就職難は大学生の増え過ぎが原因」に対する反論 - 加藤智将

アゴラ編集部

“就職難は大学生の選り好みが問題”という意見に対しては、”ナビサイトへの就活生の集中が問題”という内容の記事を以前投稿した(「就活生を救う意識改革」)。今回は、”就職難は大学生の増え過ぎが原因”という説についても反論を行いたい。


まず、”大学生が増えた”という事実は受け止めなければならない。1990年に24.6%であった4年生大学への進学率は、2009年には5割を超えた(文部科学省 学校基本調査より)。

がしかし、これをもってすぐに”就職難は大学生の増え過ぎが原因”と結論付けることはできない。

何故なら、2011卒の大卒求人倍率は1.28倍(リクルートワークス 大卒求人倍率調査より)。対して、平成22年7月末における高卒求人倍率は0.67倍で、沖縄に至っては0.12倍である(厚生労働省 平成22年度高校・中学新卒者の求人・求職状況より)。すなわち、仮に大学進学率が今より下がって高卒者が増えたとしても、更に就職が厳しくなるだけなのである。むしろ、大学進学したほうがよほど就職のチャンスが増える。

では、何が問題なのか、それは”理工系学生が少なすぎる”ことにある。

就活生なら聞いたことがあるだろう。”機電系は就活無敵”であると(機電系とは、工学部で機械工学及び電気電子工学を学ぶ学生を指す)。

実際、”大学生が多すぎる”と言われている中で、理工系学生(ここでは理学部及び工学部と定義する)の割合は年々減り続け、95年の55万人をピークに、2009年には48万人にまで減っている。しかも、技術・技能人材は慢性的に不足している(中小企業庁 中小企業白書、及び文部科学省 学校基本調査より)。

つまり、問題は”技術系の人材が不足しているにも関わらず、職種と学習内容にほとんど接続のない文系学生ばかりを増やしてしまった”ことであり、決して「大学生全体が増えすぎたから」就職難になったわけではない。もしも大学生の数が変わらず、理工系の割合が今の倍であったとしたら、おそらく今ほど就職難が問題にはならなかったはずである。一般的に、文系学生は技術系職種に応募できないが、理系学生は営業・事務系職種を受けることが可能である。つまり、理工系の割合が今より増えても困ることはない。

“大学生が増えすぎた”と批判するのではなく、まずその中身に注目すべきなのである。
(加藤智将 東京大学大学院) 

コメント

  1. ytomoya84jp より:

    「就活生を救う意識改革」も読ませて頂きましたが、

    結局「学生の質が低い」という結論に至るのではないでしょうか?

    (質の低い)大学生が増えすぎたという認識でおります。

    勉強もしない、チャラチャラした文系の学生には元から理系は無理なのです。

  2. hiranarihashira より:

    工学部の就職が強い理由がその専門性と勉強量によるのなら、文系、特に経済学部や商学部あたりに勉強に励み、その専門性を高めようという動きが出てもおかしくないのになぁと思いました。

    私は大学生ですがその辺りの学生で熱心に勉強している人たちはけっして多くないように感じます。

    まぁ懸命に勉強しても就職先がないなんていう理学部の様な所もあるので一概に言えませんが。

  3. okubyou_na_hito より:

    でも理工系の学部全体の定員を増やしたところで、応募してくるのは数学のできない人ばっかりですよ。そうすると数学のできない人を入学させて、大学で中学校の数学の復習をしないといけない。まあそれでも今の状態よりは若干ましかもしれませんが、結局全体の構図としては、優秀で数学のできる学生の絶対数が減って、残りの数学のできない人達が、どの学部にせよ大学に押し寄せているということには変わりがないんじゃないですか?

    問題の根源としては、1つは大学生ではなく大学が多すぎる。教員をクビにできないから、大学を維持するため学生全体の多くの割合を大学に入れないといけないけれども、そうすると多くの学生はあまり優秀ではない、ということ。もう一つは大学にシグナリング装置としての役割があるということ。

    1つ目に関しては、池田さんが何度も言ってる「若肉老食」の構図そのもの。

    2つ目に関しては、他の記事のコメントにも書きましたが、TOEICのような感じで中学校までで教える範囲の数学および他の科目の学力テストを実施するようにして、それを高校入試、大学入試の得点の一部とするのです。そうすると企業も人を採る際にその点数を見るようになるでしょう。「中学校までで教える範囲」というと簡単そうな印象をうけるかもしれませんが、そう思うなら有名私立中学の入試問題を解いてみてください。これらは小学生レベルの問題であるはずですが、さてどうでしょう?

  4. okubyou_na_hito より:

    「きちんとした」理系の学生を増やす、という視点で考えると、高校までの教育を見直し、理数系科目と英語を重点的に教えるというのも解決策として考えられます。

    よく思うのですが、国語系の教育に時間を割きすぎているのではないでしょうか。国語系の科目は、コミュニケーションツールとしての「日本語という言語の使い方」を教える部分と、文学というアートを教える部分に分かれると思うのですが、後者はそれほど重要でなはなく、削ってもいいはずです。前者は増やしてもいいでしょう。議論の仕方など、教えることはあるはずです。日本人の学生は、他の国の学生に比べて明らかにコミュニケーションスキルが劣っています。古文や漢文はそもそも教える必要性があるのでしょうか?

