総務省に組織された周波数オークションに関する懇談会は、3月から4月にかけて、論点の提案を求めた。その結果、集まった34件の提案が、5月20日付で総務省のサイトに公表されている。懇談会は「今後の検討を更に深める観点から」提出された提案に対する再提案を6月3日締め切りで募集している。繰り返し広く民間から提案を求め議論を深めようという姿勢は、民主的であり、評価できる。
一度目に提出された34件の論点提案を全部読んだが、その中には不思議としか言いようがない、理解不能な提案があった。そこで、それらに対する反論を書いて、再提案した。ここにも抜粋を掲載するとしよう。
周波数オークションの導入にはメリットもデメリットもあるだろう。だから賛成派と反対派が意見を戦わすのはよいことだ。しかし、あまりに理屈の通らない意見を出しても、議論は進まないと思う。それとも反対派には、その程度しか論拠がないのだろうか。
UQコミュニケーションズ株式会社の意見
かなりのOECD諸国がオークションを導入している一方で、携帯電話の加入数が世界最大である中国においてはオークションが導入されていない。電波の監理の在り方はそれぞれの国情に合わせた議論が必要であり、日本の通信事情に応じた最適の制度の在り方を考えるべきである。
再提出した反論
中国は社会主義国で体制が異なるので、多くの資本主義国で導入されている周波数オークションに反対する根拠にはならない。提案者は、我が国でも周波数は社会主義的に管理されるべきであると主張したいのであろうか。中国が我が国よりも先に周波数オークションを導入した場合、提案者は朝鮮民主主義人民共和国を根拠として持ち出すのであろうか。
KDDI株式会社の意見
入札額の高騰は新たなコスト負担が発生し、設備投資の抑制につながる可能性があります。この結果、サービスの低下ばかりでなく、新技術の導入を遅らせ関連産業の発展を鈍らせる等の懸念が挙げられます。海外での事例等も踏まえて、携帯電話関連産業全体への影響について検討が必要と考えます。
再提出した反論
周波数オークションが既に導入されている諸外国、特に米国においてスマートフォンに関連する新サービス・新機器・新技術が世界に先駆けて導入され、同国市場のみならず世界市場で高い評価を受けている事実を、提案者はどのように説明するのであろうか。周波数オークションが導入されていない、したがって関連産業の発展が促されているはずの我が国携帯電話関連産業が世界市場でわずかなシェアしか獲得していない事実を、提案者はどのように説明するのであろうか。
KDDI株式会社の意見
電子入札システムの開発が伴う場合、高い信頼性やセキュリティ等が要求されることが想定され、これらの構築・維持コストと将来実施されるオークションの頻度等、費用対効果の観点で検討が必要と考えます。
再提出した反論
すでに国有地については、頻繁にオークションが実施されている。また、各省庁における物品の調達についても入札が多数実施されている。現状に照らせば、本提案は検討する必要がない。
東洋大学経済学部 - 山田 肇
コメント
KDDIの主張は全く不思議だ。
法人税でコスト負担が発生し、設備投資の抑制につながる可能性があります。この結果、サービスの低下ばかりでなく、新技術の導入を遅らせ関連産業の発展を鈍らせる等の懸念が挙げられます。だから法人税払いたくないです。
みたな事は全ての企業が考えています。だからと言って法人税を払わないという話にはなりません。
フシギな事にどうも全キャリアが反対してるっぽいですよね。
例えばイー・アクセスはオークションへの反論の一つに「オークションが大資本事業者に有利な制度だから」だとしていますが、だとするならドコモこそが率先して賛成する筈でしょうに、実際は否定的見解みたいですし。
>中国は社会主義国で体制が異なるので、
周波数オークションは政治と経済の2面を持つと考えられます。中国は政治的には社会主義ですが経済的には資本主義なので、「中国が社会主義だから」という切り口では、すっきりしません。
中国が官僚統制国家だから、という切り口もあるが、ならばシンガポールで周波数オークションが実施されている事と矛盾します。
中国は官僚統制国家であり、政府が(まだ通信の自由化は時期尚早であり)オークションを望んでいないから、という答えがより現実を表しているのではないかと考えます。
>フシギな事にどうも全キャリアが反対してるっぽいですよね。
オークション(による新規参入で失われる既得権益の現象)に反対するのは、個々の既得権者の権益確保という観点から合理的です。シンガポールでもフィリピンでも、既得権者の反対はあるようです。だからこそオークションを実施する政策は、明確な意思非表示と、途中でポリシーを曲げない一貫性が必要になるのではないでしょうか。
http://wirelesswire.jp/Watching_World/201007271200-3.html
オークションに反対の立場は、既得権者だけではありません。オークション制度の導入が検討される以前から既得権者との競争に曝され、不利な立場を甘んじて受けながら実績を積み、いざその実績が認められてこれまでの慣例から次は我々が優良周波数を獲得する順番だと目論んでいたキャリアにとって、途中まで登りかけた梯子を急に外されるような感覚を覚えるでしょう。
既得権者は、途中までこれまでの慣行に従い梯子を途中まで登って外されるキャリアが居る事は立場上ライバルへの逆風となり競争が楽になります。しかし、その一方で、全く疲弊していない第三者の登場に怯える事になります。
限られた電波と言う資源をオークションと言う手法で本当に公平公正に配分できるのか?また、名目上公平公正が実現したとして、ユーザーにとっての最大利益に具体的に結びつくのだろうか?この辺を深く追求する必要がありそうです。
通信は国家の戦略的産業。過去には重点産業に意図的な傾斜投資を国策として行い成功した例があります。
周波数配分も、政策として傾斜配分した方が、結果として日本の発展に寄与する可能性もあると言う事です。