「光の道」―総集編(補遺)

松本 徹三

「光の道」に関する議論は先回の超長文の解説記事をもって終了と考えていたのですが、もう一度触れなければならなくなりました。というのも「無線にゃん」というブログサイト(http://wnyan.jp/185)にかなり長文のソフトバンクに対する批判記事が掲載されていることをTwitterで教えられ、これに対して全面的な反論をしておく必要を感じたからです。

私は、「この記事の内容はほぼ全面的に誤っている」と考えたにもかかわらず、Twitterでは「この記事はこれまでの批判記事の中では『抜群』である」とまで評しました。それは、この記事が、「相当レベルの認識(相当間違った認識ではありますが)」をベースにして、「網羅的」且つ「よく整理された形」で書かれているので、多くの方にこの記事を読んで頂き、その後で、それに対する私の反論を読んで頂ければ、本件の本質がよりよく理解されるだろうと思ったからです。


およそ何事につけても、議論の対立点は、「事実」「論理」「価値観」の三要素から成り立っています。このうち「事実」と「論理」は多くの場合、どちらかが間違っているわけですが、「価値観」は最後まで平行線を辿ります。つまり、議論で必要な事は、先ず「事実」と「論理」については白黒をつけ、その上で「価値観」を議論して、最終的にはそれぞれの人の「最終判断」に委ねる事だと思います。よく「議論が噛み合わない」という事が言われますが、これはこのプロセスがうまくいっていないのだと思います。

ご承知のように、私は、既存メディアを補うものとして、「双方向性を持つネット上での議論の応酬」が、「より多くの人々」に「より高い問題意識」と「より正確な判断基盤」を提供すると考え、その動きの中で、「アゴラ」が先駆的な役割を果たす事に期待しています。たまたま私が現在勤務している会社が深く関与している「光の道」の議論は、一つの絶好の題材でもあるので、私自身かくも大きな時間をその為に費やしている次第ですが、ここにおいても、上記のプロセスを徹底したく、その為に必要な「整理された反対論」をずっと求めてきたのです。

さて、ここで取り上げた「無線にゃん」の記事は、大略下記の四つの論旨から成り立っています。

1)ソフトバンクは広告で「A案かB案か」と問いかけているが、これは意味がない。こう問われれば100%B案がよいに決まっているのに、A案への投票が10%にも上っているのは、「B案は実現不可能」と考える人が多いからであり、これこそが問題の核心だ。

2)ソフトバンクの案のベースになっている「設備投資額」「設備保全費」「減価償却費」「管理コスト」等の数字は、NTTが算出している数字と大きく乖離しているが、これは、経験のないソフトバンクが想像で割り出した数字が非現実的だからだ。

3)何故ソフトバンクが「光の道」にかくも熱心なのかといえば、それは先の見えないADSLを早くやめたいからだ。だからこそソフトバンクは「メタル線の全廃」に始めから拘っているのだ。

4)ソフトバンク案を採用すれば、どこかで必ず国やユーザーに負担がかかる事になる。にもかかわらず、ソフトバンクは大衆を広告で扇動し、政治家に働きかけて、これを強引に推し進めようとしている。断固として阻止せねばならない。

以下、順を追ってこの全てに反論します。

先ず1)ですが、これは全くその通りです。しかし、それは、ソフトバンクの問いかけと同じ事でもあります。「今のまま放置すればA案になってしまいますね。しかし、もしB案が実現可能なら、国民(ユーザー)にとっては当然B案がいいですよね。それなら、B案が可能かどうかを、先ずは徹底的に検証してみましょうよ」というのが、ソフトバンクが言いたい事だからです。

本来ならタスクフォースがこれをやってくれれば一番よかったのですが、恐らくは、私が12月13日付の「総集編(続き)」で書いたような理由により、総務省とタスクフォースはこれを避け、「不確実性が多い」という理由だけでソフトバンク案を却下しました。

