今年の良書ベスト10・悪書ワースト5

池田 信夫

Thinking, Fast and Slow「良書悪書」のコーナーも最近は認知度が高まり、毎週10冊ぐらい本が贈られてくる。1冊ずつお礼することもできないので、ことし献本いただいた著者と版元には、ここでまとめてお礼を申し上げます。

今年は豊作だった。私の個人ブログとあわせてリストアップすると20冊ぐらいになったが、そのうち文句なしのトップは1である。タレブもいうように、これは国富論と並ぶような新しい学問を創造するインパクトをもつ本だと思う。来年、早川書房から邦訳が出るようだ。3も原著は名著だが、訳がひどい。

  1. “Thinking, Fast and Slow”

  2. 『放射能と理性』
  3. 『フォールト・ラインズ』
  4. 『中国化する日本』
  5. 『エネルギー論争の盲点』
  6. “Rational Decision”
  7. “Civilization: The West and the Rest”
  8. 『正義のアイディア』
  9. 『〈起業〉という幻想』
  10. 『マンキュー マクロ経済学』

震災後には放射能の恐怖をあおる本が山のように出たが、科学的なデータを踏まえていて読む価値があるのは、2と『人は放射線になぜ弱いか』ぐらいだ。エネルギー問題については、5と“Energy: Myths and Realities”をおすすめしたい。

目を国外に転じると、GDPで日本を抜いて経済的・軍事的なプレゼンスを高める中国との関係が、これから厄介な問題になるだろう。4はこれを「東洋対西洋」という図式を離れて中国という独自の文明圏の問題としてとらえた本。自由も民主主義も普遍的な価値ではないというのは、7や8も指摘する点だ。21世紀がアジアの世紀になるとすると、西洋的価値観の相対化が大きなテーマになろう。

経済学の本は不作だった。金融危機を理論的に分析できず、昔のマクロ理論にアドホックな規制を接ぎ木するだけでは、いま進行している世界的な経済危機には対応できない。1のようなパラダイム転換を行ない、6や『ゲーム理論による社会科学の統合』のような基礎的な部分から考え直す必要があるのかもしれない。

ついでにワースト5もあげておこう。1は「福島第一原発事故はチェルノブイリ以上の大惨事で、甲状腺癌などで40万人が死ぬ」と予想する。2年前には「放射線を少し浴びた方が発癌性が低い」などと言っていた武田邦彦氏の無節操にはあきれるしかない。あとはコメントの価値もないので、リンク先の「読んではいけない」書評を読んでください。

  1. 『2015年放射能クライシス』

  2. 『TPP亡国論』
  3. 『原発のウソ』
  4. 『日本の大転換』

  5. 『デフレと超円高』