【映画評】グレートウォール

Great Wall

世界中を旅する傭兵ウィリアムは、仲間と共に火薬を求めてシルクロードへと赴く。砂漠地帯で馬賊の襲撃をかわして身を潜めていた彼らは、謎の獣に襲われる。多くの仲間を失いながら馬で駆け抜けた彼らの前に巨大な城壁“万里の長城”が現れた。長城防衛の命を受ける禁軍に降伏したウィリアムと相棒のトバールは、戦略を司る軍師ワン、女性司令官リン隊長らから、ウィリアムを襲った獣の正体は2000年前から60年に一度現れ、幾度となく中国を襲ってきた伝説の怪物、饕餮(とうてつ)であり、万里の長城はその獣を防ぐために築かれたことを知らされる…。

遠い昔の中国を舞台に万里の長城に秘められた伝説に迫るファンタジー・アクション「グレートウォール」。人類史上、最大の建造物・万里の長城には数々の謎や伝説がある。本作はその伝説のひとつを壮大なスケールで映像化した中国と米・ハリウッドの合作映画である。超大作の割には、アメリカでの興収はさんざんで、先のアカデミー賞でも司会者が友人のマット・デイモンをこの映画のことでいじり倒していたのが記憶に新しい。それはさておき、荒唐無稽なファンタジーだと割り切ってみると、意外にも楽しめる。金や名声のために働いてきたウィリアムが、自己犠牲の精神で命がけで戦う禁軍の戦士たちの影響で正義に目覚める…というストーリーはありがちで、ドラマとしての深みはほとんど感じられない。

だがそれを補うのは、ビジュアルの美しさと迫力だ。長城を守る精鋭部隊は、役割毎に、色分けされ、石弓、空中戦などアクロバティックな戦いを繰り広げる。中でもバンジージャンプのような動きで獣と闘う美女軍団のアクションには目を見張った。そしてそこには西欧社会が渇望する最先端の武器である火薬もあって、圧倒的な破壊力を見せつけるという派手な見せ場も用意されている。知将の軍師ワン、女司令官リンら、際立つ登場人物もいるが、全体的には、個は埋没し、獣も人間も集団としてのイメージしか残らない。すべての人民が犠牲的精神で国家につくすという中国らしい考え方の是非は別問題として、伝説という名前の自由奔放なイマジネーションが爆発するスペクタクル巨編に仕上がった。名匠チャン・イーモウのハリウッド進出作だが、今後、彼はこの路線なのだろうか?? 道を踏み外してほしくない…と心配しつつ見守りたい。
【60点】
(原題「THE GREAT WALL」)
(中国・米/チャン・イーモウ監督/マット・デイモン、ペドロ・パスカル、ウィレム・デフォー、他)
(荒唐無稽度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月14日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ホームページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。