こどもの日に「こども保険」について考えてみた
恒例化した「子どもの数減少」報道
今日は子どもの日。新聞には「子どもの数36年連続減」との記事が掲載されていますが、まるで毎年の恒例行事のようです。
少子高齢化、人口減少問題は、長年指摘をされながら有効な政策が講じられてこなかった課題ですが、最近では、各政党とも関連政策を熱心に訴えています。
私自身、昨年の民進党代表選挙で、OECD平均並みに子育て・教育予算を充実させるための方策として「こども国債」の発行を提案しました。代表選には敗れましたがが、与野党で子育て・教育予算をめぐる財源論が、活発になるきかっけになったのではと思っています。
活発な自民党の教育財源議論
自民党でも教育財源の議論が行われています。はっきり言って民進党以上です。しかし、私の提案した「こども国債」に似た「教育国債」については、「親の世代の責任を放棄し、子どもの世代につけを残す」との理由で不適切とされたようです。財源は、「無駄な歳出削減」でねん出しなさいとのこと。
一方、小泉進次郎さんら若手が提案した「こども保険」については、年金保険料アップという財源が提示されているため、今後の検討対象になったようです。ただ、こうした話を聞いていると、いつもと変わらぬ議論で、結局何も変わらないのではないかと思ってしまいます。
まず、「無駄な歳出削減でねん出すべき」との主張は確かに正論なのですが、そんなことを何十年も言い続けた結果、今の状態になったのではないでしょうか。そもそも、自民党が考える「無駄な歳出」とは何なのでしょうか。その明示もなく、呪文のように「無駄な歳出削減」を唱えても財源は出てきません。
「こども保険」は、年金の前払い
次に、有力な代替案として急浮上してきた「こども保険」ですが、確かに、就学前教育の無償化に向けた財源としては検討の価値はあると思います。ただ、なぜこの仕組みを「保険」と呼ぶのか、いまいちよく分かりません。
厚生年金や国民年金の保険料を活用する意味で「保険」という呼び名を使っているのかもしれませんが、カバーすべきリスクが判然としません。あえて理論的に整理するなら、「就学前の子どもを持つ被保険者に対する年金の前払い」ではないでしょうか。
また、年金の保険料が、就学前児童のいる家庭への金銭給付に使われることは、マッサージチェアほど筋は悪くないものの、特に、就学前児童のいない被保険者にとっては、年金保険料の年金給付以外への「流用」にあたることには注意が必要です。
年金保険料を引き上げる余地があるなら、現役世代の年金額を増やす方向で改革すべきだと思います。
全世代型なら、負担も全世代型で
そして、「こども保険」に関して一番残念だと思ったのは、シルバー民主主義の克服を掲げながら、就学前教育の無償化等を、年金保険料の増額という現役世代にのみ負担を求める形で実現しようとしていることです。全世代で支えるべきと考えるなら、なぜ高齢者にも負担を求める税財源によらないのでしょうか。
これは、原発の廃炉や賠償の費用を、税金ではなく取りやすい電気料金の上乗せから取ろうとする発想に似ています。
せっかく、将来有望な自民党若手議員が議論しているのですから、堂々と全世代型の増税論議をしてもらいたいものです。あまり技術論に走らず、二回も延長した消費税増税に正面から取り組んでくださいと安倍総裁に申し入れることが、心ある若手の皆さんが、まずやるべきことではないでしょうか。
ただ、こうした給付と負担の議論が熱心に行われていることは立派です。「こども保険」にしても、初めから批判にさらされることを想定して打ち出された政策でしょう。メディアの注目を集めることには成功していますし、こうした議論の分かれる政策をあえて世に問うことのできる自民党の底力を感じます。
次に、私が昨年の代表選挙で掲げ、ご批判もいただいた「こども国債」について、改めて述べたいと思います。
教育無償化に必要なのは憲法改正ではなく「こども国債」
「こども国債」と「教育国債」とは、何が同じで何が違うのか
5月3日、安倍総理は、憲法改正のテーマの一つに「教育無償化」をあげました。しかし、これは法律で十分対応できる話で、むしろ大切なのは、どのような財源で無償化を実現するかです。仮に総理のおっしゃるとおり2020年に改正が実現するとしても、どのような財源をあてるつもりでいるのでしょうか。財源論が置き去りになっています。
私は、教育無償化の財源の一つとして、昨年の民進党代表選挙で、「こども国債」を提案しました。その基本的考えについて改めて述べたいと思います。