こうなると、ソフトバンクとしては、「単純にこの案を諦める」のか、「もっと国民(ユーザー)の立場に立って考えてほしいと、政府筋に再考を求める」のか、二つに一つしか選択肢はない事になり、前者を選ぶ事はあり得ませんから、後者を進めている訳です。つまり、今ソフトバンクがやっている「国民への語りかけ」や「政治的な働きかけ」は、タスクフォースや総務省の対応が期待外れに終わったことを受けての、ごく自然な流れです。

従って、今皆さんに見極めて頂くべき一番重要な事は、「B案は果たして非現実的なのか」という事、つまり、「無線にゃん」の批判記事の項目の2)に関する事だという事になります。

「無線にゃん」の筆者さんは、先ず「設備投資額」「設備保全費」「減価償却費」「管理コスト」の4つの項目で、ソフトバンクの提言の数字をNTTの数字と比較し、「ソフトバンクの数字は過小見積もりであり、従って実現不可能」と決め付けています。しかし、これこそが、この「無線にゃん」の記事の本質的な問題点を示しています。つまり、この筆者さんの全ての議論は「NTTが現在やっていることが正しいやり方である」という前提に立っていますが、この前提が正しいという保証は何処にもありません。

私は、9月6日付の「NTTが遂に土俵に乗ってきてくれた」と題する記事にも書きました通り、「この数字の差異は、まあ理解できるなあ」と考えました。勿論、ソフトバンクの数字が「過小」なのではなく、NTTの数字が「過大」なのだという事です。つまり、私は、「無線にゃん」の筆者さんとは正反対に、「NTTの現在のやり方は正しくない」という前提に立っており、「抜本的な改革」を求めているのです。そして、その「抜本的な改革」が非現実的だとは、全く思っておりません。

この様に、NTTの現状を無条件に肯定するか、現状に対して懐疑を持つかで、結論はかくも大きく変わってくるわけですが、これは「事実認識」の相違ではなく、まさに「価値観」の相違です。

そもそも、アクセス回線のような「独占に近い分野」では、「適正価格」は「申告されたコスト」に「適正利潤」を加える事によって算出されるので、競争分野のビジネスのように「苦痛を受けいれてでもコストを下げよう」というインセンティブは働きません。「人員配置の合理化努力」などが甘くなるのは勿論、機材の購買も恐らくは仲間内での随意契約が殆どで、入札などはあまりしていないのではないかと思われます。

さて、これから具体論に入りますが、こうなると、「無線にゃん」の筆者さんの事実認識の誤りと不十分さが随所に目立ってきます。

ソフトバンクは、先ず「本当に5年間で残り4,200万回線もの張替え工事が出来るのか」という問いに対し、「3人一組の工事班を全国で13,000班組織し、この人達が1200日働けば、4,600万回線の張替えが出来る」と説明しています。「無線にゃん」の筆者さんは、「ソフトバンクの試算は365日休みなしの前提になっている」かのように書いておられますが、勿論そんな事はなく、5年間(1825日)を上記のように1200日として計算しているわけですから、十分余裕を見た計算です。

この試算のベースとなった、「1日3件」という前提も、当然十分過ぎる余裕をもった数字です。現実に、ケイオプティコムが最近タスクフォースに提出した資料には、彼等の実績として、「一つの作業班が1日4件の工事をやっている」と書かれています。受注に応じて工事しているケイオプティコムの実績ですらそうなのですから、ソフトバンクの最近の試算に出てくる「1日5件」は、「規模の利益を十分生かし、肌目細かい作業計画を立てれば、十分可能」と考えます。「工事能力だけなら、1日3件でも十分だが、コストを切り詰めることを考えるなら1日5件を目標とすべき」というのは、自己矛盾でも何でもありません。

因みに、2007年9月の時点でNTTは当時750万回線だった光回線を「2010年期末までに3000万回線にする」という計画を発表しました。これは3年半で2250万回線を新設するという事を意味しますから、5年なら3,214万回線となります。受注に応じて五月雨式に工事をするというやり方でもこれが出来るのですから、発想を大転換した「計画的な工事」なら、4,200万回線程度は余裕綽綽でしょう。

