地方のシャッター街を歩く度に、心が凍りつく思いがする。地域のあるべき未来が全く見えないからである。必要な新陳代謝、つまりは商店であれ、飲食店であれ、陳腐化し、客足の滞った店舗の閉店を促し、代って勢いのある、今が盛りの店舗に、入れ替える事を怠った結果である。
看過出来ないのは、今世紀日本に取っての最大成長産業である、情報通信分野の基盤と成る、電波帯域が、どうもシャッター街化しそうな状況であると言う、愕然とする事実である。
現在、アメリカ、ラスベガスで開催中のCES関連ニュースを読む限り、予想通りスポットライトは「タブレットPC」や「ネット対応テレビ」に当てられている。
そして、大事なポイントは、テレビとPCは相性が悪い様で、今迄、散々「放送と通信の融合」が叫ばれたものの、実際の果実を収穫するには至っていないのだが、テレビと誠に相性が良い「Social」が間に介在する事で、一気に融合が進みそうな事実である。
既存PCの、可也の割合を取って代るであろうタブレットPCや、携帯電話等、所謂携帯Deviceが、使い勝手の良いテレビリモコンと成ると同時に、Face BookやTwitterと言った、「Social」のInterfaceと成る訳である。そして、此れは取も直さず、膨大な無線通信用の帯域を必要とする事を意味する。
仄聞する所、アメリカFCCは地上波から未使用の電波帯域を没収し、新たに需要が見込まれる、無線通信分野に割当てる事を決定したらしい。
一方、翻って、我日本はと言うと、監督官庁の総務省は相変わらず時代遅れの「護送船団」の守護神を気取り何の変革も考えて居ないらしい。
下世話な話で恐縮だが、私の回りで最近までテレビ番組の質の低さにぶつぶつ文句言ってた人達が、最近は何も言わなく成ってしまった。私同様テレビの視聴を止めてしまったのである。
此の事実から観えて来るのは、携帯電話やタブレットPCと言った携帯Deviceを駆使して経済活動に参画しようとする積極的な人間の可能性を閉ざし、下らぬ番組の垂れ流しを見続ける、日本に取って余り必要と思われない人間を只管擁護する、総務省の誠に以て出鱈目極まりない政策である。
日本もアメリカ同様、地上波から電波帯域を取戻し無線通信に割当てるべきでは無いのか?無論、電波帯域毎の帯域特性とか携帯端末のアンテナの志向性とか技術的検討は充分されるべきではあろうが。
その意味、最近のNHKが発表した、対Google、番組販売の開始と此の4月からBSの3チャンネルを2チャンネルに削減すると言うのは朗報である。Googleに番組販売する事で、視聴者が何時でも、何処でもNHKの番組を視聴出来る環境を担保し、且つチャンネル削減で不要に成る電波帯域を国家に返上する訳である。
此処までやるなら、更に一歩踏み出し、個別のセグメントを対象とし、本来Lean-Inの「教育放送」を廃止し、Google経由の何時でも、何処でもアクセス可能なVODサービスに変更すべきである。視聴対象がクラスター化してる事もあり、Social連動で学習効果も上がる筈だ。
NHKに取っての目下の急務は、番組のネット解放を積極的に行い視聴者の利便性を高めると共に、Social連携に拠りNHKとしての21世紀に耐えられる新たな「ブランデイング」を構築し「チャンネルアイデンティティー」を確立する事にある。
その為には、意識改革が重要で、今やレガシーでしかない「放送」が主であり、「ネット」が従であるが如き認識はさっさと捨て去り、「ネット」が主で「放送」が従、「放送」は所詮ニッチなサービスに過ぎず、先細りである事を肝に銘ずべきなのだ。
番組のネット解放に舵切る事で、NHKは過去の膨大なアーカイブを使っての、マネタイズに成功する筈である。NHKはこう言ったROA(Return on Assets)向上の余地が残されており、その意味今世紀の成長企業で有り得ると思う。尚、今後の番組制作に於いては、ネット解放を前提に「製作工房」に特化し極上のコンテンツ制作に専念すべきである事は言うまでも無い。
脳死状態で、且つ多臓器不全の民放に対しては、何も提案する気が起こらないのであるが、強いて言えば、都市部で現在放送されている、5チャンネルを1チャンネルに集約し、番組内容を強化すると共に、ネットに開放する事でCMに代る新たな収益源を模索すべきと考える。
当然、4チャンネル放送の為に直接使用する電波帯域と、干渉防止の為のホワイトスペースが不要と成り、結果国家への返却、無線通信への割当てと成る。実に目出度い話では無いか。
商店街をゴーストタウンとしない為には、客足が途絶えた商店の閉店を迫り、新たに勢いがある、今が旬の店舗に入店して貰う事が肝要なのである。
山口 巌
ファーイーストコンサルティングファーム 代表取締役
コメント
全くその通りだと思います。
しかし、残念ながら総務省はインターネットも放送であるというロジックで電波法を改正してインターネットでも守護神になろうとしていますね。お役人様と既存の放送局が持つ既得権益は絶対に守りたいようですね。
問題点が多過ぎて、何を提案してもムダなように思います。
唯一の解決策は、利用者側の脱法行為の拡大じゃないでしょうか。
実例としては、デジタル放送のコピーガード回避があります。
今後期待出来るものとしては、ホワイトスペースを使った広帯域無線ネットワークです。
世界標準のチップさえ量産されれば、数千円で基地局が買えるようになるでしょう。
都心部なら数十mごとに利用者が居るだけで、FTTH並みの帯域が無料で得られます。
過疎地でも、集落の1軒だけがFTTHを引いて、残りはタダ乗り出来ます。
そうなってしまうと、誰もネットに金を払わなくなります。
そういう危機感が無いと、何も変わらないでしょう。
いつも電波行政の矛盾点を教えていただき、有難く思います。しかしアゴラでいろいろな方がこのテーマで書かれているにもかかわらず、大勢では既存テレビの影響力、経済力はいまだ安泰のような気がしてしまいます。ただの一社も新規参入がなくただの一社も倒産、合併がない業界。テレビ局をやめた、やめざるをえなかった、という話はいまだ聞いたことがありません。記者クラブの問題も変化なし。今年のテレビ局のボーナスも言われているほど下がっていないようです。難しい話より、なぜ役所も他業界に比して徹底的にこの業界を守るのか、教えてください。仕事をしない、できない局員が他業界のように危機感を感じる時代が本当に近く来るのでしょうか。結局、テレビだけはつぶれないような気がします。ほとんどの国民が気づかないように制度を調整するのではないでしょうか。