オリンパスの上場を維持させるべきか -- 企業価値を必要以上に損なわない形での制裁を -- 高橋正人

アゴラ編集部

ウッドフォード前社長の解任から損失隠蔽の発覚までの一連の騒動を通じ、オリンパスの時価総額が著しく低下している。前社長の解任前日の時価総額が約6,700億円(10/13)だったのに対し、現時点での時価総額は約2,300億円まで下落しており、短期間で約4,400億円もの株式価値が損なわれた。わずか1ヶ月余りという短期間で実に時価総額の約65%が消え失せてしまったのだ。代表的な投資指標であるPER(株価/1株当たり予想当期利益(オリンパス見通し))を見ても、約37倍(10/13)から約13倍(11/22)へと低下しており、オリンパス株に対する評価は急激に下がっている。


上記の株式価値の急落には違和感がある。なぜなら、今回の不祥事は、財テクの失敗を隠蔽し、株主を始めとする各ステークホルダーを欺き続けたことについて厳しく追及されているのであり、オリンパスの本業自体の収益性に疑義が生じているわけではないからだ。すなわち、不祥事の発覚前後で世界トップシェアを誇る内視鏡事業などのキャッシュフローの創出能力に基本的な変化はないはずだ。それにもかかわらず、なぜ企業価値が大幅に毀損してしまったのであろうか。

大きな理由の一つとして考えられるのは、オリンパス株式の将来的な流動性(=適正価格で速やかに売買できる可能性)に対する不透明感である。上場廃止の必要性は東証が独自に判断するものであり、投資家としては、上場廃止のシナリオも織り込んだ行動を取らざるをえない。

仮に、オリンパス株の本源的な価値は現状より高いと評価する投資家が存在したとしても、上場廃止により適正価格での速やかな売却が困難となる可能性がある以上、積極的に買いポジションを取るのは難しい状況であろう(*1。また、既存株主にとっても、上場廃止前の売却を急がなければ、現状よりも売却が困難な状況に追い込まれるため、例え本源的な価値以下の価格だと思っていたとしても、売却を優先せざるをえない状況になりうる。

*1:全株式を買い取り、企業価値を高めてから再上場を狙うような投資家(バイアウトファンドなど)であれば可能かもしれない。しかし、多くの機関投資家や個人投資家はそのようなことを想定していないため、買いポジションを取るのは難しいであろう。

また、より重要なのは、株主(既存株主及び潜在的な投資家)が不利益を被るというだけではなく、社会全体の観点からも流動性低下による適正価格からの乖離は以下の二点において望ましくないとういうことだ。一つは、企業が活動を継続するために必要とする、従業員等の「ヒト」、生産設備等の「モノ」、投資家からの出資や社債・借入金等の「カネ」は言うまでもなく社会に存在する有限の資源であるため、最大限に有効活用されるのが望ましいという点だ。言い換えれば、オリンパスの企業価値は、世の中の希少資源(ヒト、モノ、カネ)を投入している公共の価値とも言えるため、株式の流動性への懸念によりその価値が損なわれることは極力避ける必要がある。もう一つは、株価という価値判断の羅針盤が機能しなくなるということは、企業価値を最大化させているか否かの社会的な判断基準を失うことを意味するという点である。

したがって、オリンパス株式の流動性を維持し、適切な価格形成を促すことは社会的にも重要であることから、最低でも当面の上場を維持する必要がある。具体的には、早急に上場廃止にするのではなく、一旦、特設注意市場銘柄に指定するのが望ましいのではないか。特設注意市場銘柄とは、上場廃止にまでは至らないものの、内部管理体制などについて改善の必要性が高い場合に指定されるものであり、再発防止体制の整備などがクリアされれば当該指定は解除される(もちろん、体制整備が不十分であれば上場廃止となる)。当面の株式市場での取引は継続されるため、流動性の枯渇懸念による適正価格からの乖離の可能性は軽減される。

当然ながら、財テクの失敗を隠し、市場を欺き続けたオリンパス(特に経営陣)に対する社会的、経済的な制裁を行う必要はある。しかし、その制裁の副作用により「オリンパスの企業価値」という大切な公共価値までを必要以上に毀損することのないよう、注意を払うべきではないか。

高橋正人