感性価値は事業オーナーの想いによって作られる―@toriaezutorisan

村井 愛子

先日投稿した「人は金銭的インセンティブでは動かない」に関して多くのご意見を頂きました。少し付け足して説明させていただきます。この原稿の中で、今後のサービスの鍵を握るのは「感性」ではないかと書いています。サービスを作る人たちの感性に顧客が共感して、事業が大きくなるのではという趣旨です。


もう少し厳密に定義すれば、顧客が「感性に価値を求める領域」と「機能に価値を求める領域」が2極化していくように思います。しかもそれは、それぞれの領域に違った顧客が存在するというよりは、一人の顧客の中に2つの領域が同時に存在するのです。

以前に20代前半~後半の人たち十数人にインタビューを行いました。インタビュー内容は「どこのECサイトで何を購入しているか?」というものです。その答えは、圧倒的にAmazonもしくは楽天を利用しているというものでした。しかし、話を掘り下げて購入物を聞くと「書籍や飲料水は楽天やAmazonで購入し、衣料品に限ってはZOZOTOWNで購入する」という答えが多く聞かれたのです。

コモディティ商品は、ポイントインセンティブ欲しさ、または価格比較の上で楽天やAmazonで購入し、衣料品に関しては好きなブランドが安定して揃っているという理由でZOZOTOWNで購入しているのです。前者に求めているのは、商品の安さやポイントインセンティブといった機能・実利的価値、後者に求めるのは「好きなブランドのファッションを、好きなサイトで購入する」という感性価値です。

このように、1人の人間の中には機能価値を求める領域と、感性価値を求める領域が共存していると思います。今日1日の自分の行動を振り返れば分かりやすいかもしれません。たとえばコーヒーを飲むにしても、スターバックスで300円のコーヒーを飲むと優雅な気持ちに浸れます。もっと贅沢な気分を味わいたい時は、クラシックのかかった喫茶店に入りたい。これは、コーヒーそのものの機能を購入しているわけではなく、コーヒーを楽しんでいる時間に対して価値を感じているわけです。

感性価値は、音楽・ファッション・食といった人が感性を感じやすい領域で育ちやすいと思いますが、コモディティに属する分野も工夫次第で感性価値を感じてもらうことが可能です。以前マクドナルドについてコモディティからの転換というテーマで原稿を書きましたが、これもまた価格競争という機能価値の戦いになった事業を、感性分野に引き戻そうとしたものに思えます。次々と登場するテキサスバーガーやグランドキャニオンバーガーといった期間限定の新商品に「ちょっと見てみたい」という興味が湧きませんか?また、身近な例では近所の歯医者がありますが、普通は歯医者に機能価値以外の価値は見出せません。しかし、この歯医者の名前は「○○歯科劇場」と言い、お客様は観客、歯医者は監督としてお客様に満足頂けるサービスを提供するというコンセプトの元、従業員は全員アロハを着用して、定期的にイベントを開催するなどしてファンを獲得しているのです。

個人的にはもっと感性価値が喚起されるサービスと出会えると嬉しいのですが、企業内でこういう話をしても相手にされません。何故ならば明確に「○○市場」という市場が存在していて、その市場の○パーセントのシェアを獲得出来ます!という話でないと興味を持ってもらえないからです。一応、感性価値市場の試算は出ていますが、コレを元に「現在の感性価値市場のシェアを取るにはどうするか」という話は目的と手段が逆になります。そもそも事業オーナーの「顧客を感動させたい」という想いに顧客が共感し、感性価値市場というものが存在するからです。感性価値市場は結果であって、その過程を分析してもそこには“事業オーナーの想いと参画メンバーの感性”という分析し難い不確定要素しかありません。

というわけで、個人的にはこういった事業はスタートアップから生まれやすいのではないかと思っています。ちなみにEC分野でこの市場を築けたのは、ZOZOTOWNおよび無印良品なのではと思っておりますが、個人的にEC分野でさらに可能性があると思う分野をブログにて紹介しますので、興味があればご覧ください。