    放課後も部活に時間を費やすんだったらもっと授業時間を増やしてもいいんじゃないかと思いますね。学生も背に腹は替えられないことを理解する必要があるでしょう。「若肉老食」の問題が解決不能なのであれば、この路線が一番現実的かも知れません。

  5. mekashin01 より:

    理工でも本当に強いのは電気、機械、材料だけだよ。この学部を持っているのはいわゆる昔からある十分有名校がほとんど出し。全入学の大学には元々関係ないんじゃん。英語が出来て当たり前の文系エリート、そこそこ真面目にやれるいわゆる昔からの理工系意外、老人の世話用の福祉学部で問題解決ないよ。

  6. クリントン大西 より:

    就職先が減った、という表現が誤解を招くのかも。

    「正社員雇用が減った」

    という事なのでしょうね。

    また、大学に費やしたコストを考えたら(特に親の心理として)いくら就職しやすいからといっても、正社員だからといっても、新聞配達員や交通警備員にはなって欲しくないと。

    最終的には、理系学生云々というよりも……やはり雇用の流動性、正社員を解雇しやすい環境作りが大事といった話になりそうです。

  7. agora_inoue より:

    わかりやすいインセンティブとして、理工系の学費を安くすべきです。補助金を人文社会系から削って、理工系に回してはいかがでしょう。

  8. kenta_f0219 より:

    大卒求人の絶対数はそれほど減っていないので、大卒の就職難は大学生の数が増えすぎたことに由来すると思います。高卒求人が減ったのは、工場の海外移転など低学歴者の就職口が流出したことが原因でしょう。海外に工場が流出しても、本社や工場の管理機能など大卒の需要はあまり変わりません。むしろ、増加するかもしれません。いや、日本人学生がぐずぐずしていたら海外工場のポジションも外国人に奪われるでしょう。

  9. mekashin1 より:

    理工学部を増やしたって5万人もいくはずがありません。
    というかつぶせるものはつぶすべきなんですよ

    やっと大学バブルがはじけたって感じ

  10. kotodama137 より:

    中小企業では新規産業を生み出すために、理系の学生が必要なはたしか。サービス業が持ち直しが遅れているのでは。または産業構造の変化を読みきれなかった大学側の失敗かもしれない。

  11. iseeker より:

    理系が少ないのが問題ではなく、理系文系関係なく優秀な学生が少ないのが問題なのでしょう。今は理系の枠が少ないために、優秀な学生の割合が高くなっているだけで、理系の枠を広げたところで、レベルの低い理系が排出されるだけです。
    ここ20年で増えた新設大学は言うまでもないですが、枠を広げた有名大学の卒業生の中には、優秀とは言えない学生がたくさん紛れ込んでいます。子供の数も減ってますから、それまで上位2割しか入れなかった大学に、上位3割までの学生が入学したりしてますから、レベルが下がるのは当然です。
    しかも、ゆとり教育の影響で、日本の学生の平均学力は低下しています。日本企業が欲しいと思われるレベルの学生の総数が減っているのですから、企業の人材確保熱が加熱するのは当然です。
    一人の正社員を雇用するということは、生涯賃金や社会保障の負担金などを考えると、数億円の投資となると言われます。だったら、レベルの低い日本人より、優秀な外国人を採用しようというのも当然の流れです。
    結局、この問題を解決しようと思ったら、日本の教育レベルを向上させるしかありません。もちろん、実業に役立つ教育という意味で。それができないなら、途上国の労働者と同レベルの待遇で我慢していただくしかありません。介護などの日本人が嫌がる仕事でも、彼らは喜んでしますから、それに対抗するのはなかなか大変です。

  12. tomok より:

    筆者です。池田信夫先生に「”大学生が多すぎる”への反論」として紹介されてしまったので勘違いされてしまいましたが、この記事はあくまで世間でよく言われる、単に「大学生が増えたことが問題」という意見に対する記事で、件の記事への反論はむしろ以前の記事のほうです。仮に大学生が今の半分になっても、ナビサイト掲載企業が全体の一割未満であり、学生が集中している以上は”就職難=就職に関して非常に大きなエネルギーが必要な状態”は変わりません。

    読んで頂ければ分かる通り、私の問題意識はむしろ池田先生と非常に近いところにあります。

    皆様コメントありがとうございました。非常に興味深く拝見させて頂いております。

    さて、私からは一点、”学生の質”についてコメントしたいと思います。

    一体、”質の良い学生”とはどんな学生でしょうか?

    コメントを見る限り、”しっかりと学問に取り組んだ学生”であるように感じられます。

  13. tomok より:

    例えば理系の研究職であれば、”成績も抜群で、論文も複数報出しており…”という学生は採用に関して有利になるでしょう。業務内容と学習内容にある程度関係があるからです。技術系総合職の場合はそこまで直結しませんが、やはり大学と職業がある程度接続しています。

    しかし、いわゆる”事務系総合職”の場合はどうでしょうか?成績抜群の学生を採用するでしょうか。それともサークルやバイトで人をまとめ上げた学生を採用するでしょうか。勿論両方兼ね揃えた法が良いのでしょうが、後者のほうが採用されやすいと私は思います。

    何故なら、事務系総合職の場合は”入社後営業になるのか法務になるのか経理になるのか”分からないからです。このため、どこに配属しても一定のパフォーマンスが上げられる人材を採用するのが合理的になり、大学での教育がなかなか評価されません。求める特性も非常に曖昧なものになるため、学生はとにかく”仕事に向いているであろう個性をアピールできる”ロジックを組むことに必死になります。このような状況で、学生に”学問に取り組め”といったところで、モチベーションは上がりません。