それでは「計画的な工事」とはどういうものでしょうか? これは何も想像上の産物ではなく、現在シンガポールで実際に行われているやり方です。この詳細については大変面白いので別途ご紹介したいと思いますが、要するに「電話線の光への張替えを全国民に『告知』し、都合の良い日時を幾つか申告してもらう、それを緻密に組み立てて合理的な工事日程を組む」というやり方です。各ユーザーが迅速に希望日を申告して呉れるように、色々なインセンティブも用意しており、既に工事計画は極めてスムーズに進捗中です。

また、「無線にゃん」の筆者さんは、ガス管の工事を例にとっていますが、通信回線の工事は、「爆発などの危険を伴う上に、道路を掘り返さなければならないガス工事」とは全く次元が異なるものです。マンションへのケーブルテレビ回線の引き込みなどは、理事会の承認を取らねばならぬなど、大変難しいものですが、各戸に既に引き込まれている電話線の張替え工事だけなら、「補修工事に類するもの」と見做され、比較にならないほど簡単に出来るでしょう。

更に、この張替え工事の最大のポイントは、ユーザーへの負担が一切ない事、つまり、「プラスはあってもマイナスはない」という事です。屋根の上に取り付けたアンテナまで変えねばならず、ユーザーに相当な費用がかかる「テレビのデジタル化」ですら、国が方針を決めて、時間を切って実行しようとしているのと比較すると、「電話線を光回線に張り替える」というこのプロジェクトには、「ユーザーが反発する」というリスクは殆どなく、宣伝や営業のコストも極めて低く抑えられます。

次に、架空線や引込み線の「設備保全」に関しては、「無線にゃん」の筆者さんは、「ソフトバンクは全てNTTにまかせっきりで、自分達には何の経験も知識もない筈」 と勝手に決め付けておられますが、これは事実誤認も甚だしく、まずその辺の認識から改めて貰わないと、折角の議論が「噛み合わない」ものになってしまいます。

ソフトバンクグループに在籍する2万人以上の人員の中には、ヤフーBBの引込み線工事で苦労してきた人達だけでなく、ケーブルTV会社で架空線工事に携わってきた人達や、日本テレコムやソフトバンクモバイルの為に「NTT回線への繋ぎこみをやってくれる工事業者、保守業者」との折衝を日常の業務としている人達も数多くいます。この人達を素人扱いにするのはそもそも大変失礼な事です。

メタル回線の保守費について、「ソフトバンクは丁寧な調査もしないで数字を出している」と思われているかのようであるのも、甚だ心外であり、非常識と言ってもいいような「推量」です。ソフトバンクの試算は、NTT東日本が公表している数字や、NTTが各通信事業者に請求してくる毎年の接続料(当然、国際的な基準になっている「LRIC方式」によって算定されているであろうと仮定)に基づいて算出した推定値をベースにしています。これだけの大きな提言をしているのですから、その程度の計算をするのは当然です。

「無線にゃん」の筆者さんはご存知かどうか知りませんが、NTT東日本は総延長47.8万kmのメタル回線を現在運用しており、このうちの60%が既に20年以上使われているものです。15年以上使われているものとなると、この数字は80%近くまで跳ね上がります。一方、故障率はといえば、敷設後8年ぐらいはほぼ故障する事はないのですが、8年を越えた頃から、毎年1kmあたり5件ぐらいの割で故障が発生する事になり、18年を越えた頃から、この故障発生率が急速に高くなることが知られています。(敷設後22-24年では1km当りの年間故障発生率は15-20件にまで上がる可能性があります。)これを上記のNTTの施設の現状と重ね合わせて考えると、少し恐ろしくなります。

また、保全費というものは、ほぼ「回線の長さ x 故障率」で計算されるので、一加入者あたりの回線の長さが長い地方部では、一加入者あたりの保全費が極めて高くなることを意味します。この為、NTTの実績では、都市部の加入者4,410万人に対する1年間の保全費の総額が4,900億円であるのに対し、地方部の加入者490万人に対する1年間の保全費は、2,700億円と算定されています。この事から、一加入者あたりの保全コストを比較すると、地方部は都市部に比べ、何と5倍近くのコストがかかるわけです。(だからこそ、「地方こそ早く光に張り替えたほうが良い」という主張が出てくるのです。)

