著者:西川 善文
販売元:講談社
(2011-10-14)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
メガバンクの頭取の回顧録なんて、普通はおもしろいものにはならないが、著者は住友銀行で不良債権の処理を30年以上やり、「不良債権と寝た男」といわれた。その内幕が明かされる・・・と思って読むと、肩すかしを食う。安宅産業、イトマン、住専など、部分的にはおもしろい話もあるが、大部分は公知の事実だ。
ただ磯田一郎の功罪についての評価は、その身近にずっといた著者らしく率直で生々しい。特に住友を「全国銀行」にするために無理をして平和相互銀行を買収し、それをきっかけに政治家や「闇の世界」との結びつきができたことを、きびしく指摘している。
こうしたハイリスクの経営手法が劇的に破綻したのが、イトマン事件だった。その背景には磯田の長女のスキャンダルがからんでいるのではないか、というのは当時から噂されていたが、本書でそれを暗に認めているのはちょっと驚いた。当時の不良債権をめぐる事件には、同和と在日と暴力団が必ずからんでおり、イトマンはこの三つが複合した「事件のデパート」だった。
ただ、90年代の最初にイトマン事件で痛い目に合った住友銀行は、不良債権をいち早く処理し、住専が大問題になったころには逃げていた。逃げ遅れた興銀・長銀・日債銀が消滅した90年代末には、住友は銀行再編の主役になった。
小泉政権で著者は日本郵政の社長に就任するが、その後の政権で鳩山邦夫総務相などに政治的にもみくちゃにされ、民主党政権では亀井静香郵政担当相が郵政民営化を逆転させて著者を事実上更迭する。この経緯については、著者は怒りをこめて糾弾している。日本の銀行の実態もひどいものだが、政治家のレベルはそれをはるかに下回る。読後に暗澹たる気分が残る。