結局は借金で「将来世代への負担の先送り」に過ぎない、
自民党文教族の提案する「教育国債」と何が違うのか、
こうした質問をよく受けるので整理して話をしたいと思います。
まず、私が代表選挙で「こども国債」を提案した目的は大きく二つあります。一つは、日本の子育て・教育予算をOECD平均並にまで速やかに倍増させ教育無償化を実現すること。そして、もう一つの目的は、国債発行が許される対象経費を抜本的に見直すことです。
「こども国債」でしか、子育て・教育予算を速やかに倍増できない
私は、現在約5兆円規模の子育て・教育関連予算を10兆円規模に倍増させ、教育の無償化を実現することが、働く世代の家計負担を大幅に軽減させ消費を拡大させる最大の経済対策だと思っています。同時に、潜在成長率を高める最も効果的な成長戦略にもなるでしょう。
「家庭政策」というカテゴリーでみたときの、日本の子育て・教育予算の対GDP比率がOECD平均の約半分であることはよく知られていますが、これを速やかに倍にするためには「こども国債」の発行が必要です。
「無駄な歳出削減」は必要ですが、そんなに巨額の無駄があるのでしょうか、仮に「無駄な歳出削減」ができたとしても、その多くは高齢者福祉の増加分を賄うために使われるでしょう。
また、現代において優れた教育機会を保証することは、単に所得の低い家庭の子どもたちに教育機会を提供するだけでなく、人工知能(AI)が台頭する時代、新しい社会を生き抜くすべての子どもたちに時代にあった最先端の教育内容を届けるためにも不可欠です。
結果として、日本経済における労働生産性も潜在成長率の向上にも資するでしょう。従来型の公共事業より高い投資乗数も期待できます。
「こども国債」のもう一つの目的…公債発行対象経費の見直し
こうした経済面、社会面でのプラス効果は、自民党の「教育国債」でも言われていますが、私が、「こども国債」を提案したもう一つの理由は、財政法で規定されてきた公債発行対象経費を抜本的に見直したいからです。そして、この見直しなくして、実のある財政再建もできないと考えます。
現行の財政法では、「建設国債」の発行しか認められていません。建設国債というのは、橋や道路といったインフラ建設の予算の調達するために発行される国債で、これらインフラ施設は後の世代も利用できるため、返済の負担を後世代に回すことに合理性があると整理され、財政法でも発行が認められています。
今の赤字国債は実質「高齢者国債」
一方、赤字国債は、単に歳出と歳入の差をうめるために発行される国債で、財政法上は発行が認められませんが、厳しい財政事情のため、特例法に基づいて毎年発行されているものです。
そして、赤字国債で調達された資金は、実質的に、過去の借金の元本と利払いのため「国債費」という名目で約20兆円強、残りの10兆円弱は、税金や保険料で賄いきれない高齢者向けの「社会保障関係費(医療・介護等)」をカバーするために使われています。
つまり、赤字国債のうち少なくとも約10兆円は、高齢者福祉のために使われる「高齢者国債」と呼んでもいい状況です。そして、この赤字国債で賄われた財・サービスを享受した高齢者は、返済の負担を負うことはなく、その負担はサービスを受けていない次世代に回されます。
「こども国債」は、子どもたちに負担の前に便益を与える
一方、私の提案する「こども国債」が、「高齢者国債」たる赤字国債と大きく異なるのは、「こども国債」で調達されたお金は、まず子どもたちのために全額使われることです。つまり、子どもたちは負担者になる前に、全員が受益者になります。
赤字国債は、次世代の国民にとって、「便益なしで負担だけある」のに対して、「こども国債」は、「負担の前に便益がある」国債です。
「こども国債」は自償性の高い国債
加えて、「こども国債」の発行で、しかるべき教育を受けた子どもの数が増えれば、彼らは20年~30年もすれば立派な納税者になります。そうすれば、彼らが自らの力で償還(返済)できる可能性も高まります。少し難しい言葉で言えば、「こども国債」は「自償性」の高い国債とも言えます。
財務省や自民党議員の一部が主張するように、「後世代に借金のツケだけを残す国債発行を減らすべき」なら、まず「高齢者国債」たる赤字国債を減らすべきです。赤字国債を減らさず、「こども国債」がダメだと言っても説得力に欠けます。
問題は、いかなる支出に借金を認めるか
