今春は大学入試という大学への入口の話題が続いています。京大カンニング事件から明大の2年連続受験者数1位、それと3月10日には東大はじめ、前期日程合格者の発表などがありました。ところで今回は大学の出口部分である就職率について調べました。受験生が今一番、知りたいことだと思います。
東大の2010年就職概況です。初めに、こうした詳細なデータを詳細に集め、公表した大学、就職課の職員の努力は評価できるでしょう。なぜなら、東大と他大学のつじつまが合わない進路先の人数の公表とを比較すると、雲泥の差があるからです。
結論から言いますと、単純に企業の社員になるなら、東大を目指すことは辞めましょう。別の有力大学を目指すほうが、民間会社就職には有利ではないでしょうか。それでは、その理由を書き記してみます。
まず、ここで2010年3月卒の学部、修士、博士に分けて見てみましょう。
大学院進学熱がとても高いのが特色
全体の学部の就職率は30.7%と低い。おもに大学院へ進学するためだと思います。ただし文系で見ると、経済学部76%、文学部60%に対し、法学部36%と低い。法学部の大学院進学は24%ですべてが法科大学院へ進むわけではないのです。3割程度の学部卒生は、数字からは何をしているのか、分からないのが現状です。官庁志望で、キャリアとして希望する省庁に任官されなかった、などでしょうか。あるいは、民間の志望職種へすぐにつけないため、捲土重来を期するのでしょうか。公務員やロースクール受験などの準備者が多いためと考えられます。
学部では理学部の就職率が極端に低くわずか5%しかない。工学部は12%ととても低いのが特色です。東大の理系に入学したら、学部から修士、博士を目指すのは、誰でも行く普通の雰囲気に包まれるのでしょう。
文系で3桁の大学院進学者数は、ロースクールができて増加した法学の101人が最高で2位は文学の69人。教養学部の68人が3位です。
これに対し、理学部では、89%とほとんどの学部卒業生が大学院進学。人数も246人と多いの特色でしょう。工学部は、もっと多く738人が大学院進学で80%の進学率。大人数の工学、理学の院生が進学後どうなるのか、注意深く見てみたいと思います。農学部は、74%の大学院進学率で学部からの就職率は、19%と低いです。ここでも強い研究者志向があるのでしょう。
つまり、理系入学者の8割は、大学院へ進学する。文系学部では、大学院へ24%進学、就職率は55%となります。
東大入学者の3割はポスドクになる可能性
ここから修士課程修了者について書きます。2010年3月の修了者(卒業者)は、2983人中、就職者数は、915人で30.7%の就職率です。次に博士課程修了者について書きます。1573人修了後、就職できた者は、591人です。これは、36%の就職率です。ここから東大だけで、再入学者を除くと61%の966人が、行くえ知れずの状態としています。つまり、1000人あまりのドクター(博士取得者)が、毎年職がない状態が現実として存在するということです。この1000人のポスドク問題は大きく伝えられています。入学者に対する割合は、33%ほどでしょう。つまり、3割の東大生は、ポスドク問題に見舞われる厳しい現実が、クローズアップされそうです。そこで本質的な問題は、何でしょうか。
修士から就職も院進学もしない人の割合は理学が5%と低い。工学系14%とやや高い。人数も工学132人と多い。文系修士は、34%の就職率。博士進学率は50%。理系修士は、65%の就職率で高い。博士進学率は、23%でした。つまり東大理系組は、修士で就職するのが一般的です。ここでつまずくと、大変なことになりそうです。
結論から1573人の修了者中、就職した人は591人でした。就職率37.6%です。この数字が高いのか低いのか、良くわかりませんが、修士修了で24-25歳、博士で27-28歳くらいの年齢で卒業になるのでしょうか。年齢からすると、博士修了者がちょうど、一般社会では社会人経験3年~6年ほどで転職年齢の好機といえるでしょう。
