WSJが日本の輸出大国時代の終わりを報じている。
数十年にわたり、日本は製造業の力と輸出に主眼を置いた貿易政策によって、世界中の市場に自動車や家電、セミコンダクターなどの雨を降らせてきた。 だが、その時代も終わった。日本政府は25日、1980年以来初めてとなる貿易赤字(通年ベース)を発表すると予想されている。仮に円高が続き、世界経済も弱いままであれば、日本は向こう数年間、貿易赤字を抱えることになるとエコノミストらは警告している。
この原因を数える事は実に容易い。
円高。少子高齢化に伴う労働人口の減少。訳の判らぬ多過ぎる規制。電力料金の高騰。昨日記事にした鞘取りが加速する世界経済。
そして、日本が現在直面する多くの問題は、結局この様にプロフィットセンターからコストセンターに転換しているにも拘わらず、「高度成長時代」の頃の「政治」、「行政」、「社会」システムを後生大事に維持し続けている事に起因すると考えるのである。
WSJが指摘する様に、敗戦後から1985年のプラザ合意までは、日本は教育レベルの高い労働力に恵まれ、為替も現在に比べれば遥かに安かった。
従って、原材料を安定して廉価に輸入し、安い労働力を駆使して加工し、世界に輸出し巨利を得る事が出来た。
自民党による政治は総括すれば、「政策」は官僚に丸投げし、議員の選挙区である地方であったり、特定の業界、企業に利益誘導を行い、輸出に依り得た利益を還流する事で社会を安定化したという事であろう。
無論、この資金の還流により議員は何より欲しい「票」を獲得し、当選を重ねやがては閣僚に任命された。例え、頭の中は空っぽであってもである。
一方、官僚はこれにちゃっかり便乗して、「外郭団体」を粗製乱造し、天下り先を作り続けた。
こういう事が可能であったのは、飽く迄輸出に依って巨万の利益が得られたからである。
しかしながら、これは最早過去の夢物語であり、日本に取っての喫緊課題は、「移転収支」が健在で「経常収支」が黒字を維持出来ている間に、何とか「経常収支」段階での黒字体質に国のシステムを転換する事である。
その為に必要な事とは一体何であろうか?
日本が、富を生み出す国(プロフィットセンター)から、海外からの送金に頼る国(コストセンター)に転換した事を認識し、コストを「必要悪」と捕え、負担可能なぎりぎりのリスクの範囲でコスト削減に取り組む事と思う。
元気の良い製造業はこぞって新興産業国に進出し、サプライチェーンの展開を加速する。有能な現役世代は日本に留まる事は無く、企業の先兵となって海外の現場で活躍する。
当然の事ながら、法人税、所得税、住民税は所得の源泉場所で申告納税するので日本の税務当局の関与は皆無である。規制も現地政府、地方行政に依るものであり、日本の行政は関与しない。
若い人はきっとカビの生えた古い話と一蹴すると思うが、「入るを量りて出ずるを為す」という教えを今一度尊重し、国家であれ、家庭であれ、収入に応じた支出を心がけるという「原点回帰」をすべきと考える。
支払を考えず好きなだけ金を使うというのは、余りにアホ過ぎる。使った金を子供や孫に付け回しするというのは余りに破廉恥で下品極まりない。
日本の将来を考えれば、現在の様な大きく、高コストな行政は必要ない。多過ぎる高齢者が消費する社会保障のコストや、欲張りな地方に払い続ける地方交付金を賄う原資は最早ない。
一日も早くこれらに大鉈を振るうべきなのである。
この辺りは、以前の記事、必要なのは「財政再建内閣」で説明したので、これを参照する。
先ずやるべきは、公務員改革を基軸とする行政改革と、国と地方の二重行政の解消である。次にやるべきは、膨張を続ける福祉・医療、年金といった社会保障と、貰って当然と勘違いしている地方交付金に大鉈を振るう事である。
山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役