成る程、光ケーブルの故障率が使用年月によってどのようになっていくかについては、メタル線のような「実績に基づいた数字」は出そろってはいませんが、光ケーブルの方がメタル線よりは相当に故障率が低い事は、既に世界の業界の常識になっています。現実に、2010年3月に米国のオバマ政権が発表した「ナショナル・ブロードバンド・プラン」にも、この事が明確に謳われ、「保守コスト節減の為に、光回線への転換を急ぎ、光・メタルの二重保守構造を早急に改善すべき」という事が書かれています。

次は「減価償却費」ですが、ここでも「無線にゃん」の筆者さんには、ソフトバンクの試算の根拠についての理解が大きく欠落しています。ソフトバンクは、試算を行うに当たって、NTTが採用していると思われる償却期間を、LRIC方式で逆算する事によって推測しています。

この推測によれば、「局舎からき線点までの回線」の償却期間は、NTTもソフトバンクも21年で同じです。「架空線」と「引込み線」も15年で同じです。違うのは、「宅内配線」が、NTTが15年であるに対してソフトバンクが21年、「宅内のONU」が、NTTの9年に対してソフトバンクが13年、「局内施設」も、NTTの9年に対してソフトバンクが13年というところです。

ソフトバンクの設定根拠は明快であり、勿論「強引」でも何でもありません。先ず「宅内の配線」は、「架空線」や「引込み線」と異なって日光や雨風に露出されているわけでもなく、予期せぬ外部からの力を受ける可能性もないので、「局舎からき線点までの地下埋設回線」同様の21年とするのが妥当と考えました。「宅内のONU」は「伝送装置」の範疇であり、これはLRIC方式でも償却期間は12-13年とされていますから、これに倣いました。局舎内の装置についても同様です。

(なお、「無線にゃん」の筆者さんが言っているような「宅内設置のルーター類」は、通信事業者の所有物ではなく、ユーザーが自由に設置するか、無償供給を受けるものですから、ここで議論されている「償却期間」の問題とは関係ありません。)

では、何故NTTが償却期間を長い目に設定しているかといえば、それは「安全率を過大に取らない」事に対するインセンティブが働かないからです。競争環境にある事業者なら、「コストを下げて値段を下げたい営業部」と、「何事につけ保守的にやりたい経理部」が折衝して、経営トップが最終判断をするのですが、独占企業では、前述の通り、「申告コスト + 適正利潤」で接続料などが決められるので、コストは高く見積もる方が有利になるのです。

さて、最後の「管理コスト」がハイライト中のハイライトです。

「無線にゃん」の筆者さんは、「ナンバーポータビリティーや加入者番号管理などに大きなコストがかかっているが、『今まで一度たりともNTTの様な管理をやったことがないソフトバンク』は、そんなことはちっとも分からずに過小に見積もっている」という趣旨のことを書いておられますが、これには二重の大きな誤りがあります。

先ず、ソフトバンクモバイルは、ドコモやau同様、こういう仕事は全て自分でやっており、NTTのお世話には全くなっていません。従って、どういう仕事があるのか、どういうコストがかかるのかは、勿論熟知しています。「一度もやったことがない」どころか、ボーダフォン時代、更にその前のJフォン時代から、何年にもわたり死ぬ程やっているのです。

まあ、これはいいとしても、もっと大きい問題は、「アクセス回線の分離」つまり「1種事業と0種事業の分離」という「今回のNTTの構造改革問題の最大のポイント」を、どうやら「無線にゃん」の筆者さんは全く分っていないのではないかとも思われる事です。

番号を保有し、顧客管理に類する業務の殆どを行うのは、「アクセス回線会社」ではなく、この回線を使って様々な通信サービス(電話を含む)を顧客に提供する「通信会社」、つまり、NTTや、KDDIや、ソフトバンクや、イーアクセスのような会社なのです。アクセス回線会社でも若干の関係業務はこなさなければなりませんが、全体から見れば比較的小さな部分に限られます。

