放射能という「超自然」 - 『スーパーセンス』

池田 信夫

スーパーセンスー ヒトは生まれつき超科学的な心を持っているスーパーセンス ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている
著者:ブルース M.フード
インターシフト(2011-02-18)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


原発事故をめぐって、センセーショナルな報道が続いている。広瀬隆氏は「メルトダウン」で東京が放射能に汚染されると喧伝し、AERAは「放射能がくる」という特集号を出してパニックをあおっている。彼らには気の毒だが、福島原発には冷却水が入り、状態は安定に向かっている。

放射能がこれほど恐怖をかき立てるのは、日本の伝統でいうケガレに通じるものがあるからだろう。これは日本だけではなく、死についての禁忌は多くの文化圏にある。本書では、あるセーターを見せて「これを着た人に賞品を出す」というと多くの手が上がるが、「このセーターは殺人鬼の着たものだ」というと誰も手を上げなくなるという実験を紹介している。もちろんこの話は嘘であり、かりに事実だとしてもセーターを着ることによる実害は何もないのだが、人々は死を連想させるものをきらうのだ。

このように現象の背後に超自然的な本質をみる傾向を、著者はスーパーセンスと呼ぶ。多くの災害は人々に理解不可能なものだが、それは悪である。したがって悪い出来事の原因として神などの本質を想定し、災害を「天罰」と考えるのだ。このような迷信は、東京都知事にもみられる。

理解できない出来事の背後に超自然的な本質を想定する本質主義が宗教を生んだ、と著者はいう。神をもたない宗教はあるが、悪魔をもたない宗教はない。その根源には、悪魔=外敵に対して境界線を引くことによって集団を結束させる心理的メカニズムがあるのだろう。今回の地震は、この意味で日本人を結束させる効果をもつ。

放射能はケガレが科学の装いをまとったもので、その大部分はデマである。人体に影響する放射性物質が残留するのは原発の半径数km圏内に限られるだろうが、政府が「すべて安全だ」というと人々はかえって警戒する。むしろ「2km圏内は居住禁止。野菜も出荷禁止」といった規制を行なって「線引き」をしたほうがよい、というのが本書の実験から得られる教訓である。

コメント

  1. greetree より:

    > 2km圏内は居住禁止
    わざわざ市街地に原発を作ってから、そこを居住禁止にするよりは、最初から人里はずれたところに原発を作る方が賢明でしょう。
     → http://bit.ly/gLeTWP
    原発がことさら危険ということはないでしょうが、危険性を無視して「完全に安全だ」という方針を採った原発政策は、ほとんど狂気的です。
    今回、否定されたのは、原発そのものではなくて、日本の原発政策です。

  2. rityabou5 より:

    > 政府が「すべて安全だ」というと人々はかえって警戒する。
    慧眼だと思います。このあたりは囚人のジレンマを連想してしまいます。「あいつは俺を裏切ろうとしているかも?」という疑心が判断を誤らせます。大事なのは信用です。
    政府は今回の事故でひたすら「安全です」というだけで、その論拠を示しませんでした。
    ○○の放射線を浴びたら死ぬ
    ○○の放射線を浴びたら白血病になる
    ○○の放射線を浴びたらガンになる
    だけど今はそうではない。
    最悪の事態が起きたら○○になる。しかしそれを回避するためにがんばっている。
    と腹をわったような説明はしてきませんでした。
    政府は「どうせあいつらに本当の事を言ってもパニック起こすだけだろ」と国民を信頼せずに「安全です」の安売りです。
    ↑という風に、国民から見られています。こちらを信頼しない人を信用するわけにはいきません。それは無理というものです。

  3. sudoku_smith より:

    なるほど、放射能は目に見えないだけに「ケガレ」として考えやすいのでしょうね。
     一方で、病気治癒のため放射線をありがたがって受ける人もいますがねぇ、あれはどういう神経なのでしょう。磁気ネックレスとかゲルマニウムと同じレベルですよね、いや害があるだけもっと悪いか。
    ともあれ、池田さんの仰るように、早く線引きした方が良いですね。そして変な噂をばらまくTV学者には「風評被害の犯人として取り扱う」と早い時期に警告した方が良いでしょう。ちょっと前のダイオキシン騒ぎを思い出します。

  4. minourat より:

