前回の続き。前回のエントリーでは,ハブ空港と一口に言っても,種類が異なることを述べた。本エントリーではアジアを事例として詳しく見ていこう。
上表は,ACI(Airports Council International)が毎年発行しているWorldwide Airport Traffic Reportのデータを用いて,アジア都市圏の年間航空旅客数上位10都市を,ランキングとしてまとめたものである(数字は2009年)。1億人に迫る東京が圧倒的に多く,2位と3位には北京と上海が続く。ただし,上位3都市はいずれも国内線の方が国際線よりも大幅に多い。大阪は,2004年には伊丹空港と関西空港を合わせて7位であったが,09年には神戸空港を含めた3空港を合計しても,10位のクアラルンプール空港に及ばず11位となった。
ハブ空港は,国際線・国際線,国際線・国内線,国内線・国内線という旅客の乗継形態によって,種類を分けることができる。アジアの中で,国際線・国際線の乗継を中心とする大規模な国際ハブ空港がある都市は,国際線の年間旅客数が3000万人以上の香港,シンガポール,東京,ソウル,バンコクの5つである。北東アジアでは,香港,成田,仁川の3空港が国際ハブ空港としての実力を有しており,東南アジアではシンガポールとバンコクが競争している。成田・仁川とシンガポール・バンコクは,地理的に遠い位置関係にあり,ハブ空港あるいはゲートウェイ空港としての競争関係にはない。香港は東アジア・東南アジアのほぼ全域を4時間以内でカバーできる絶好の位置にあるものの,仁川以上に,アジア方面国際線の多くが中国本土路線である。
前回の繰り返しになるが,日本は米国とアジアの間で地理的に優位な位置にあり,成田空港は北米─アジア路線の乗継拠点として優れたゲートウェイ機能をもっている。日本と中国を中心にアジア域内国際線が展開されている仁川空港とは,ネットワークの形態が異なる。しかし,成田空港は,歴史的な経緯による騒音問題対策として夜間・早朝の運用時間に制限が設けられていること,またB滑走路が十分な長さをもっていなかったことから,発着枠が年間20万回に制限されていた。そのため,乗入希望の外国航空会社が数多くあるにもかかわらず運航を認可できずにおり,アジアの国際ハブ空港としての機能を大きく発揮できないでいる。B滑走路の延伸整備により,2010年3月から発着枠の上限が22万回となり,それに応じて路線数も増えたが,十分な発着枠とは決していえない。成田空港は,騒音問題対策について地元と合意のうえ,近い将来,発着枠を30万回まで増やすことを計画している。これが実現すれば,成田空港も現在以上の競争力をもつことができるであろう。十分な国際線の発着枠こそが,国際ハブ空港間競争において必要不可欠な条件なのである。
羽田空港では,2010年10月の4本目新滑走路の供用開始を契機に,国際線定期便の本格的な運航が開始された。しかし,羽田空港は多くの国内線需要を担っていることから,国際線に割り当てられる発着枠は限定されており,国際線・国際線の乗継の多い国際ハブ空港になることは当面できない。その一方で,国際線の運航開始により,国際線・国内線の乗継機能を持つゲートウェイ空港に生まれ変わった。日本国内の航空ネットワークは羽田空港を中心に成立しているため,羽田空港はもともと国内線・国内線の乗継の多い国内ハブ空港である。国際線の就航により,ハブ空港として新たな機能をもったのである。国際線の路線数は成田空港に及ばないものの,需要の多い路線が多いことから,全国各地から羽田空港を利用して出入国する旅行が増えるであろう。
中国の空港は,急増する国内線需要に対応するため発着枠を国内線に割り当てており,国際線の発着枠を自由に増やせない状況にある。よって,上海の虹橋空港,広州の白雲空港は,中国の国内ハブ空港に留まっている。北京空港と上海の浦東空港は,羽田のような国際線・国内線の乗継機能を持つハブ空港であり,ゲートウェイ機能を有しているものの,国際線の旅客数は少なく,国際線・国際線の乗継は成田や仁川には及ばない。
日本の地方から見ると,国際線利用客にとって,ソウルの仁川と東京(羽田・成田)が乗継空港の選択肢となり,競争しているという指摘がある。確かに,20以上の日本の地方空港が仁川と定期便で結ばれている。しかし,国土交通省の2007年の年間推定データによると,日本からの出国旅客数(数値は2倍した出入国ベース)は,次のようにまとめられている。
地方空港から仁川経由海外 13万人
成田・関空・中部から仁川経由海外 29万人
地方空港から成田経由海外 122万人
地方空港から羽田・成田経由海外 69万人
地方空港から関西経由海外 44万人
地方空港から中部経由海外 18万人
このように,地方空港から仁川を経由して海外に行く旅客は決して多くなく,仁川の存在は,ゲートウェイ空港として羽田や成田の脅威という程ではない。しかし,今後,ローコストキャリア(Low-Cost Carriers [LCC],格安航空会社とも呼ばれる)が,韓国や中国から日本各地の地方空港にどんどん参入してくれば,状況は変わるかもしれない。次回は,ローコストキャリアについてのエントリーをまとめてみたい。
東京工業大学大学院 准教授 花岡伸也