日本は「デフレ」なのか

池田 信夫

議論の大前提として、まずデフレとは何かを明確にしておく必要があります。小幡さんもいうように、物価の下落は必ずしも不況とは関係なく、それ自体が悪いとも限らない。さらに物価が下落するのは、マネタリーな要因リアルな要因があります。メールマガジンの第2号の一部を引用すると、

デフレーションとは、経済学の定義では「通貨供給の減少によって一般物価水準が下落する」マネタリーな現象です。物価の下落によって実質資産は増えますが、実質債務も増えます。また実質賃金が増えますが、名目賃金が下方硬直的だと失業が増えます。このため、1~2%のマイルドなインフレが望ましいというのが、日銀を含む世界の中央銀行のコンセンサスです。


これに対して、ユニクロのジーンズが1000円以下で売られるのは、リアルな相対価格の変化であって、デフレではありません。ところが世の中には浜矩子氏のように両者を混同して「ユニクロがデフレをもたらす」などと主張する人がいるので、困ったものです。ユニクロの服が他の店より安いのは価格競争であって、実質所得を増やす望ましい行動です。


もし日本の物価低下の原因が貨幣的なデフレだけなら、すべての価格が一様に低下していなければなりませんが、そういう現象は見られない。上の図は、野口悠紀雄『日本を破滅から救うための経済学』から引用したものですが、この20年間に耐久消費財の価格がほぼ半減したのに対して、医療・福祉関連サービスの価格は1.5倍になっています。

耐久消費財のうち、さらに細かくみると、コンピュータなどのIT機器の性能あたりの価格は、ここ20年で1/1000以下になり、中国から輸入される衣類や日用品の価格も1/10以下になっています。このように技術革新や新興国の台頭によって物価が安定する傾向は90年代以降、世界的にみられ、デフレと区別してdisinflationと呼ばれます。

今までデフレは日本だけの特異現象だと思われていましたが、最近は欧米諸国で同じような現象が見られ、日本は「トップバッター」だなどといわれています。物価下落の原因が100%日銀にあるかのようにいう人がいますが、その論理によれば、今は世界のすべての中央銀行がバカだということになる。

こういう極論は、2ちゃんねるでやっているうちは何の害もありませんが、政治家がそれを真に受けると、「デフレ脱却」と称してナンセンスな法案が出てくる原因になります。デフレを論じる人は、少なくとも自分が何を論じているのか明確に定義してから議論してください。

コメント

  1. credible より:

    >医療・福祉関連サービスの価格は1.5倍になっています。

    同一サービスの価格で比較しているのでしょうか?(例えば、感冒の治療にかかる医療費など) 少なくとも診療報酬の単価には、下がるこそすれ上がっているとは考えられません。新しいサービス(商品)が増えているために、受けるサービスの総量が増えているのであって、価格が上がっているとは考えにくいのですが・・・物品だって数量を揃えなければ価格を比較する意味がないと思います。

  2. haha8ha より:

    credibleさん

     医療そのものと、その周辺のサービス業を分けての表現ではないでしょうか?池田先生の情報は分かりませんが、厚生労働省のデータ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken11/index.html)では「日本の医療はベッド数などの必要な人件費の割に支払い費用は少ない。」といえると思います。ソースはOECDのデータでドル換算なので円安?の補正は必要かもしれませんが、医療に取り巻いている産業がぼっているんでしょうか。