アルカイダが、既に中東民衆の支持を失っている事に就いては以前の記事で説明した。それ故、今回のアメリカ軍によるビンラディン殺害に対し中東の民衆が平静を保っている事は驚くに値しない。
寧ろ、パキスタンの反応や抗議が過剰であり、反米、イスラム原理主義回帰に前のめりになる姿が奇異に映る。まるで、イスラム過激派の本拠地になりそうな勢いではないか。
アメリカでも一時の熱狂が去り、ビンラディン殺害の議論が続いている。
米大統領府もビンラディンは武器を携帯していなかったと発表している。今後その辺を巡って「丸腰の男を・・」などと言う議論が延々と続く筈である。
しかしながら、日本は極単純に、米国が最大脅威と捉えていたテロリストを殺害し、除去したと理解すれば良い。事実、それ以上でも以下でもない。
この事件に最も早く、大きく反応したのが原油先物市場である。バーレル115ドルから一気に100ドルの大台を割り込んだ。
中東の地政学的リスクの高まりを囃して巨額の投機資金が流入し原油先物価格を押し上げたのが過去の経緯。そして今回、ビンラディンの殺害により地政学的リスクが低下し、原油先物買いのポジションのリスクが高まったと判断した為である。
何処まで下がるか予想は難しいが、シェールガス開発の台頭等原油を取り巻く環境を冷静に考慮すれば80ドル以下も充分あり得る。結果、日本の貿易収支に数兆円のプラスのインパクトを与える筈である。
日本の今年度の経常収支が、東北震災の影響で赤字に転落と予想するエコノミストもいる。
しかしながら、日本経済には年間12兆円程度の所得収支黒字がある。これは当然の事ながら震災の影響を受けない。
「3月貿易統計」で貿易収支は前年同期比で▲78.9%!という悲観ムード一色であったが、それでも1965億円の黒字である。
海外における日本製品への需要はなおも健在であり、国内のサプライチェーン問題さえ解決すれば、輸出は正常化し、貿易収支も元に戻る筈である。
これに加えて既に説明した、原油価格低下による効果が期待可能である。
東北大震災で経済破綻を覚悟したが、〆て見れば経常収支が対GDP比+4%と言うミラクルもあり得るのではないだろうか?そうなれば、世界は腰を抜かし驚く事であろう。
最近の日本買い、円高の背景は案外こういう所かも知れない。
一方、日本以外の国はどうだろうか?
アメリカがアルカイダ残党の復讐の第一ターゲットになる事は確実である。対テロ対策巨額の経費負担が引き続き必要となる。
リビアを空爆中のイギリス、フランスも同様ターゲットになる事は確実である。イギリスに就いては既にアルカイダによる核攻撃計画の存在が報道済みである。
そして、中国が頭を痛めるのは今回の事件を切っ掛けに国境を接するパキスタンが過激な反米、イスラム原理主義に傾きつつある事実である。新疆ウイグル自治区のイスラム教徒と連携し中国政府に対しテロを仕掛ける可能性が高い。
日本は中東安定の結果としてもたらされる果実をフルに享受する立場にある。そして、中東安定は一貫してアメリカの軍事力によってのみ達成された。将来もこの構造に変化があるとは思えない。日米同盟を安全保障の基軸に置く日本がアメリカに対し応分の支援、協力をするのは当然の事である。