クールな起業家たちの戦いに共感できるか?(映画「ソーシャルネットワーク」鑑賞の感想より)

ソニー・ピクチャーズの配給による映画「ソーシャルネットワーク」のクローズドな試写会にお呼びいただき、来年1月15日の公開に先駆けて、鑑賞させていただきました。

結論を先にいうと、これはネットの業界にいない人であってもみるべき、特にこれから社会に出る学生なら必ず観ることをお勧めします。そして、僕自身は、シリコンバレースタイルのメガベンチャーの創造の仕組みをかいま見れたことの楽しさに加えて、主人公であるFacebookのCEO兼創業者であるマーク・ザッカーバーグへの共感もさることながら、彼に強い影響を与える、ナップスターの創業者 ショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバレイク)の言動に改めて強いインスピレーションを得ました(後述)。

この映画は世界最大のSNSであるFacebookの創業にまつわる話をまとめた、事実に基づく創作、というスタイルをとっています。つまり登場人物のほとんどは実在の人物であり、実名を使って描かれています。監督はデビッド・フィンチャー。「セブン」や「ファイトクラブ」「ベンジャミン・バトン」などを撮った名匠です。従って、リアリズムに富み、テンポの切れのよいスタイリッシュな映像に仕上がっています。お金を出して観るのに十分な価値のある名作です、IT業界ではない人やFacebookを知らない人であっても十分に楽しめるはずです。シリコンバレーでどのようにベンチャーが育ち、VCがどのような役割を果たすかについても分かりやすく描写されています。
ただし、その観賞後に、インターネット起業家やベンチャーの世界に強いあこがれを抱くか、それとも遠い世界あるいは自分とは違う世界と感じるかは人それぞれでしょう。


この映画で特に印象深かったのは、冒頭に述べたように、ショーン・パーカーの強烈な個性です。
彼はマークにベンチャー起業家としての心構えを与え、巨額の資金を集め急成長するためのさまざまな指南をします。
いわく「100万ドルの企業価値で満足するな、10億ドルを目指せ」(事実、現在Facebookの企業価値は250億ドルとも500億ドルともいわれます)、「どうせ釣るなら1.4tのメカジキを狙え」「強気でいけ、シリコンバレーは競争社会だ、激しい戦場なんだ」などなど。

こうした態度に、マークの学友であり共にFacebookを創業したエドアルド・サヴェリンは気後れし、反感を抱きます(ベンチャーに関係のない世間一般の人は彼と同じように、”これだから起業家は嫌だ”と辟易した気分を抱くかもしれません)。
サヴェリンからすれば、ショーンが作ったナップスターは音楽共有ソフトというよりも(ウィニーなどの世間的な反応と同じで)コンテンツを盗用する悪徳的なツールであり、ショーン自身もドラッグや酒を美しい女性と享楽している反社会的な危険人物に見えるのです。
サヴェリンは、ショーンにこういいます。「あなたは音楽業界から訴えられて、裁判で負けたじゃないか」と。
するとショーンはこう言い返します、「裁判では負けたが、勝ったのは俺だ。その証拠にCDは売れなくなったじゃないか」と。
ショーンにとっては、確かにナップスターの起業において、経済的には破産に追い込まれたわけで、起業自体は成功したとはいえません。しかし十分な知名度と人脈は得た。さらに音楽共有システムを一般化することで、レコード、テープ、CDという物理的なメディアで流通してきた音楽コンテンツのビジネスを、ネット上で配信されるデジタルデータにかえて、ビジネス全体を変質させた。つまり社会を変えた、という自負がある。
マークとFacebookに、自分が得たノウハウを与えることで大きく成長させ、自分自身も今度こそ経済的な成功を得る、という想いをショーンを突き動かすわけです。それは自分のチャレンジを潰した社会への復讐でもあるし、起業家としての不屈の反骨精神の現れでもあるのです。

僕はショーン・パーカー自身をロールモデルとしたことはないし、映画で描かれている彼がすべてリアルであるとも思いはしません。劇中の彼も、自分に反目するサヴェリンを容赦なく排除しようと画策するし、さらに背徳的な行為によって自分自身の足を引っ張ってしまうこともしてしまいます。その辺りの描写が、普通の感覚の人間にとっては「ほらみろ」と、起業家をいかがわしく感じさせてしまう結果にもつながりかねません。
しかし、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のキャプテン・ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)には拍手を送るのに、このショーン・パーカー(や、もちろんマーク・ザッカーバーグ)に非難の目を向けるのは間違いです。彼らは等しくロックスターだからです。

だから僕は敢えて言います。
この映画のエッセンスは彼の言動にあります。また、起業家の魂や気概は彼の中に正確に描かれています。
ベンチャー起業家は一種の海賊であり、行為の正当性はおいて、優れたアイデアを見抜き、それを実際の行動によって形にしていく(Activateする)、それをやり抜く気違いじみた執念こそがすべてだからです。

ショーンがマークに伝えたことを一言で言えば、Think Big ということにほかなりません。
大きく考えろ、ということです。ヒットを狙うだけではホームランはうてない。ホームランを打つためにはホームランを狙わなくてはならないということです。

この映画の表の主役はマーク・ザッカーバーグですが、同時に陰の主役はショーン・パーカーです。
この二人が影響し合うことでFacebookは生まれた。
この映画はネット業界を描写していますが、登場人物はまさしくロックスターです。その強烈な個性と執念に酔いしれませんか。
この映画を観た後で、起業してみたいか、それともそう思わないか。感想を伺うのが楽しみです。

コメント

  1. bobbob1978 より:

    FACEBOOK自体が元々はかなり不埒な目的で作られたものですよね。
    ただ元々どのような意図で作られていようと便利なものは便利なのです。それが広まるのを止めることは出来ません。善意の下で作られたものが善いものとは限らないし、不道徳な目的で作られたものが悪いものとは限らない。善良な人間は認めたくないかも知れませんが、これが世界の現実なのでしょう。