MobileMeもDropboxも違法である

池田 信夫

きょうの城所さんの記事には多くのアクセスが集まりましたが、ちょっとむずかしいので、法律の素人でもわかるように素人の私が解説します。

最高裁判決のポイントは簡単にいうと、インターネットを使って他人の著作物を送信した場合は、それが自分だけにあてた通信であっても自動公衆送信となり、それを行なったのがユーザーであっても、設備を提供した業者が自動公衆送信の主体になるということです。この判決の射程は非常に大きく、およそインターネットのサーバやルータはすべて自動公衆送信装置となり、公衆回線で他人の著作物を送信することはすべて違法になります。


抽象的にいうとわかりにくいので、実例で説明しましょう。あなたが自分のCDをリッピングしてMP3ファイルにし、MobileMeのサーバに送ってiPhoneでダウンロードして使うと違法になります。アップルは自動公衆送信の「主体」としてJASRACに訴えられる可能性があり、これはMYUTAと同じ構造なのでアップルが敗訴することは確実です。サーバが海外にあっても、アップルの日本法人を相手どって損害賠償訴訟を起こすことは可能です。

このようなオンライン・ストレージはDropboxやEvernoteなどいろいろありますが、すべて日本の著作権法では違法です。Gmailに音楽や映像のファイルを添付して携帯にダウンロードするのも違法です。たとえ業者が送受信を行なっていなくても、送信可能にしただけで著作権侵害の「主体」になるというのが最高裁の判決です。

もちろんこれは私の解釈だから、裁判所はもう少し制限的に解釈するかもしれないが、これまでの判決から推定すると、上のような例は論理的に成り立ちます。すると企業の法務部は最悪の場合を考えて事業をチェックするので、日本の企業がクラウド型サービスを行なうことは不可能になるでしょう。先日もある通信事業者から相談を受けましたが、彼の結論も私と同じで「クラウド型の新規事業は当分やらない」ということでした。訴訟リスクが大きいものは、とりあえず止めるしかない。

最高裁の判決は「司法としては今の著作権法を厳格に解釈するとこういう結論になるので、あとは国会が考えろ」ということかもしれない。こういう判例が出たことで訴訟で解決することは不可能になったので、あとは著作権法を改正するしかありません。検索エンジンのように日本のビジネスが壊滅してからでは遅すぎます。

追記:1900以上もRTがついたので、少し厳密に説明すると、これまで訴えられたのはテレビと音楽ですが、最高裁判決は媒体を特定していないので、すべてのサーバによるネット配信が自動公衆送信に当たります。ソフトウェアを配布しただけでは「主体」になりませんが、MobileMeのようにサーバを提供すると違法になります。

ただしこれは公衆回線の問題なので、LANやVPNを使ったクラウド型サービスは適法です。ISPはプロバイダー責任制限法で守られるので、ホスティング業者が「プロバイダー」に当たるかどうかが問題となるでしょう。放送局やJASRACの許諾を得て料金を払えば適法ですが、テレビ番組はすべての著作権者の許諾が必要なので、事実上禁止です。

コメント

  1. worldcomw より:

    法律が改正されても、判例が一つ以上出るまで大手はどこも手を出さないのでは?
    そう考えると、5年以内に事態が改善する見込みはありません。
    個人相手のクラウド型サービスを国内に作ることは、あきらめるべきでしょう。

    仮定の話ですが、10年前に検索サービスが合法になっていれば、どうなっていたでしょう。
    googleのシェアを2割くらいは取れたのではないでしょうか。
    時価総額で言えば1兆円から2兆円くらいかな。
    クラウド型サービスは、今後10兆円から100兆円以上になると思いますが、
    その税収も雇用も日本には存在しませんね。

  2. 松本徹三 より:

    著作権法の改正を急がないと大変だという考えを強くしました。日本でネットサービスの新しいビジネスモデルが育たないことにも危機感を持ちますが、日本企業の生産性が一層落ちるのも心配です。現行の著作権法に拘っている人達は責任を感じて欲しいものです。

    予断ですが、「自動公衆送信」の拡大解釈も困ったものです。Dropboxがなかったら、私は仕事になりません。