NTTが出してきた「管理コスト」の年間2,850億円は、6,341万回線で割ると一加入者当り月間375円にもなり、明らかに過大です。(ソフトバンクの試算は月間130円。)私には、ここに、現在のNTTの「卸売り部門(アクセス回線会社として分離されるべき部門)」と「小売部門(NTTとして残るべき部門)」の境界線の曖昧さが露呈されているように思えるのです。

つまり、NTT全体としてみれば、出来るだけ多くのコストを「卸売り部門」につけておけば、その分を「接続料」として「自社の小売部門と競合する他の通信会社」に負担させることが出来、全体としての収入が増える上に、自社の「小売部門」を競争上有利にすることが出来るのですから、そうしたいと思うのも無理からぬ事でしょう。

だからこそ、我々は、出来れば「資本分離」、最低限でも「構造分離」によって、この「卸売り部門」と「小売部門」の境界線を明確にすべきと主張しているのですが、仮に当面はタスクフォースが提言したような「機能分離」にとどまってしまったとしても、厳しいチェックが働けば、「顧客管理や料金業務のコストの大きな部分」を、素知らぬ顔をして「卸売り部門」のコストとして見積もってしまうような無茶は通らなくなるでしょう。

さて、以上をお読み頂ければ、「無線にゃん」の筆者さんの一見もっともに聞えるような論旨の殆どが、実は相当な「事実誤認」をベースとしていることが分って頂けたと思います。しかし、私は、これをもってこの筆者さんを非難する積りは毛頭ありません。「決め付けるような言い方」はあまり感心しませんが、疑問に思う事を自分の解釈に基づいて遠慮なく指摘して頂く事は、健全な議論を進める上で非常に有益な事です。

しかし、「無線にゃん」の筆者さんにこの分野での若干の経験はあったとしても、ソフトバンクグループのような「2万人以上の人員を擁する情報通信企業グループ」が練り上げた計画を、一個人で全面的に否定するのは勿論、幾つかの「穴」を見つけることすらもが、元々無理なのではないかと思われます。ここはやはり、プロであるNTT自身が、自らの持っている数字を開示して、直接議論に参加して頂くのがベストです。

序に、ここで「無線にゃん」の記事の4)についても触れてしまうと、ここに書かれてある全ての思いは、2)の「ソフトバンクの提言は、全てにコストの過小評価があって滅茶苦茶だ」ということを前提にしていますから、この前提が崩れれば、この全てが勘違いの産物という事になってしまいます。従って、2)の検証が、先ずは誰にとってもどうしても必要な事なのです。

今回の総務大臣の決定で、ソフトバンクの「アクセス回線会社」構想は一旦はお蔵入りになりますが、この構想を永久に諦めてしまう必要は全くないと思っています。もし現在の総務省の構想が思い通りの結果を出せなかった時には、当然また全てが再検討される事になりますが、その時には、この構想もまた日の目を見るかもしれません。従って、それまでの時間を十分使って、賛否の如何を問わず、この構想の緻密な検証を粛々と進めておくことは、是非とも必要だと考えます。

さて、最後になりましたが、上記の3)、「無線にゃん」の今回の記事の目玉でもあった「ソフトバンクの隠された意図」なるものについて、これから論評します。

結論から先に言うなら、この推測もやはり間違っています。

何故ソフトバンクがこれ程「光の道」に熱心なのかいう理由については、12月13日付の「総集編(続き)」でありのままご説明したので、そのようにご理解頂きたいのですが、「無線にゃん」の筆者さんの推論のベースとなった「誤解」には、それなりの根拠があるので、先ずはその辺の事情からご説明します。

インターネットで映像にアクセスすることが多くなり、ADSLのスピードでは満足出来ないユーザーが増えてきた2007年頃の時点で、ヤフーBBもフレッツの向こうを張ったようなサービスが出来ぬかと模索しました。具体的には、FTTHならぬFTTR、つまり「各戸の最寄の電柱まではNTTの光回線を借り、そこから宅内までは自社でメタル線を引き込みONUも設置する」という方式を考え、実際にある程度のテスト販売も始めました。

しかし、直ぐに、これでは全く収支が合わないことが分りました。「光回線は8本まとめないと貸してやらない」というルールをNTTが作ってしまっていたことが最大の理由ですが、仮にそれがなかったとしても、「自社の電話線の張替え」という事ですんなり宅内に入れるNTTと比べ、営業上のハンディキャップがあまりに大きかったというのも理由の一つでした。

