世代間格差: 人口減少社会を問いなおす (ちくま新書)
著者:加藤 久和
販売元:筑摩書房
(2011-11-07)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
消費税率を2015年10月に10%に引き上げる「社会保障と税の一体改革」の素案が、やっと決まった。党内に反対論が強く、離党騒ぎなどのドタバタの末に決まった案だが、これによって財政は再建できるのだろうか。
答はノーである。この一体改革では増税で13.5兆円の歳入増を見込む一方、社会保障費の増加で15兆円の歳出増になるので、財政赤字は増えるのだ。こんな改革ともいえない改革にここまで手間取っているようでは、財政破綻は時間の問題である。
では財政が破綻しなければいいかというと、本書も指摘するように世界最悪の世代間格差は、今後の急速な高齢化でさらに悪化する。最新の推計では、60歳以上と0歳児の生涯の受益と負担の差は1億2000万円に及ぶ。
だから真の問題は、増税ではなく歳出の削減、特に社会保障の削減なのだ。これは経済学者のコンセンサスだが、政治家は与野党ともにまったくふれない。それは有権者の年齢のメディアンが51歳だからである。投票率や1票の格差を勘案すると、実質的には60歳以上が有権者の過半数を占めるので、すべての政策は老人によって老人のために決められるのだ。
本書の提案する年金の積立方式への変更や基礎年金を「ベーシック・インカム」にする案などは合理的な提案だが、最大の問題はそれを実現する政治システムが存在しないことである。政治家ばかりかメディアまで増税には賛成するが社会保障の削減をタブーにしている現状で、経済学者がどんな提案をしても空しい。
経済学は真理を探究する学問ではなく、政策立案のツールに過ぎない。いま必要なのは理論的な精緻化ではなく、本書に書かれているような経済学の標準的な考え方を政治家やメディアにいかに認識させるかという問題だろう。本書の内容はオーソドックスだが、こうした政治経済学的な側面の検討がないのが物足りない。