ」なので、配置転換という競争が機能しない。しかも准教授になったら全員がテニュアを得るので、授業のノルマさえこなしていれば研究する義務もなく、職階がないので出世競争もない。要するに競争原理がまったく働かないので、日本の大学が先進国で最低レベルになるのは当然だ。
文科省のデータによれば、アメリカの大学教員のうちテニュアをもつのは62%で、助教授では12%しかいない。一流大学ほど要件はきびしく、ハーバード大学では2300人の教員のうちテニュアは870人しかいない。東大が世界と競争するなら、秋入学などより、非常勤も含めてすべての教員をテニュア審査してはどうだろうか。