円安で株価が上昇しなくなった

藤沢 数希

円が売られている。今日のドル円相場は1ドル85円以上で取引されている。一方で日経平均株価は下落した。実態はどうであれ、トヨタ自動車やキャノン、ソニーのような輸出産業に経済が牽引されていると信じられている日本は、円安になれば株価が上がり、円高になれば株価が下がる、ということを繰り返してきた。日経平均株価とドル円レートはきれいな逆相関を描いていたのである。しかし311以降、この関係が崩れ始め、今日はまさに逆になった。つまり円が売られドルやユーロに対して安くなり、同時に日本株も売られ安くなったのである。

日経平均とドル円の推移
出所:Yahoo!ファイナンス等から筆者作成


311以降の日本経済は供給側が制約になりつつある。首都圏の電力不足により多くの工場が稼働をストップさせている。もちろん地震や津波で直接の被害を受けた北関東・東北地方の工場もまだ回復していない。自動車産業をはじめ、日本の製造業は複雑なサプライチェーンに依存しており、ひとつの部品の供給がなくなれば工程全体を止めざるをえなくなる。それゆえに円安になったからといって、日本の輸出産業が儲けることもできなくなった。

最近でこそ首都圏のコンビニやスーパーにもさまざまな物資が供給され始めたが、依然としてミネラル・ウォーターやヨーグルト、卵、牛乳などは不足しているし、トイレットペーパーも買えない。インターネットの通販でもミネラル・ウォーターなどは非常に高価なもの以外は全て売り切れている。今にもインフレが始まりそうな雰囲気である。

また20兆円を上回るという復興費を、国債の日銀直接引き受けでファイナンスしようという話も国会議員の中からではじめている。今、世界の投資家は日本国政府の財政規律を疑い始めているのかもしれない。ちょうど世界のメディアが福島第一原発の事故に関する東京電力と政府からの情報を疑っているように。

今日、日本株と為替の相関が完全に逆になった。これが、信用のみで成り立つ日本の金融システムがメルトダウンに向かって転がりはじめるターニングポイントでなければいいのだが・・・

コメント

  1. dhood63 より:

    毎回、私が賛同できる主張をされているので読んでいます。

    ただ、この件に関しては、円安と株価の相関が「逆になった」とまでいえるでしょうか。1日の動きでしかないのでは?海外投資家はもっと長期でみます。

    株価ではなく、その元になる企業業績(EPS)は、円安で間違いなく円安メリットを受けますし、ウォンやユーロに対して円が安くなると、長期的にみた国際優良企業の競争力も改善されるでしょう。現代自動車の値引き構成にも有効な対策が打てるようになります。したがって、私はあまり心配しません、。最後はファンダメンタルズ(EPSとキャッシュフロー)が重要で、株価は後追いでも最後はついてきます。株価が反応しなければ、Valuationがどんどん安くなって、それをだれも放置している状況は、Competitiveな市場においてはそうは続かないからです。

    ご紹介のあった311の後のグラフは、一定のタイムラグをおいて収斂(つまり株価が上方に収斂)するように思います。ただ日本の国内投資家はもう何年もベア・マインドセットなので、なかなか素直に買いに出れない気持ちもわかりますけどね。外人はもっと素直ですよ。

  2. kai_report より:

    円安の原因は、市場が日本に「メッセージ」を要求しているからです。

    このあたり以下のエントリーをご参照ください。

    http://www.open.jp/blog/archives/001348.html

  3. powerpoint1 より:

    日経平均が反応しないのは追加の経済対策がでない
    からでしょう。
    土地が暴落してるから不良債権も相当数ありますし
    予算の組み替えで対応してるから全く景気刺激には
    なりませんね。

    そもそも円安水準でもないでしょう。震災前から80円台
    突入してたんですから。
    予算の組み替えやら増税では悪化に拍車がかかりますね。
    日銀引受は一つの手段。
    長期国債の買い切りと今年度は20兆円規模の対策が
    必要です。

  4. minourat より:

    現在の多くの企業がまともに操業できない状態で、為替と株価の変化が一致する方がおかしいのです。

    各国の中央銀行の協調為替介入で円高がさけられたのを了としましょう。 今回の介入では、 中央銀行はかなりの利益をあげられたとおもいます。 この利益は、 国民のものとなります。

  5. backstreet0219 より:

    日銀が復興国債を引き受けると、円の国際的な信任を毀損し国債は暴落するのでしょう。そして、円安を引き起こすのだろうが、輸出企業の供給も覚束なくなり株価も下落するのでしょう。

  6. minourat より:

    > 円安を引き起こすのだろうが、 輸出企業の供給も覚束なくなり株価も下落するのでしょう。

    輸出企業では、 円安による輸入原材料価格の上昇による損失が輸出における円安利益を越えることはないとおもいます。

    それよりも、 最近、 次のような記事を読みました。

    ある中堅の私立大学が出張して、 地方都市で入試をおこなったところ、 理工系の教室では受験者が一人、 しかし隣の教室では文科系の受験者100人以上とのことでした。

    中国の理工系の学生の熱心さを考えれば、 電子産業などでは、 韓国だけでなく、 中国にもぬかれるとおもいます。