人は金銭的インセンティブでは動かない―@toriaezutorisan

村井 愛子

今年の1月にこんな記事が出ていました。

「年内にクックパッド抜く」–楽天レシピ、ポイント連動で攻勢」

楽天がレシピサイト「クックパッド」そっくりのサービスを作って、年内に抜くと宣言したのです。記事を抜粋すると、以下の通りものすごい急成長をしていたことが分かります。

楽天が10月に公開したレシピ投稿サイト「楽天レシピ」が急成長している。4カ月でレシピ数は4万件を突破、月間訪問者数は200万人を超えた。楽天会員は現在約7000万人。

さらにレシピを投稿すると、楽天ポイントがもらえます。この記事を見た当時「クックパッド」は、一巻の終わりだと思うとともに、せっかく新しいイノベーションサービスを生み出したとしても、Webサービスの参入障壁の低さによって丸パクリされる可能性が大きく、大企業の資本力の大きさによって金銭的インセンティブまでつけられたら最後だと実感しました。ユーザーが合理的に考えたら「クックパッド」より「楽天レシピ」に投稿する方がメリットが大きいからです。

しかし、11月に入ってこんなブログを発見しました。

「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」

cookieによる推定UUを計測すると、楽天レシピは全くクックパッドを抜けていないのです。11月以降は両サイトともUUを大きく伸ばしているようですが、12月29日現在でもクックパッド18Mに対して楽天レシピは2.1M。ものすごい差が開いています。

ブログの筆者さんは“たのしい仕事を退屈なものに変えてしまう〈ソーヤー効果〉”を用いて「楽天レシピは、金銭的インセンティブ(楽天ポイント)を組み込んだために、かえってユーザーの楽しさを損なってしまったのでは」と結論づけています。金銭的インセンティブをつけると、アフィリエイト欲しさに質の低いレシピを投稿するユーザーを招く要因にもなり、結果として良質のユーザーが定着しづらくなるのです。

私にとって非常にこれは朗報でした。今までWebサービスの参入障壁の低さから、いくら独創的なアイデアを以てイノベーティブなサービスを提供したとしても所詮大手企業の資本力と戦略を用いられたら全て持っていかれるという前提が覆ったからです。ソーシャル時代のサービスは、ユーザーにどんなメリットを提示するかということよりも、いかにしてユーザーの心地よい空間を作るかということが鍵なのかもしれません。
今朝FacebookのフィードでITジャーナリストの湯川さんが以下のようなことを仰ってしました。

ソーシャルの時代になると競合他社との差別化要因は、製品サービスのコストパフォーマンスではなく、ファンコミュニティの心地よさになる。そしてコミュニティの心地よさは、コアメンバーに生命エネルギーのアンプリファイアがいるかどうかにかかっていると思う。いいサービスを企画提供するCEOや、的確な投資をするCFOというような実務的な能力より、一見遊び呆けているように見えるアンプリファイアの人を惹きつける能力が理由で、その会社のファンコミュニティから抜け出せなくなることがある。実際にそういう企業は既に存在するし、僕自身その企業のファンコミュニティに最大限の支援を惜しまない状態。

ZOZOTOWNの社員たちは、「カッコイイとは何か?」というテーマについてよく議論をするという話を耳にしました。これからの時代は、戦略や戦術を語る前に「楽しいこと」「面白いこと」「美しいこと」といった感性が分かるメンバーを集めることが必要なのではないでしょうか。

村井愛子 @toriaezutorisan