    > 福島原発には冷却水が入り、状態は安定に向かっている。
    私は、EECSが動き出したというニュースを今か今かと待っているのですが、 5・6号機のRHRが動き出したというニュースしかありません。 RHRのポンプは海岸沿いのポンプで、予備を50台も持ち込んだというものだとおもいます。 これで格納容器は冷やせますし、 EECSからの廃熱もできます。 しかし、 EESC (HPCI, LPCSのどちらでも良い)の起動には、手間取っているようです。 
    東芝が700人の技術者で対応しているというニュースもあって、うまくいくかもしれない。 配電盤が塩水をかぶってだめになっていれば、 臨時の配電盤をつくっているかもしれない。 このあたりは、 まったくの推測です。

  5. hogeihantai より:

    使用済み燃料プールへの海水の放水は数ヶ月継続するそうです。余熱でプール内の水は急速に蒸発し海水は濃縮され塩が晶出、プールの底の方から溜まっていきます。冷却が不十分となり、温度が上昇、底のシール材やコンクリートも急速に腐食、プールに亀裂が生じ水は抜けてしまう可能性があります。水道水、工業用水の回復を急ぐ必要があります。

  6. cuique4 より:

    ニュースによると,屋内待機勧告が出ているに過ぎない20-30km地域にもかかわらず,物資の搬送を断る運送業者が続出しているそうです.
    それでは,そのような業者は本当は安全なのにもかかわらず単にデマに踊らされている愚かな人達なのでしょうか.
    そうではありません.人々の選択と行為の重なり合いの中から自ずと浮かび上がってきた範囲が本当の危険範囲なのです.
    政治的に引かれた切断線なぞ私たちの安全にとって何の意味もなしません.今後出されるであろう食料品の破棄範囲も,放射能の汚染量やその可能性など一切関係なく,農業関係者の圧力によって政治的(恣意的)に引かれるだけでしょう.それよりも全農産物に発電所からの直線距離を表示させ,消費者に直接選択させたほうがよほど安全であり公正なのです.物それ自体には何ら実体的な価値はなく,交換されて初めて価値を帯びるのですから.

  7. holenailthaw より:

    (1)「『2km圏内は居住禁止。野菜も出荷禁止』といった規制を行なって『線引き』をしたほうがよい」
    賛成です。ただしモニタリングを継続し、将来的に圏外でも危険になったら範囲を拡大することになるおそれがあるので、広めの設定が好ましいでしょう。
    (2)「福島原発には冷却水が入り、状態は安定に向かっている」
    同意できません。まだ予断を許さない状態です。今後どれくらい外部からの冷却を続ければいいのか分からない段階で「安定に向かっている」と断定するのはいかがなものでしょうか。
    また関東各地で放射性物質が検出されていることも事実です。今はごく微量ですが、今後どうなるかはわかりません。

  8. santos01 より:

    広瀬隆氏(ノンフィクション作家、反原発活動家)の悲観論が蔓延しているようですね。
    海水の塩についての反論はこちら。
    http://getnews.jp/archives/105404
    今後の冷却作業については、大前研一(元原発設計者)ライブの視聴をおすすめします。
    http://www.youtube.com/watch?v=8GqwgVy9iN0

  9. minourat より:

    > santos01 さん
    北村先生のコメント:
    『少なくとも海水注入がなされて燃料棒の大部分が海水に浸っていれば、その海水の塩分濃度は多少高くなるとしても『びっしりと塩が付着する』(この表現はとても恐ろしさを掻き立てますね)という姿にはならないと考えます。だから海水に浸ってさえいれば冷却はできることは間違いないと思います。』
    私は、注入された海水ほとんど蒸気になっていると理解しています。 なぜならば、 圧力容器の破壊を防ぐために手動で逃し弁の開閉が行われているし、 またこの逃し弁からの蒸気で格納容器内の圧力が高くなりすぎると、 格納容器内の気体を外部へ排出しています。
    真偽のほどはわかりませんが、 逃し弁に海水中のカルシュウムが固着して動かないといった作業員の投稿もみました。 これらの、作業員は放射能汚染度のはるかに高い原子炉建屋内で働いています。
    http://www.meti.go.jp/press/20110321001/20110321001-3.pdf
    によると、 1-3号機では、 燃料棒の上部1.4-2メートルが水面から露出しており、 水温は不明である。 しかし、 圧力容器内の圧力が0.9 から2.5気圧であることから、水温と蒸気圧の関係から、 水温は90-130位と推定できる。 かろうじて、 峠をこしたようです。
    この状況は、 北村先生の言われるように、海水で浸した、それでよしといったものではありません。

