官民で海外からの技術移転を踏み台に成長する中国

大西 宏

海外技術を中国に移転させ、それを踏み台にして、技術革新を加速させ、海外市場にも打って出る貪欲な中国の成長戦略が目につくようになってきました。そんな中国の成長戦略は、新たな国際摩擦になってくるでしょうが、この流れは、中国が成長する魅力的な市場であり、日本や欧米の先進国の企業間が中国市場での主導権をめぐっての国際競争をつづける限り、中国側がカードを握りつづけ、歯止めをかけることが難しいのが実態です。
日本の技術優位も大きく揺らぐ時代にはいってきており、日本がどのように競争優位の戦略を描くのかが大きなテーマになってきています。


きっと、中国国有企業「中国南車(CSR)」の新幹線列車「和諧号」が「営業運転する列車の中で世界最速」を実現しただけでなく、それを売りにして、米国やブラジルなどの新幹線プロジェクトで、日本の強力なライバルとして登場してきことに、あっけにとられ、苦々しい思いをもったのは、技術供与を行って来た川崎重工だけではなかったはずです。
日本から見ればあきらかに技術の盗用であり、なりふりかまわず成長を追求する中国の姿を象徴するできごとです。しかし、そんな事例は日本の新幹線だけではありません。

戦闘機も、ロシアからのライセンスを受け、中国で生産していたのが、基準に合致しなくなったとして突然契約を解除し、中国の「独自技術」によるより高性能な戦闘機を開発し、しかも途上国に販売攻勢をかけはじめたことは、日本の新幹線とまったく同じ構図です。

中国、ロシア製そっくり戦闘機を途上国に販売攻勢

日本の新幹線は、JR東海が技術を全面的に開示しなければならないことに難色をしめし、車両の中国への販売を見送ったのですが、JR東日本が積極的に進め、その技術供与を川崎重工が行わざるをえなくする中国のトラップにひっかかってしまったことになります。

では、そういった技術の流出に歯止めを効かすことができるかというと、簡単ではありません。

たとえば、SONYが液晶への進出に遅れ、その遅れを取り戻すために、液晶パネル生産をサムスンに委託したのですが、その際に、SONYのもっていた高い画像処理技術がサムスンに流出し、それがサムスンの今日の品質となっているといわれています。
知り合いの金型メーカーの経営者が嘆いていたのは、発注元の企業が、ことこまかく技術を開示させ、気がついたら、注文がこなくなり、調べてみると、中国企業にその技術を移転し、中国で金型をつくっていたそうです。

そういった経路だけでなく、製造工場が中国に集まれば集まるほど、自ずと最先端の技術も中国に集積されてきます。

iPhoneやiPadの生産だけでなく、日本のゲーム機や情報家電の生産を受託している鴻海精密工業は、著しい成長を遂げています。自殺者を何人もだして問題になったフォックスコンで知られる企業で、台湾資本とはいえ、主力工場は中国本土にあります。

日経によると、その鴻海は、世界最大の家電メーカーであるサムスンに並ぶ10兆円企業になることも視野にはいってきたといいます。
しかも製造を請け負う会社というだけでなく、SONYのメキシコやスロバキアのテレビ工場も買収し、上海で家電量販店にも進出をし、川上から川下までを統合した企業になろうとしており、やがて自社ブランド製品にチャレンジしてくることは間違いないでしょう。

サムスンに立ちはだかる新・巨大企業(アジアBiz新潮流)

さて、かつて米国が日本製品にことごとく敗北していたころ、米国は日本の企業の強さがどこにあるかを探るために、日本企業にOEM生産の話をもちこみ、技術を開示させ、また工場に入って、専門家たちがことごとく日本の生産技術を調査しつくしたといいます。

しかし、米国が取った道は、日本の後追いではありませんでした。後追いができたとしても、製造では高い付加価値もえられず、また米国の競争優位にならないと判断し、新しい産業創出を促進する政策を選びました。

重要な技術を見せない、いわゆるブラックボックス化のために日本に工場を戻す流れでてきていますが、時すでに遅しの感もあります。
さきほどの鴻海の最新の製造設備を支えているのは、日本のファナックですが、ファナックの場合は工作機械の頭脳である制御技術の標準を押さえており、それが参入障壁となっています。
あるいは、技術が普及しコモディティ化すれば、より付加価値の高い次の分野、より高度な技術を必要とする分野に移動していく戦略をとる日本電産などの企業もあります。

いずれにしても、日本が製造で培ってきた優位性にしがみつき、技術やビジネスでのイノベーション努力を怠れば、気がつくと技術ですら中国に追いぬかれてしまっていたということになりかねません。

JBpressのフィナンシャルタイムズの記事で、このように中国が外部からのイノベーションを取り込み、それを踏み台にして小さなイノベーションを重ねていくことは、本物のイノベーションは起こってこず、グーグルのような新しい企業も生み出せないとしています。それは日本も抱えている壁であり、それが日本の成長停滞の最大の原因になってきているのではないかと感じます。

技術的優位を得るために「近道」する中国

コメント

  1. guhshi より:

    中国には許せない感情がいっぱいです。

  2. minourat より:

    これは、1960年・1970年代に日本の通産省と企業が推進して高度成長の原動力としたのではないのでしょうか? 

    私の良く知っている例では、 計算機はGE・Honeywellから、 発電機・タービン・原子炉はGEから、カラーテレビはRCAからの技術導入でした。 ミニコン等の小さい物は、 2年ほどの契約で技術が消化された時点でおさらばでした。 カラーテレビは、 どんどん米国に輸出され、 RCAはつぶれてしまいました。

    私なんかは、 これらの設計仕様書を半分は英語の勉強のつもりでせっせと読みました。

    韓国・中国は日本がどのようにして高度成長を実現したかもちろん研究したとおもいます。

  3. minourat より:

    > このように中国が外部からのイノベーションを取り込み、それを踏み台にして小さなイノベーションを重ねていくことは、本物のイノベーションは起こってこず、グーグルのような新しい企業も生み出せないとしています。

    在米の中国人がおこしたNvidiaのような技術的に最先端をゆく会社がいくつかあります。 国とか組織にたよらずギャンブル好きな中国人は日本人より大胆です。 さらに、いまは米国の大学院で学ぶ多数の中国からの大学院生がいます。 それから、 華僑との連携も無視できません。 台湾がわずか数年でPC業界を席捲したような事態が、 もっと大規模に起きる可能性もあります。