今年、いよいよ団塊の世代が高齢者(65歳以上)の仲間入りを始める。言うまでもなく、今後、高齢者向けの事業は大きなビジネスになっていくだろう。しかし、「高齢化社会の進展=シルバー顧客の増加」という需要面の変化ばかりに注目するのはもったいない。
本稿では、高齢者は有力な労働力にもなりうるという供給の側面から、新たなビジネスチャンスについて考えてみたい。
1.日本の高齢者のポテンシャル(注1)
まず、日本の高齢者の状況を国際比較したデータを確認しよう。下記のグラフは、高齢者の健康状態を比較したものである。
まったく不自由なく日常生活を送っている割合は約90%にも達しており、米、韓、独の60%台と比較すると日本の高齢者は圧倒的に元気である。
下記のグラフは、経済面での比較である。
経済面で困っていない人は50%を超えており、他先進国よりも高い。あまり困っていない人も含めると80%を超えており、全体としては、健康面同様、金銭面でも困っている様子はあまり見られない。
しかし、生活に余裕があるからといって、勤労意欲が低いというわけではない。同調査によると87%の高齢者が就労の継続を希望しており、勤労意欲は高い。就労を継続する理由としては、収入を目当てとした回答を別にすれば、「働くのは体に良い、老化を防ぐから」と考えている高齢者が他国と比べて多い。
要は、「金にはさほど困っていない。でも、まだまだ元気だし、老け込みたくないから働きたい」というのが日本の高齢者の代表的な姿なのだ。健康かつ労働意欲も高い日本の高齢者のポテンシャルは、他国との比較では最高クラスだ。また、経済的に余裕があるため、それぞれの健康状態や希望に応じて、フルタイムではなく、パートタイム的に労働時間や労働形態を選択できるのも都合が良い。
日本経済の課題である労働力人口の減少への処方箋として、高齢者を大いに活用すべきである。
2.高齢者を活用したビジネス
労働力人口の減少により、今後、働き手の不足に困るのは労働集約的な産業であろう。特に、新興国に代替されていく低付加価値の製造業ではなく、サービス業を中心に人手が必要である。
では、具体的にどういったサービス業に高齢者を活用する余地があるだろうか。例えば、教育サービスの分野で下記のような派遣業務を標榜する企業が出てきても良いのではないか。
(1)ベビーシッター、託児所
フルタイムに近いサービスは勿論のこと、「2~3時間、子供を預けて買い物に行きたい」といった時間単位のニーズにも対応。
(2)家庭教師
大学生のアルバイトの定番ではあるが、学生では片手間の仕事になりがちだ(自分の勉強もあるし、遊びたい)。リーズナブルな価格で徹底的に生徒に付き合ってあげられるシニア家庭教師の派遣業は受けるのではないか。学校の勉強に付いていけなくなった生徒への指導など、粘り強く時間を掛けたサービスを提供できそうだ。学生を雇うのと比べれば、教師の教育コストは掛かるかもしれないが、定年退職した教師を雇えばそういったコストも低減できる。
(3)部活動の顧問
部活動の顧問をやりたくないと思っている教師は多い。そこで、スポーツの指導経験者、武道や囲碁・将棋等の有段者を顧問やコーチとして派遣するのはどうだろうか。現役教師は教科指導に集中できるし、生徒にとっても素人の「顧問」に指導されるより望ましいのではないか。
上記のような教育サービスに限らず、他にも様々な活用がありうる。
高齢者の方々も希少な資源(労働力)なのだから、可能な限り社会で有効活用されるべきだ。また、高齢者にとっても、人から頼られている、社会との繋がりを持っているといった実感を持続することは、健康を保持する何よりの薬になるのではないか。
(注1)
以下のデータは内閣府調査を参照。なお、調査対象は60歳以上の男女(各国サンプル数約1,000)。
高橋 正人