  10. hogeihantai より:

    海水注入で問題なのは使用済み燃料貯蔵プールの方です。少なくとも5年は冷却の必要があるとのこと。淡水が来るまで数ヶ月海水を注入すると塩分濃度が高くなります。プールのコンクリートの上に厚さ5ミリのステンレス板がシール材として敷いてあります。高温高濃度のクロールイオンにステンレスは弱く「こう食」という現象でクラックが生じやすいのです。
    大前研一氏によれば、格納建屋の中にプールを置く設計は日本だけで非常に危険とのこと。外国では中間貯蔵施設を発電所外に設け10-50年貯蔵するが、日本では設置が住民の反対で不可能、やむを得ず建屋の上部に貯蔵しているそうです。

  11. virtue337 より:

    確かに世間一般的に放射能=ケガレというように思われているようです。自然界にも微量の放射性物質は存在しているにもかかわらず、日常人々はそのことをほとんど意識していません。原爆や原発のように人間の手が加えられた放射性物質による害の可能性による恐怖によって、無知からくる恐怖心に簡単に踊らされてしまう多くの人々・・・。超自然(スーパーナチュラル)的存在である神の意志の追求を求めたアインシュタインが原子核の平和利用を推進したように、優れた超自然主義者(宗教家や哲学者)達は人類のための科学技術の発展を望みます。核エネルギーでもお金でもそれ自体がケガレているのではなく、それを扱う側の意識によって善くも悪くも利用されます。原発を提供する側の意識にケガレが多く見られ、それを推進する側、利用する側にも、良くない部分があると知りつつも利用するというやはりケガレの意識があるように、「人間の意識のケガレ=悪しき感情や思考」がまだまだ多い現状では、安全な核エネルギーの平和利用はまだまだ難しいように思えます。

  12. minourat より:

    http://www.meti.go.jp/press/20110321004/20110321004-3.pdf
    によると、 1-3号機では、 燃料棒上部の水面から露出部分が1.3-1.7メートルと昨日よりすこし減少しました。 水温は不明であるが、 圧力容器内の圧力が1.2 から1.6気圧であることから、 水温は102-105度程度と推定できので、 事態はなんとか収束に向かうとおもわれます。
    今回の事故はTMIの事故よりはるか厳しいものです。 福島1-3号機の設計基準では、 中央制御室からの制御とECCSは失われないと仮定されていたにもかかわらず、 両者とも使えなくなりました。 また、 原子炉建屋からの起きないはずでまた起きてはならないはずの排気が必要になり、 それができなくて、 原子炉建屋を爆発させてしまいました。
    事態が収束できたとしても、 これは奇跡的というべきでしょう。 この奇跡を可能にした原子炉建屋内で働いた作業員の何人かは、 今後放射線被曝の後遺症で苦しむものとおもわれます。 放射線被曝の後遺症は、 何十年とあとになってもでてくるとのことですので、 雇用の不安定な下請け会社に雇われている作業員の、 適切な健康管理が必要です。 

  13. enagoya より:

    どうせなら広瀬隆とAERAは、平時でも全国各地の放射線をモニターして速報し、無駄な大騒ぎを繰り返す人が慣れてしまって落ち着くか、あるいはすっかり国外に逃げてしまうまで、微量被爆と自然被爆の害を煽り続ければいい。デマを広げる人も簡単に乗る人も迷惑です。
    希望を込めて言えば、(今回の事故で核爆発や「沈黙の春」が現実になるようなことを言っていた)彼らの悲観論に反して原発事故が沈静化できた暁には、あんなカルト宗教みたいな言説の怪しさが広く認知されて欲しいです。
    大前さんの指摘は貴重だと思います。と言うか、誰が考えても稼動中の原子炉建屋の中に使用済み燃料を保管するなんておかしい。連日の事故報道でこれだけヴィジュアルに解説して頂くと門外漢でもよくわかります。

  14. klockwork2501 より:

    老害石原の発言の真相を的確に突いている。
    この災害を超常現象でしか表現できない石原は都が災害にあった時に神頼みで逃げるだろう。
    リーダーの器ではない。
    なにしろ自分の想像を遥かに超えて、オーバーフローにているのだから。