科学技術の未来を予測する

山田 肇

科学技術が将来どこまで発展するか、予測は可能なのだろうか。この課題に取り組んできた科学者たちがいる。

技術予測でもっともオーソドックスなのは、物理的な限界に達するまで技術は発展し続けると想定して、限界に達する時期を示すという方法である。半導体の場合、微細加工技術が限界を決める因子と見なされ、それに基づく予測が提示されてきた。

超伝導論理回路について、数千ゲート程度のチップを数百ピコ秒の回路速度で動作させることしかできないので研究を進める価値は乏しいと予測し、1985年に国際会議(SQUID’85)で発表したことがある。その後、1988年に国際超電導産業技術研究センターが設立され基礎研究が継続されてきたが、筆者の予測を圧倒的に打ち破るような成果は生まれていない。いつまでもたっても超伝導論理回路が実用化したという話は聞かない。


第二は、目標とする値と時期を先に定め、そこに行きつくための課題を明らかにし、解決に向けて研究を進める、という方法である。CD、DVD、BluRayと発展してきた光ディスクで次世代に向けて目標が設定されているのが実例である。第一の方法が技術の発展についてはいわば成り行きに任せているのに対して、第二の方法は目標に向かって技術を引っ張っていく積極的な立場に立っている。

IEEE Spectrumに”Next-Generation Supercomputers“という記事が掲載されている。記事には、2015年までに10の18乗FLOPSのスーパーコンピュータを実現するために必要な技術課題を検討した、米国国防省付属の研究所DARPAの調査結果が紹介されている。この速度は、今のところ世界最高速の中国製の約400倍に相当する。DARPAが想定したスーパーコンピュータは莫大な電力を消費するため、隣に小型の原子力発電所を設置する必要が生じるなど、克服すべき技術課題は多い。

二つの予測方法は論理を積み上げていくものだが、これらとは別に科学者の直感に頼る方法がある。それがデルファイ法による予測である。デルファイ法では、まず科学者に直感的意見を聞き、その集約結果を提示して再度意見を聞く反復型アンケートを実施することで、意見を収束させていく。

わが国では、1971年以来、5年ごとに科学技術予測調査が実施されてきた。実施主体である文部科学省科学技術総合研究所からは「過去の予測調査に挙げられた科学技術は実現したのか」と題するレポートも発表されている。それには次のように書かれている。

総じて、過去に取り上げられた科学技術のうち約7割が、現時点において何らかの形で実現していると評価されている。分野別に傾向を見ると、環境、安全、保健・医療、ライフサイエンス関連の科学技術は実現率が高く、交通(運輸、輸送)やエネルギー関連の科学技術は実現率が低い。また、全般的に早い実現が予測された科学技術は実現率が高い、重要度が低い科学技術は実現率が低い傾向が見られる。

どんな予算の配分にも根拠が必要だが、科学技術の場合には素人にわかりやすい根拠を示すのがむずかしいため、予測調査の結果が利用される。つまり、短期で実現し重要と多くの科学者が見做した技術に、重点的に予算が配分されるのである。このこともあり世界各国で予測調査が実施されている。最近では、科学技術成果が社会にどう貢献できるのかが問われるようになり、予測調査を行う目的も「社会にイノベーションをもたらせるのか」という方向に変わってきている。

第9回調査は先ごろ実施されたばかりだが、これもあわせて各国の結果が提示され、また政策的活用方法について発表する国際会議が3月8日に開催される。どのような議論が行われるか楽しみだ。

山田肇 - 東洋大学経済学部