昨日から香港で開催されている無線LANの民間標準団体であるWi-Fi Allianceのミーティングに参加している。 ここは、IEEE802.11よりも、よりビジネスに近い製品の認定や相互互換性の担保をする機関で、お馴染みのWi-Fi LogoやWi-Fiという言葉もここで制定されている。
このミーティングは、年に三回、米、欧、亜で開催されるほか、下部のタスクグループのミーティングはテレカンで行なわれている。 また、IEEEとの大きな違いは、企業の連合であり会員企業に投票権が付されている。
今回、私は10年振りくらいに参加したのだが、ここの中心メンバーの多くは、IEEE802.11の中心メンバーでもある。 つまり、無線LANのビジネスをリードしている欧米のチップベンダーや製品ベンダーは、IEEEという半分公的な標準化機関にも、Wi-Fi Allianceというピュアな民間連盟にも積極的に参加し、標準の制定からその普及までを戦略的に展開している。
技術者がイノベーションを起こすような技術を創出たとしても、デファクトスタンダートをとり、市場を創出するには、それを国際標準化の世界で戦略的に展開することが必要で、このためには網羅的にステークスホルダーの集まるコミュニティで活動をする必要がある。
欧米のリーディングカンパニーは、さらにIETFやITU-Rなどにも、同一のスタフやチームを戦略的に送り込んでいるが、彼らはこれらの活動が有機的、戦略的に展開されている。 今回の会議にも、日本の企業が参加しているが、彼らはIEEE802.11に参加している同じ会社の人間とは、まったくといって連携している様子が無いのには驚いた。
たとえば、IEEE/IETF/Wi-Fi Alliance/ITU-Rなどに網羅的参加し、これをリードしようとすると、5~10人程度のスタッフが、ほぼ毎月のように世界の何処かで開催されるミーティングに参加し、さらにはそれらの活動に対する寄与が発生するので、安く見積もっても年間で1億円程度の経費は発生するだろう。 しかし、この投資をしているからこそ、彼らは今や世界で一番普及している無線LANというビジネスシーンをリードし成長しているのだ。
今回、キーノートスピーチは、サムソンの方だったのだが、韓国の場合はサムソンとETRIなどの国の研究機関が密接に連携し、水面下で情報や戦略連携がされていて、この辺りは産学官の連携による総合的な国際競争力の出し方がうまいと歓心する。
実際、IEEE802.11では、日本のNICTや大学の研究者が沢山参加しているが、ここには彼らの姿は無いし、ここで活動している人と,彼らとの連携も無いのとは、大きな差異を感じる。
どのような素晴らしいイノベーションがあっても、それを世界のマーケットで活かすための、標準化とか連携活動を展開できなければ、もはや局地戦では世界市場で戦えないということを、ぜひ日本の企業にも認識してほしいのものだ。
因みに、ホワイトスペースもスマートグリッドも、まだまだIEEEでも長い道のりなのに、このWi-Fi Allianceでは、もう大きなテーマとして実に多くの参加者が活動している。 コンカレントな活動こそが、Time to marketによる利益の源泉ということも、忘れてはならいな重要なポイントだろう。
この前のFCCの発表を紹介するだけのような、流行モノ追いだけの表層的な評論ニュースというのも、日本のイノベーションの阻害要因かもしれない。 外国の情報を知っているだけで評価されるような研究者や評論家は、そろそろ淘汰される時代かもしれない。