衆参同日選挙の制度化を - 池田信夫

池田 信夫

参院選で民主党が大敗したことで、衆参の「ねじれ」が決定的になった。首相の在任期間が短いことや消費税率が主要先進国でもっとも低いことも指摘されているが、これらの問題には共通の原因がある。選挙が多すぎるということだ。新憲法のもとで行われた選挙は衆議院23回、参議院22回の合計45回で、平均1.37年に1回である。これは主要国でもっとも短い。


民主党が模範とするイギリスの下院選挙は平均4年で、上院は選挙で選ばれないのでねじれは起こらない。アメリカの下院は中間選挙があるので2年だが、選挙が同時に行なわれるので、ねじれが問題になることは少ない。大統領と議会の対立は日常的だが、これは行政府と立法府なので、日本とは性格が違う。日本の衆参両院のようにほとんど同格の議会が同じことを二度審議するのは、世界的にも珍しい。

どこの国でも増税を掲げた与党は選挙に負けるので、今回の結果は意外ではない。問題は、次の選挙までの時間が短いので、政権が安定している時期に増税できないことだ。このため政治家は、税制改正より次の選挙を優先して増税を先送りしがちになる。選挙で与党が負けるのもよくあることだが、負けるたびに与党の党首が「切腹」するのも日本的な習慣で、選挙の間隔が短いと首相の寿命も短くなる。

昔から「参議院無用論」があり、憲法改正でも検討項目になっているが、憲法問題になると是正は容易ではない。公職選挙法を改正して衆議院を小選挙区、参議院を比例代表とする案も昔からあるが、選挙制度の改正も50年に1度しかできなかった。

私は、最小限の制度改正でできる「近道」として、衆参同日選挙を義務づけてはどうかと思う。具体的には、公選法を改正して「首相が衆議院を解散したときは、選挙は次の参院選と同時に行う」と決めるのだ。これによって、2013年までに衆議院を解散した場合は、2013年の参院選と同時に総選挙を行なう。こうすれば衆参の多数派が一致するので、ねじれが起こる確率は低くなる。

首相の解散権を制約するという反論があろうが、いわゆる7条解散が憲法の想定したものかどうかについては議論がある。少なくとも、与党の都合のいいときに選挙ができるよりは、3年に1度ぐらいに制限したほうがいいだろう。これによって首相の寿命は少なくとも3年にのび、税制論議も冷静にできるようになると思うが、どうだろうか。

コメント

  1. hosoyamasaki より:

    とても勉強になります。
    ありがとうございます。

  2. ksmethod より:

    ねじれが悪いという思考がよくわからん。
    議論など不要で、多数決の論理でどんな法案でも成立するならば、そもそも国会での存在意義がないのでは?

  3. 池田信夫 より:

    TBで「不信任案が可決されたらどうするのか」とか「参院選の前に衆議院の任期が終わったらどうするのか」という質問がありますが、そういう場合は憲法に従って選挙すればいい。ここでいうのは「7条解散」を制限するという趣旨です。

  4. shin_jpn より:

    トラバ先で追記含めて書かれていますが・・・
    結局の所、池田先生の案を(当然改憲無しで)実施する場合、「参議院選挙前に必ず7条解散を行うことの義務化」になります。実質的には衆議院の任期3年化(69条解散が挟まればさらに短期に)ですね。
    これが意味するのはさらなる選挙の頻繁化です。「頻繁に民意を問うのは良いことだ」という考え方もあるので、一概に悪いこととは言えませんが、池田先生の主張とは反対の結果を産む制度ではないでしょうか。

    ちなみにアメリカの二院制は世界有数の「強い二院制」(=両院対等)ですので、池田先生の認識は事実に反します。両院の権力の対等性で言えば、日本を含む「中間的二院制」が多数派なので、これが「世界的に珍しい」というのも事実に反します。

    池田先生が主張する観点で「日本の議会政治が上手くいってない」とするなら、その原因は
    『「合意形成型民主主義」を想定した憲法下で、実際には「多数派形成型民主主義」が行われている』
    ことに求めるべきだと思います。
    アメリカでは「強い二院制」で、両院のねじれがしばしば起きるにも関わらず、立法府は充分機能しています。これは、行政府の議会からの独立性が高い純粋大統領制(これこそ両米大陸と米系国家くらいで世界的にマイナーな制度です)であることの他、議会運営の習慣として党議拘束が無いため、大統領出身党の多数/少数に関わらず、妥協次第で行政府の要請する法案の多数派が形成できることにあります。
    アメリカ的な状況を念頭において起草された日本国憲法下で、憲法に規定のない政党が党議拘束のような手段を使って「多数派形成型民主主義」の手法を習慣化していることが、真の制度上の問題点につながっていると考えるべきかと。

  5. 池田信夫 より:

    記事の記述がちょっと荒っぽかったので正確に書くと、

    ・任期満了や不信任案が可決されたときは、今までと同じように選挙を行なう。

    ・7条解散については、次の参院選か任期満了のうちの早いほうで選挙を行なう。解散はそのときまで延期する

    これは実質的には、7条解散の時期を3年に1度に制限することになり、選挙の回数は確実に減ります。ただ回数を減らすだけなら、参院選を全員改選に改めることも一案ですが、これでは衆参のタイミングのずれが残ります。

    アメリカの上下院についてはおっしゃる通りで、ねじれがあまり問題にならないのは同日選挙(上院は一部改選)だからです。これは本文を訂正しました。

  6. jazzo より:

    現状に対して「ねじれ国会が問題の原因である」と考えるのは、少し短絡的すぎるように感じました。

    田原さんが述べられているように、これを機会に政策の本格的な議論をすべき時が来ているように思います。
    http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100721/237775/

  7. yskshibata より:

    池田さんのお話に賛成です。
    政党がじっくりと政策を実行するには日本は選挙が多すぎます。
    ただし、池田さんの案が有効に機能するには条件が一つあると思います。
    参議院の1票の格差を徹底的に是正しないと、同日選でもねじれが生じかねません。
    今回の参院選は、比例代表では民主党が自民党に400万票以上の差をつけて勝っているのに、選挙全体の当選者数では民主党が大きく負け越しています。
    これは地方の1人区で軒並み自民が勝利したからです。
    このような歪んだ制度は直ちに見直されるべきです。