会社経営でも無借金経営が望ましいのでしょうが、多くの企業が借り入れを起こして経営をしています。問題は、どのような支出に対して借り入れをしているかであって、借り入れがすべて悪いわけではありません。例えば、将来の売り上げ増加につながる設備投資であれば、その資金を銀行からの借入れで調達しても合理性があるでしょう。
「成長の3要素」に国債発行を限定する
同様に、国においても、公債発行の対象としてどのような支出が適切なのかを再整理すべきだと思います。例えば、将来の経済成長の源泉になるような支出については、成長に伴う税収増などの「リターン」が期待できるので、国債発行(借金)による財源調達も認めるが、費消するだけで将来の税収増を期待できないような支出については、国債の発行を認めず、税財源と保険料等で賄うことを徹底すべきと考えてはどうでしょうか。
もっと具体的に言えば、経済成長が、①労働投入、②資本蓄積、③イノベーションの3要素で成り立つことを考えれば、国債発行も、この「成長の3要素」に関係する以下のような支出についてのみ認めてはどうかと考えます。
【成長に資する3分野】
①人的資本形成に資する予算
例)子育て・教育
②社会資本形成に資する予算
例)道路・橋・港
③科学技術の振興に資する予算
例)研究開発(R&D)
国債は、「こども国債」「社会資本国債」「科学技術国債」の3種類に
そして、
①のために発行される国債を「こども国債」
②のために発行される国債を「社会資本国債」
③のために発行される国債を「科学技術国債」とし、
財政法を改正して、国の発行できる国債は、これら3種類に限ることとし、費消されるためだけに発行される赤字国債は、認めないことにします。
(注)ただし、当面の間は、別法により、元利払いを賄うための「国債費国債」の発行は認めることとします。
私の提案する「こども国債」は、こうした公債発行対象経費の抜本的見直しを伴うものであって、単に借金を増やす政策ではありません。
代表選の際も、子育て・教育予算のためには「こども国債」を発行すべしと訴えましたが、同時に、高齢者向け支出については税財源と保険料をしっかりとあてるべきと言いました。ここに、「こども国債」を提案したもう一つの意味があります。
例えば、5%消費税を増税する場合にも、1%分を新規の福祉充実策に回すとともに、4%分を赤字国債の発行抑制にまわす従来の考え方を踏襲してもいいとは思いますが、その4%分の半分の2%分(約5兆円)、「こども国債」を発行すればいいと思います。
これだと、国債発行の抑制ペースが落ちますが、急に国民負担を増やすよりも、教育無償化の実現といった家計の負担軽減策を同時に講じることで、経済へのマイナスインパクトを小さく抑えることもできます。
償還財源として相続税の増税も
民進党は、教育無償化の財源として、金融所得課税の強化や資産課税の強化を提案しています。私も、世代間格差を是正する意味からも、償還財源の一つとして相続税増税は検討に値すると思います。ただ、迅速に子育て・教育予算を充実させるためには、まず「こども国債」の発行で必要額を速やかに調達すべきです。その際には、無償化にすべき高等教育の内容を絞り込むことも必要です。
なお、「こども国債」を無利子、相続税非課税の国債にすれば、相続税増税と相まって、「こども国債」を購入した高齢富裕層から若年層への資金の移転も加速すると思われます。「こども国債」の商品設計については、さらに議論を深めたいと思います。
ワイズ・ボロウイング(賢い借金)の議論を
ちなみに、現在の「建設国債」の発行対象経費には、「三世代同居住宅」など、個人資産の形成につながるような事業も含まれています。こうした事業に係る借金の負担を、関係のない次世代に負担させる合理的理由はありません。したがって、「建設国債」を「社会資本国債」に見直していくにあたっても、対象経費の見直しや大胆な絞り込みが不可欠です。
とにかく、借金=悪という発想ではなく、どのような支出になら借金をあてても合理性があるのか、ワイズ・スペンディング(賢い支出)という観点に加え、ワイズ・ボロウイング(賢い借金)の議論が必要です。
以上のような理念に基づいて構想した「こども国債」の考えについては、ぜひ自民党においても引き続き検討いただきたいと思いますが、私たちも、自民党に負けないよう、党内での議論を深めていきたいと思います。
編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2017年5月5日の記事で「こども保険」「こども国債」関連のエントリーをまとめて転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。