一度も企業経験や大学職員経験もないと、一般的には、いわゆる企業社会で見られる同年齢層とは、マナーや社会人の基本的ルールに疎い人が出現しやすいかもしれません。博士ですぐに就職できない人数では、工学172人、総合文化131人、理学126人、人文社会114人と多いのです。割合からすると理学71%、農学65%、文系では法学76%、人文社会74%、経済68%といずれも高い数字となっています。ポスドク問題を生む背景には東大が持つ研究者志向が強すぎるのかもしれません。
ここで京大と比較すると、京大生は学部卒で31%就職します。修士で67%就職。博士で78%の就職となります。こちらは、進路先が分からない者は少なく全体に対しても5%程度です。東大に比べると、京大の就職率が抜群に良いのです。
米国では、イノベーションを重んじ、社会変革を起こしビジネスとして社会貢献する企業リーダーが注目を集め、称賛されます。アップルのスティーブ・ジョブズ氏、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、フェースブックのマーク・ザッケンバーグ氏など、枚挙にいとまがないのです。学者指向が強い東大をもっとスケールの大きな起業家が生まれる土壌づくりを心掛けることは、ポスドク問題を解消するヒントになるのではないでしょうか。
今回のポイント
・東大は就職率が必ずしも高くはない
・スケールの大きな起業家を生む努力をしてほしい
(鈴木和夫 ジャーナリスト/MBA diploma)
コメント
法学部の就職率が36%、大学院進学率が24%で、残りはわからないということですが、この数字には留年した者も含まれているのでしょうか?
東大法学部は、4年で卒業する(orできる)人は7割程度で、3割が留年によって5年以上在学します。
それと、研究者指向が強いことがポスドク問題の原因の一つであることは確かにそうかもしれませんが、だからといって起業家を目指す人が増えれば問題解消というわけにはいかないでしょう(「ヒント」と注意深く書かれているので、単純に問題解消と考えておられないのだとは思いますが)。
博士号をとって研究者になるのと、起業してビジネスを継続していくのとでは、後者の方が容易とは言えないのではないですか?
つまり、ポスドク問題は解消しても、今度は、起業失敗者問題が生まれる気がします。
なんかピントがずれているような・・・。就職を希望する学生の中での就職率で論ずるなら別ですが。むしろ学部卒で社会に出てくる東大卒は少ないので、実務のポテンシャルの高さから引く手あまただと思いますよ。それでも優秀な学生は院へ進学する傾向が強いので、下位の学生の就職率といっていいと思いますが。
東大生の親の年収が平均1000万以上だからってんで収入低いと東大には入れないとかいうアホなデータの読み方がありますが同じたぐいです。子供の東大進学率って親の年収より親の偏差値のほうが相関高いと思いますよ。
ポスドクだってみんな知らずになるわけじゃない。そんな馬鹿じゃないですよ。ポスドク嫌なら普通に就職しますよ。作家目指したり音楽家目指したりするのと同じで不安定覚悟でやっているだけの話です。いかにも一生懸命勉強したのに、そうなるとは知らずにポスドクあふれちゃったみたいなのは完全なミスリードです。
それに日本の大学生で起業が少ないのは「学問に金儲けは不浄」という日本の伝統のせいです。東大とか全然関係ありません。それに日本の名門校は全部国立だから税金もらって金儲けもしにくい。それに対して海外の大学は教育機関というよりは完全な知的産業です。そもそもアメリカの名門校は全部私立だし。グーグルとかフェイスブックとか言う前にもう少し海外の事情も勉強しましょう。
東大法については、民間就職なら多数の必修科目で可さえ取れれば基本的に容易なわけで、留年の多さは公務員試験とかロースクール、研究者養成コース入学というのが大部分です。中には民法を落としたというのもいますが。
起業には営業能力が不可欠ですが、これは確かに東大では身に着けにくいかも知れません。東大卒と営業能力というのは、なかなか複雑な問題です。できないわけではないですが、事務処理能力とか官僚とのコネといった、より得意な分野で勝負するという分業の結果ですから。