この為、一旦始めたテスト販売は膨大な損失を出して早々と終結し、以降は、光についてはフレッツの向こうを張ることは諦め、「フレッツを利用するISPの一社として、サービスを販売する」という路線に切り替えました。その後、NTTとの種々の折衝を経て、今年の9月頃から、全国に130社あるNTTフレッツの営業代理店に、「それまでのOCNとソネットに加えて、YBBもISPとして扱って下さい」とお願いしました。

しかし、これは、ADSLの販売にもう力を入れないという事ではなく、「どうしても光が欲しい」というお客様についてのみ「別建て」で営業するという事です。5-6年先になれば分かりませんが、現時点では「ADSLのスピードで十分。安いほうが良い」と言われるお客様も多いので、ADSLのサービスをやめる理由は全くありませんから、これまで通りのADSLビジネスの方がYBBの社内では主流になっています。

にもかかわらず、何故YBBの営業が、あたかも「フレッツ上のISPビジネスに軸足を移した」かのような印象を与えたかといえば、この為に新設された営業部署が張り切って130社のフレッツ代理店に熱心にキャンペーンをかけたからです。この過熱状況を見て、ADSL部隊からもクレームが出ましたし、経営トップもこれは問題であると判断、12月1日をもって、扱って頂くフレッツの代理店は全国で8社のみに絞り込み、また「現在のADSLのお客様に光に乗り換えるように勧誘するような営業はしない」という内部ルールも作りました。

言うまでもなく、この全ての動きは、「光の道」とは全く関係はありません。YBBの機材の更新も、「光の道」の議論とは全く関係なく、各機材のEOL(通常の耐用年数)を勘案しつつ粛々と行われています。

もし「光の道」がソフトバンクの言うように5年で実現する事になれば、毎年メタル回線は着々と撤去され、5年後には全てのメタル回線が完全に撤去される事になるのですから、ADSLサービスも毎年光サービスへと移行し、5年後には完全になくなるわけです。「光の道がソフトバンク案通りに実現すれば、ADSLの廃止費用や移行費用はアクセス回線会社の負担になる」と「無線にゃん」には書かれていますが、そんなことはあり得ないし、誰もそんなことは言っていません。ソフトバンクが策定した無線アクセス回線会社の事業計画にもそんな費用は一切含まれていません。

従って、現時点でADSLサービスの運営を主力としているYBBにとって、「光の道」の早期実現が嬉しいことか悲しいことかと問われれば、若干答に窮します。勿論、ソフトバンクの提言通りになって、ADSL時代同様の公正な競争が光時代にも実現する事になれば、若干の機材の償却や移行コストの負担を考えても、YBBにとっても喜ばしい事なのですが、「NTTによる、NTTの為の光の道」になってしまうと、これは誰にとっても悲しい事になるでしょう。サービス市場全体が活性化するという点で、ISPとしてのYBBにとっては魅力があっても、独占の毒は段々身体全体に巡ってきますから。

唯一つ、ここにもう一つの重要なファクターがあります。それは「光への移行スケジュールが全国的に確定されるかどうか」という事です。YBBが一番困っているのは、メタル回線の撤去時期がNTTの恣意的な決定に委ねられているという現状なのです。

メタル回線廃止の発表から実施までに多少の猶予期間があっても、全体像がつかめなければ、ADSLサービスの長期経営戦略はつくれません。全てが計画的に行われるのであれば、「機材を更新するべきか、その時点でADSLサービスの継続を断念して光への移行を顧客に促すべきか」の判断も出来ますが、「NTTの気の向くまま」では判断のしようがありません。従って、やはりここには、「ネットワーク全体のあるべき姿(グランドデザイン)」について、国の強い介入を求めざるを得ないのです。

なお、上記に引用した色々な数字は、全てこれまでタスクフォースの合同部会などに提出済みで、その内容は総務省のサイトで閲覧できます。http://www.soumu.go.jp/main_contentをご参照ください。