朝鮮半島情勢を合理的に考える

池田 信夫

今週の金曜からアゴラ経済塾「合理的に考える」がスタートする(ネット受講はまだ受付中)。ここではその宣伝もかねて、朝鮮半島の情勢を合理的に考えてみよう。

「合理的」というのはいろいろな意味があるが、その一つは戦略的に考えることだ。これは自分がある行動をとったら相手がどういう行動をとり、それに対して自分がどういう行動をとるかという「三手の読み」である。今の状況は、上のようなチキンゲームと考えることができる。このマトリックスは、日本と北朝鮮の戦略に対応する北のペイオフを示す(ペイオフ関数は対称とする)。

両国が戦争する場合が最悪(左上)だが、北が攻撃して日本が反撃しない場合は北のペイオフは左下で最大だ。これは日本からみても同じなので、ナッシュ均衡はどちらかが攻撃し、他方が譲歩する右上と左下の二つある。どちらも攻撃しない現状維持(右下)が望ましいが、均衡ではない。この場合に金正恩はどう考えるだろうか?

日本が憲法9条を忠実に守っていっさいの戦争を放棄すれば、北が攻撃すると日本は必ず譲歩するので、攻撃が彼の最適戦略だ。逆に日米韓が先制攻撃すると、北は自爆覚悟で反撃する。つまり「相手がどう対応しようが徹底的に戦う」というコミットメントが強いと日米韓が譲歩するので、左下が現状に近い。

今まで北が核実験で脅すたびに日米韓は譲歩してきたので、北はその成功体験で行動しているものと思われるが、逆に日本が米韓と協調して北を攻撃すれば、北は降伏するしかない(右上)。つまりナッシュ均衡は左下と右上の二つあるが、このどちらが選ばれるかという「均衡選択」はむずかしい問題で、ナッシュ均衡は一つに決まらない。

だが国際紛争を進化ゲームと考えると、解を一つに決める戦略(進化的安定戦略)が存在する。くわしい証明はSkyrmsなどを読んでほしいが、直観的にいうと、敵か味方かを識別する合言葉(secret handshake)を決め、敵は裏切り、味方とは協力することが最適戦略になり、現状(右下)が維持される。これが集団的自衛権である。

自衛権をもっているだけでは意味がなく、必要なときは行使する戦争のできる国だというコミットメントが戦争を防ぐ上で重要だ。したがって「集団的自衛権を行使しない」という1972年の閣議決定はきわめて危険で、それを容認した2014年の閣議決定が正しいのだ。