オリンパスや読売が失った「三方よし」の理念

大西 宏

近江商人の、売り手よし、買い手よし、世間よしという「三方よし」の理念をご存知の人は多いと思います。それは企業経営やマーケティングの原点でもあり、今日でも通じます。
今日の会社の姿を考えれば、売手としての社員よし、買い手としての顧客よし、世間としての株主や社会よしということになりますが、それを日々追求し、最善をつくすのが会社経営でしょう。
三方よしの理念

しかし大王製紙、オリンパス、また巨人をめぐっての読売新聞の一連の騒動は、そんな経営の原点としての理念を失った経営を見せつけられているようで残念です。


Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀
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オリンパス問題については、雑誌FACTAの取材と調査で、かなり全容が明らかになってきており、後は司直がどう動くか、またどのようにオリンパスを再建するのかに焦点は移っていくものと思われます。
さて、オリンパスでは誰が損をしたのでしょうか。当然株価が急落し株主は大きな痛手を追っています。しかし、それだけではありません。損失隠しのためには、実際の損失額だけでなく、飛ばしのたびに巨額の手数料が外部に流出したはずです。それを研究開発や顧客サービスの充実に向けていれば、顧客はその成果を得ることができたはずです。また社員への還元もあったかもしれません。結局は、経営中枢の世間体を守ることと権力の座に居座り続けたいために、「三方よし」が犠牲になったのです。しかもそのためには違法行為まで長年積み重ねられていたというのだから驚きます。
魑魅魍魎オンパレードのオリンパス事件

巨人の経営も、清武代表と読売の渡邉会長の確執ですが、長島茂雄名誉監督を使ったり、また元経団連会長の御手洗監査役まで使い、独特の情報戦を読売が展開していますが、そこにはまったくファン、選手やコーチ、また球団で働く人たちへの配慮がありません。あまつさえ、プロ野球日本シリーズのまっ最中に騒動を起こし、また広げたことはいかにプロ野球ファンへの裏切り行為かということへの自覚もないのでしょう。

過去の経緯をご存知の人は長島名誉監督が、渡邉会長につくことはいたしかたないことだと理解できるでしょうが、それは長島名誉監督を傷つける行為で、さらに巨人のファン離れを促します。

また、読売の対応の問題を指摘し、まともな経営判断が行なわれることをチェックする役割を担っているはずの読売新聞本社グループ監査役、御手洗元経団連会長がそれに安易に乗ったことも疑問でした。

今回の騒動は、巨人が読売新聞の拡販の道具としての球団、渡邉会長のおもちゃとしての球団という現実をまざまざと見せつけています。しかも、テレビの放映が巨人の価値を生みだしていた頃の時代の感覚による球団経営から抜け出せないために、巨人はかつてのようにプロ野球球団を代表する特別な球団ではなく、いまや多くの球団のひとつでしかなくなっています。もはや長島元監督が高らかに宣言した「栄光の我が巨人軍」は衰退期にはいってきています。視聴率も稼げず、観客動員も多いとはいえ、阪神に抜かれているのが現実です。
時代変化に適応できなくなった巨人という球団 –

本来は、「三方よし」で球団の価値、またプロ野球の価値を高めることを追求することが経営の本筋だと思うのですが、オリンパス同様に、世間体と、権力の座に座り、影響力を守ることに置き換わってしまっているという印象をさらに深める結果になっています。

海外からは、日本の経営が、その成果を生みだす能力で疑われ、株価の長期的な低迷につながっていますが、またその原因として、企業統治が問題になってきそうです。しかし、経営の健全性を保つためのしくみも大切としても、「三方よし」という昔からあるあたりまえの理念がなければ、企業の活力は生まれてきません。