少し気が早いが、2011年を振り返れば印象深いのは世界中でデモが頻発した事である。中でも、昨年12月中旬、チュニジア中部で失業中の若者が焼身自殺を図った事件をきっかけに、あっという間に国中に拡散したデモは「ジャスミン革命」と言う美しいネーミングでアラブ大衆の胸を打ち、同じイスラム共和国のエジプト、リビア、シリアそしてイエメンに同様瞬時に広がった。
その結果、チュニジアでは大統領が1月16日に出国を余儀なくされ政権が崩壊した。その後エジプトの政権崩壊と続き、リビアの独裁者カダフィ大佐の殺害、後継者と目された次男のリビア南部での捕獲と続く。リビア国内で裁判にかけられ死刑になる事は確実である。シリア、イエメンの両国は今以って内戦状態にあるが早晩先行する共和国の後を追う事は既定路線である。
デモの背景にあるのは、若者の失業問題、そして物価高、一握りの支配者が富を独占し、縁故主義が幅を利かす政治の横行による、目に余る賄賂の横行、汚職への国民の反感といった所であろう。
革命の目指す所は、民主的な政府を確立し経済を近代化する事だと思うが、リビア、シリア、イエメンはこれからとして、チュニジア、エジプトは当初目的を叶えたのであろうか?
先ず、チュニジアであるが、革命を起こした最大要因失業に就いて大きく悪化している。
統計局によれば5~6月期の失業率は18・3%であったが、昨年同期は13%であった。
失業者数が70・4万人であったが、昨年同期は49・1万人であった。
最大の要因は就職機会の喪失で対昨年比で13・7万が失われたが、そのうち農業が6・4万で、第21位が観光で、1・6万件、その他工業、サービス業で5・7万件であった。
高学歴者の失業は6・3%増えて、15・7万人から21・7万人となった。
理想に燃えて革命を起こしたチュニジア人には極めて気の毒な結果であるが、冷徹の受け入れるしかない。
次いでアラブの大国エジプトである。本来なら追放されたムバラク前大統領の後任が任命されていてしかるべきであるが、状況は悲惨で今朝のBBC Newsが伝える所では、市民の抗議活動が先鋭化しており一触即発の状況にある。
背景としては、軍が自己のポジションを憲法の上に置こうとして譲らない所にある。これは、実質軍独裁に他ならずこれでは何の為にムバラク前大統領を追放したのか判らない。市民が騒ぐのは当然の成り行きである。
それでは、既に市民の間に相当数の死者が出ているというのに、何故欧米は市民を支援しないのだろうか?これこそが中東諸国に何時も付いて回る問題である。詰まり、中東での市民とは要するに本当の労働者、農民、大都会の小店主、使用人その他の貧しい人達であり、敬虔なイスラム教徒が圧倒的に多い。早い話、欧米に取ってイスラム原理主義との境界線がはっきりしないムスリム同胞団の支持母体なのである。
エジプトでこれまで貧困層の為に学校、病院等を運営したのはムスリム同胞団のみであり、また組織運営の経験があるのも彼らだけである。従って民主的な選挙をすればムスリム同胞団等が必勝となり、これは当然軍としては好ましからざる結果と言える。
一方、西欧諸国に取って問題は、ムスリム同胞団が一旦権力を握った後本性を表し、イスラム原理主義に回帰、議会を通じて独裁政治を確立し、同じくイスラム原理主義国家であるイランと手を結ぶ可能性がある事である。
最後は、アメリカ、ニューヨークのOccupy Wall Streetである。率直に言って、9月17日のデモ開始時点で何の為、誰の為、どちらに向かって、何をするのか、さっぱり意味不明な活動だと訝しく思っていたら、何の事はない2ヶ月後に警察による強制排除となった。
アメリカ国内から警察の横暴を非難する声も特に聴かれず、馬糞の川流れの如き無様この上ないデモの最後である。
それでは、ジャスミン革命を切っ掛けに多くのイスラム共和国を終焉に導き、アメリカでOccupy Wall Streetを引き起こした何か目に見えない力の様なものがあるのだろうか?
私は、市場の一元化の副作用と思っている。
如何にイスラム共和国と言えども世界の市場と連動をせざるを得ない。そして体制が歪で矛盾が多ければ結果、失業や物価高と言う問題に直結し市民が被害者となる。従って、今は被害者の市民が立ち上がり、市場の一元化時代のあるべき体制の再構築に動いている移行期ではないのか?
Occupy Wall Streetは市場の一元化により、職を得る事が出来ず暇とエネルギーを持て余した若者によるイベントと理解している。
イスラム共和国で起こった事が、市場の一元化の進展する中、古い体制の退場宣言であるとしたら、アメリカで起こっているのは給料だけ高くて、取り立てて取りえの無い単純労働者への同じく退場宣言である。
相手が市場である。幾ら文句を言った所で、オバマ大統領も政府も何も出来ない。
そんな事する暇があるなら、職業訓練学校にでも真面目に通い、手に職を付けるべきであろう。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役