虎の尾を踏んだのか、オリンパス社長解任劇

大西 宏

ヒューレット・パッカード社のたびたびの社長交代劇には慣れているとしても、今回のオリンパスの場合は、あまりにも唐突であり、なにか釈然としない気持ち悪さを感じてしまいます。
解任した側と、解任された側で主張は違っていますが、いずれにしても、株価は下落し、企業価値が大きく損なわれるという結果になりました。実際になにが起ったのかは、当事者でなければわからないことですが、オリンパスの経営陣が下した表向きの判は説得力を欠くように感じます。


社長を解任を決定した側は、同社はカンパニー制度を取っており、マイケル・ウッドフォード前社長が、カンパニー長を経由せずに、頭ごなしに現場に指示を出すことがあり、意思決定のプロセスに問題があるとしています。
また解任されたウッドフォード前社長は、オリンパスが2008年に実施した英医療機器メーカーのジャイラス買収やそれ以前の日本企業の買収について「ファイナンシャル・アドバイザーや投資ファンドに過大な支払いをした可能性がある」とし、それを解明しようとしたことが解任劇につながったとフィナンシャル・タイムスの取材に答えています。後者の方は、事実関係がわからないのでなんとも言いようがないのですが、少なくとも前者の方は不自然さを感じます。

オリンパスの決算を見ると、面白いことがわかります。利益を出しているのは、世界市場でトップシェアを誇る内視鏡を中心とした医療部門で、2011年3月期の連結売上の42%を占めています。そして医療部門の営業利益は693億円、営業利益率が2007年度の28.2%、2008年度の27.9%とからは下降してきているとはいえ、19.5%という高い結果を出しています。またその関連多角化事業と思われるレーザー走査型顕微鏡などを扱う「ライフ・産業」事業も営業利益率は8%でした。

しかし、全社となると営業利益は354億円。つまり、医療部門で稼いだ利益を他の部門の赤字で食ってしまっているということがわかります。

オリンパスの事業部門は、「医療」「ライフ・産業」「映像」「情報通信」「その他」ですが、とくに「映像」部門は150億円の営業赤字が目立ちます。「映像」事業は、デジタル・カメラ部門です。「情報通信」部門も赤字こそ出していませんが、この5年の推移を見ると、営業利益率は1%から2%台の低空飛行です。

さて、こういった事業の実情があって、もしあなたがオリンパスのトップになったとしましょう。なにに手をつけるのでしょうか。まずは赤字を生んでいるデジタルカメラ事業の根本的な改革ではないでしょうか。

ちなみにデジカメで世界シェアトップといわれるキヤノンは、2010年12月期の決算で、デジカメを含むコンシューマービジネスユニットで、売上高が対前年比6.9%増の1兆3,913億円、営業利益は対前年29.7%増の2,381億円でした。営業利益率にすると17%です。
キヤノン、デジカメ世界シェアは8年連続トップに – デジカメWatch :

IDCの調査では昨年のデジカメ全世界出荷シェアは、キヤノン19%、ソニー17.9%、ニコン12.6%、サムスン11.1%が上位を占めていますが、オリンパスは6.1%で7位にすぎません。

どう考えても、事業としては敗北してしまっているのです。海外の企業なら、立て直しを考えるよりは、かつてミノルタがそうしたように、事業の売却を考えても当然という状況です。なにが強みなのかが見いだせません。カンパニー制度の欠点ですが、事業が敗北していても、それぞれのカンパニーがシェアをあげようと頑張ろうとします。現場としてはそう考えるのが当然です。

しかし、経営責任を負ったトップとすれば、当然赤字部門のカンパニー、また利益がでていないカンパニーには厳しい要求をするのが普通です。もし、それに従わなければ、頭ごなしの指示も飛び出すというのが自然でしょう。

しかしオリンパスに取っては、カメラは原点とも言える事業です。カメラとしては名門の企業です。深く踏みこむことはタブーの領域になってしまっているのかもしれません。

マイケル・ウッドフォード前社長は、なにかそういったオリンパスの「村社会」の虎の尾を踏んだのではないかとついつい想像してしまいます。あるいはご本人が指摘した買収をめぐる不正を調査しようとしたことだったのでしょうか。

競争環境が厳しくなった今日は、経営には選択と集中が求められてきます。赤字部門は、よりその資産を生かせる企業に譲り、強みの発揮できる事業に経営資源を集中させることがオーソドックスな経営だと思いますが、日本の企業はなかなかそうはなりません。オリンパスの決算資料を見ると、そのことを痛感させられます。

いずれにしても、よほどの思い切った経営改革でも断行しなければ、市場からの信頼は取り戻せないのではないでしょうか。