古川賢太郎さんの記事で、「大きな政府」と「小さな政府」の対立軸の記事は大いに共感を得た。これを東電の送電系統構造から考えたいと思う。
送電系統図は、保安上の問題から詳しくは公開されていないので、次の記述から想像していただきたい。
①新潟、福島の原子力発電所と大規模火力発電所から、群馬の2か所の変電所まで
1000kVで接続
②群馬の2か所の変電所から東京都区部を中心とした需要集中地域を取り囲む外輪系統に500kVで接続
③外輪系統から需要密度の高い都区部に、275kV 地中ケーブル系統を導入(一部は500kV 地中ケーブルを導入)
参考:数表でみる東京電力
また、関東各地域の地域別の需要密度は以下になっている。
東京市部、埼玉、千葉、神奈川の需要密度は東京都区部の1/10、栃木、群馬、茨城、山梨、
静岡東部は、東京都区部の1/40でしかない。
これら、原子力発電所の大出力送電と超高圧送電は、東京都区部の電力消費を支えるた
めの構造となっていることが分かると思う。
次に、エネルギーバランス・フロー概要をみると、発電損失が4,965(10の15乗J)もあり、これは1次エネルギー全体の23%になり、事業用発電の60%弱に達する。当然、原子力発電量よ
り大きいエネルギー量である。この発電損失は主に、火力発電の発電時に発生する熱エネルギーである。
出展:エネルギー白書2010
以上のことは、中央を支えるための高出力発電と送電、そして大量な発電損失は、正に「大きな政府」を象徴していると言えるだろう。しかしながら、これらの構造は高度成長を支えてきたのは事実で、現在も世界一人口の多い東京都市部の電力消費を支えているのである。でも、少なくとも栃木、群馬、茨城、山梨、静岡東部など需要密度が低い地域には原発も超高圧送電はいらないのも事実である。
また、エネルギー密度の低いメガソーラーを福島に設置しようというプランをよく耳にするが、例えそうしたとしても、超高圧の系統に接続することはできず、メガソーラーで発電した電力を東京に送電することはできないのである。これが再生可能エネルギーが地産地消と言われる理由であり、現在の送電システムでは再生可能エネルギーを有効活用はできない理由のひとつである。
では、再生可能エネルギーを有効活用するにはどうすればよいか、その答えになるのがマ
イクログリッドと考える。
出典:NEDO
ここで提案したいのは、燃料電池の特性とその利用である。燃料電池は発電時に発生する熱エネルギーを地域で再利用できるため、エネルギー効率は80%近くになる。つまり、各地
域、家庭の燃料電池で、大規模火力の代替を進めていけば、発電損失も大幅に減らせるのである。
また、燃料電池は現在は都市ガスなどから水素を取り出して、化学反応で発電する。水素レベルで考えれば、太陽光発電、風力発電からの燃料製造も可能だ。その技術も、燃料電池自動車の開発に応じ、進められている。エネルギーキャリアとして水素を利用する形態をとれば、再生可能エネルギーの弱点である不安定なエネルギーという問題も解決できる。
コストという問題に関しては、概算の計算もしていないが、やり方はあると考えている。もともと都市部のための発送電システムということなので、都市部の電気料金を上げて地方に還元するのが公平というものだ。都市部と地方が同じ電気料金というほうが不公平である。
なにより大規模火力の運転率が下がれば、発電損失も下がるので、それらを原資としてもよい。また、現在でも特定規模電気事業者の電気料金のほうが安い場合が多い。地方自治体が特定規模電気事業者と組んでマイクログリッドを推進することで、その利益をもって再生
可能エネルギーへの投資を行うのもよい。
以上のことから、小さな政府(地方自治・民間)の考えが、再生可能エネルギーの普及の道である。また、ここに現在の発送電を破壊するイノベーションの可能性があると思える。
まとめると、まずは燃料電池を中心に地方都市でマイクログリッドを形成し、再生可能エネ
ルギーの導入を無理なく行うのがベストな回答である。
従って、再生可能エネルギー普及のためにも、今は、電力自由化の推進と再生可能エネルギー法案の廃案、そして、コスト負担増を減らすために原子力発電所の再稼働を進めるべ
きだ。
(岸田 信勝 会社員・IS子会社勤務)