前回の記事で当局のやる気の無さを指摘した。そして、今回ロイターが伝える第三者委員会の報告骨子を読み、その思いを強めた。
エピローグは例によって上から目線、大上段に構えた正義の議論。
オリンパスは経営の中枢が腐っており、周辺部分も汚染され、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成ともいうべき状態だった。また、トップがワンマン体制を敷き、異論を唱えるのがはばかられる雰囲気が醸成されていた。
第三者委員会に求められているのは、飽く迄事実関連の確認と法に照らしての対応に限定される。正義云々の定義の曖昧な話は決してしてはならない筈である。
イスラム諸国なら、こういう時必ずイスラムの教えに帰れと言う(イスラム原理主義)。良いか悪いかは別としてイスラムの場合は判断の基準として最終コーランがある。日本の場合は今回の如く場当たり的な官僚の思い付きである。外国に取っては理解し難く、本当に気持ちの悪い話と思う。
この正義の議論だけで、エピローグは正義の味方の官僚が今後オリンパスを支配すると言うメッセージを読み取るのに特に高度なリテラシー等必要としない。
次いで悪は一部の経営者であり、残りの社員は問題無しとの指摘である。元々、騒ぎを大きくする積りも無ければ、上場廃止を防ぎたい当局としては当然のコメントである。しかしながら、本当にそんな事が可能であろうか?
1千億円を超える資金が動いており、20年間を超す不正である。経理、財務、監査と言った本社機能がフルに関与したのは明らかであろう。
更に、次のコメントには驚かされる。
企業ぐるみの不祥事が行われたわけではない。不正経理に多少でも加担した役員、2008年から2009年にかけて監査法人の指摘を受けつつ対応しなかった監査役は一新し、短時間の会議で問題案件を処理した取締役もしかるべき時期に交代すべき。
要は辞任すればそれ以上の罪は追及しないと。ライブドア、堀江元社長の場合は問答無用で逮捕し、塀の向こう側に送り込んだ訳だが、二つのケースのコントラストに言葉を失う。
兎に角、事件の延焼を防ぎたい背景から更なる荒業に出る。
反社会的勢力の関与は認められなかった。
この短いコメントのみである。別に文章が長い方が良いとは思わない。簡略で要を得たものが望ましいとは思う。しかしながら、結論のみが述べられ、結論に至る過程、理由が省略されるとは一体どういう事であろうか?
オリンパスの出納帳を調べたが、○○組や○○会の名前が出て来なかったと言う理由なら笑止千万である。迂回しての支払い等簡単に出来る。そして迂回に使った会社は決済が終われば登録を抹消して足はつかない。暴対法施行で零細企業に過重な負荷を与えても、オリンパス事件の如き1千億円を超える事件が「ざる」では意味がないと思うのであるが。
今回の犯罪はオリンパス単独では絶対に成立せず、外部のパートナーとタッグを組み始めて成立する。詰まりは、オリンパス外部に濡れ手に粟で、ぼろ儲けした巨悪がいるという事である。しかしながら、その部分を捜査した経緯は全く見えない。巨悪を指を咥えて眺めているだけなら、正義に就いて説教するのは、今後は止めて貰いたいものである。
さて、エピローグはお約束であるにしてもずっこける。
不法行為に加担した関係者は法的責任を追及されるべき。代表取締役と同格の経営監視委員会または経営監視役を一定期間設置するのも1つの方法。
さらっと言っているが、早い話、今後は経営監視委員会がオリンパスを支配すると言っているのである。経営監視委員会のメンバーは雇われ弁護士であっても、実質支配するのは勿論官僚に決まっている。
事実、第三者委員会の調査報告を受けてオリンパスの現経営陣は現役員が総退陣し来年2月にも臨時株主総会を開催して「新経営陣」を選ぶと発表した。
疑問は、一体誰が現役員の総退陣と経営改革委員会の設置を決め、経営改革委員会の人選を行うのかと言う事である。勿論如何なる権限に基づいての部分も気になる。会社のオーナーは飽く迄株主という資本主義の鉄則が無視されている。
露骨に言ってしまえば、オリンパスの内外で誰の刑事責任を問うのか注視していたら、その部分は省略され、行き成り来年以降誰がオリンパスを支配するのかに話が飛んでいるのである。
初めと終わりのみで、途中が省略されるのは無賃乗車、キセルと言う事になるが、正義の味方がやればきっと罪に問われないのであろう。
前回の記事で紹介した通り、ウッドフォード元社長はプロキシファイト(委任状獲得競争)を予定している。しかしながら、日本の官僚相手に勝ち目はない。官僚が勝利し、結果、世界は日本に開かれた市場はないと再認識する訳である。
本当に情けない、業の深い話と思う。
山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役
上場ベンチャー企業の粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ―ケースブック