安住財務大臣の迷走が止まらない。それにしても先月31日に円高に対し断固とした処置を取ると大見栄を切り、実際に為替介入を実施し、仄聞する所既に数千億円の為替差損が発生していると聞いている。
そして、舌の根が乾かぬ昨日の22日午前の衆院財務金融委員会で、為替介入そのものを否定したのである。
この記事の内容が正しければ、どうも安住氏は決定的な誤解をしている様である。
そして川上氏が「日銀は民主党の足を引っ張っている」と言ったところ、安住財務相は、金融政策にだけ景気の循環(の改善)を求めるのは酷だとしつつ、「日銀法でいえば物価安定と自国通貨の価値を高くするということは放棄できない。その中で可能な限りの緩和をやっていかなければならないということが大事だ」と日銀をかばい、金融緩和を随時やってくれると日銀に期待した。問題はこの「自国通貨の価値を高くする」というくだりだ。
日銀法では、第1条第1項で「日本銀行は、(中略)銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」とされ、同条第2項で「日本銀行は、前項に規定するもののほか、(中略)信用秩序の維持に資することを目的とする」と規定されている。
第2条では「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」とされている。どこにも「自国通貨の価値を高くする」とは書かれていない。
私はそもそも10月の為替介入の時点で安易な介入には反対であり、先ずは円高要因の分析が必要と考えていた。それでは、為替のレートを決める要素とは一体なんであろうか?私は極単純に今後の経済成長予測、財政出動と金融緩和有無の3点と割り切っている。
それでは、先ず最初の今後の経済成長予測の日米比較をOECD資料を参照して行ってみる。
先ず、日本であるが、本年度はマイナス0.9%,来年はプラス2.2%となっている。詰まりは来年は本年度比プラス3.1%と言う事になる。
一方、アメリカは本年度はプラス2.6%,来年はプラス3.1%となっている。詰まりは来年は本年度比プラス0.5%と言う事になる。
言うまでも無いが、日本の経済成長率はアメリカを圧倒する事になる。
次に、財政の出動であるが、日本は一昨日第三次補正予算が国会を通過した様に今後も量は減るにせよ継続する事は確実である。一方、アメリカに取って債務削減こそが喫緊の課題であり財政の出動など望むべくもない。
最後に金融緩和であるが、流動性の罠に捕捉されていると考えている日銀が更なる金融緩和に向かうとはとても思えず、一方アメリカは欧州の景気悪化が進めば金融緩和に向かう筈だ。
上記から考えて、円高は必然であり小手先の為替介入等、投機筋に小遣いを与えてやるだけの話と言うのが私の基本的な考えである。
円高要因となる財政出動、円安誘導の為替介入、何れも監督官庁は財務省である。謂わば、右足でアクセルを踏み込み、左足でブレーキを踏むような愚かな行為であり、自家撞着そのもの。疑問があるなら自動車教習所で試してみれば良い。指導教官から確実に怒鳴られる筈である。
今一つ看過出来ないのは、一昨日国会を通過した第3次補正予算に財源裏付けとしての増税法案成立が義務付けられている点である。財政規律への回帰は日本の喫緊課題である事は理解する。しかしながら、これにより予算の執行が遅れ結果東北の被災民を放置する事になったのではないか?仮にそうであれば、安住大臣と財務省の業は余りに深い。
これに対して、余りに大甘なのが国会で議論したとも思えないEFSF債3億ユーロの購入決定である。原資は外貨準備金が使用されるがこれは短期国債で賄われる。要は国、国民の借金であり将来返済が必要となる。
そもそも何故今回のEFSF債起債であろうか?
欧州のキリギリスが遊びほうけ、借金を膨らませ結果、貸し手たる欧州の銀行が借金棒引きに応じざるを得なくなった。当然、銀行のB/Sは毀損するので資本注入する事になり、原資を奉加帳で集金する事にしたと理解している。
東北で被災された方々は殆どが同じ日本人である。そして、地震とそこから派生した津波は自然災害であり、被災者に何の責任も咎もない。この同胞を救うための予算処置に税の裏付けが強く求められ、片や遊びほうけたキリギリスの後始末、尻拭いは安住氏と財務省が勝手に決めてしまい、実行する。強い憤りを感じざるを得ない。
安住氏と財務省には、何のため?誰のため?どちらの方向に向かい?何をしたいのか?この機会に是非説明して欲しい。
まるで糸の切れた凧の如く、迷走する安住氏がキリモミして地上に墜落する日は近いと思う。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役