先の記事に書いたように、電波部が主張し、ソフトバンクが希望する比較審査方式で900MHz帯の免許を付与しても、利用できるのは早くて2015年である。これでは、爆発する需要に応えられないことは明らかだ。しかし、携帯各社も手をこまねいているわけではない。当然ながら様々な対策を着実に進めている。そんなことわかりきっていると思っていたが、問い合わせをもらったので記事にしておく。
第一の対策は小ゾーン化である。基地局を増設して一つあたりの利用者数を減らせば、トラフィックが分散されるのでパンクが避けられる。携帯各社はすでに数年前から基地局整備に取り組んでいる。
第二は、他の無線網にトラフィックを逃がす「オフロード」である。駅やカフェにWiFiを設置し迂回させるのが典型。WiFiは認証に時間がかかるが、高速化手順の標準化が進んでいる。実用化されれば、電車が駅に停車する短時間にもWiFiで通信できるようになる。ちなみに、この標準化活動(IEEE802.11ai)の責任者はオークション推進派の真野さんで、僕が推進協議会の会長を務めている。日本が主導権を取っている活動だということで総務省にも支援してもらっている。
ドコモがXi、AUがWiMAXを搭載したスマートフォンを売り出しているのも「オフロード」の一環である。これらの無線網は、通常利用されているケータイ網よりも混雑していない。ウィルコムがかつて開発していたXGPを手直しした技術を、ソフトバンクは利用しようとしている。これも「オフロード」である。ただし、そんなローカル技術はiPhoneに搭載されるはずもないので、ソフトバンクの「オフロード」作戦には限界がある。
電波利用料の一部は研究開発に回されているが、その中に「複数無線ネットワークに対応した端末技術の開発」というものがある。電波部の表現をそのまま用いれば「次世代移動通信システム、第3世代携帯電話、無線LAN等、複数の無線ネットワークの中から最適なネットワークを自動的に選択して通信する技術を開発し、高い周波数利用効率を実現」する技術である。ただちに免許を交付しないとパンクすると主張するならこのような技術開発は中止すべきだし、技術開発を続けるならパンクを主張すべきでない。
究極とも思われる対策が定額料金制から従量課金制度への移行である。大量にトラフィックを飛ばさないように料金面から抑制をかけようというもので、国内外で各社が検討を開始している。
「オークション導入で割当てが遅れ電波がパンクする」とあっさり書く前に、マスメディアには対策が進んでいることを認識してもらいたい。
山田肇 - 東洋大学経済学部